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タバコと麻薬、そしてCOVID-19 ―パンデミック下の秘やかな攻防戦―(IISIA研究員レポート Vol.26)

昨年(2020年)以来の新型コロナウイルスによるパンデミックの中で全世界的な消費の現象が起こっている。そんな中で米国勢において消費が増加していると報じられたのが「可燃性タバコ」である。

米国勢においては新型コロナウイルスの感染拡大に伴い断続的に都市封鎖(ロック・ダウン)が敷かれる中、数十年続いていた可燃性タバコの売上高の減少が昨年(2020年)急激に減速したという(参考)。

米国勢におけるタバコの歴史は長い(参考)。

400年以上前の17世紀初頭にイギリス領のバージニア植民地で始まったタバコの生産は17世紀末になるとペンシルバニアからノースカロライナに至る米国勢東部州一帯の主要産物となった。更に独立戦争後の18世紀にはタバコの栽培は内陸部(ケンタッキー、テネシー、ミズーリ及びオハイオ)に及び米国勢はタバコの世界供給国となった。

当初主として欧州勢に向けてタバコを輸出していた米国勢において国内消費が急速に拡大したのは、20世紀に入りいわゆる「シガレット(紙巻きタバコ)」の生産が機械化されたことによってであった。従来その都度自分の手で巻いて吸うものであったシガレットの工場生産を始めたのが英国勢において創業され後に世界最大のたばこ会社となるフィリップ・モリス社であった。

急速に拡大した米国勢におけるタバコの消費が禁煙運動へと転換するのもまた急激な変化によってであった。

1996年3月に米国勢において元喫煙者らが喫煙によって肺がんなどの健康被害を受けたとしてフィリップ・モリス社をはじめタバコ会社10社とタバコ協会を相手取り損害賠償を求めるPL訴訟が行われた(参考)。同月13日に被告タバコ会社のうちのリゲット・グループが原告側と和解して以後25年に渡り収益の一部をルイジアナ州の禁煙支援活動に拠出することなどに同意した。当該和解が米国勢のタバコ業界に衝撃を与えることとなった。

近年では去る2009年に「家庭内喫煙予防・タバコ規制法」が施行されタバコの広告やマーケティングが規制され(参考)、人体への有害性が低く禁煙効果があると“喧伝”される電子タバコが広まった。2016年にはバラク・オバマ米元大統領が政府がタバコメーカーを規制する強力な権限を付与する「新タバコ規制法案」に署名したことで電子タバコを含むタバコ製品についてより厳しい規制がかけられることとなったものの、未成年者や若年層に対する電子タバコの販売規制強化が課題となっている(参考)。

(図表:電子たばこ)

電子たばこ

(出典:Wikipedia)

 

こうした中でなぜ可燃性タバコが再び吸われるようになっているのか。

そこには去る2019年夏に米国勢において発生した「謎の」肺疾患が関係している(参考)。当該肺疾患では呼吸困難、胸の痛み及び疲労感といった症状が認められ、重症の場合には人工呼吸器の装着が必要となり、更に一部の患者には生涯後遺症が残る可能性も指摘された。米国勢においては2200以上の同症例が認められ40人以上が死亡している。

この肺疾患の原因は不明であるものの罹患者が電子タバコの使用歴という点で共通していたために同国勢政府は電子タバコに含まれる成分が原因の可能性が高いと推測した。

こうした事態を受けて同年9月11日にトランプ米大統領(当時)はフレーバー付きの電子タバコの販売規制を表明した。結果として当該規制は翌年(2020年)に控えた大統領選への影響などを考慮して実施されなかったものの健康被害への懸念が広まることとなった。

新型コロナウイルスによるパンデミックへの対策として都市封鎖(ロック・ダウン)が行われる中で在宅時間が増加したことにより―職場などでは禁止されている―喫煙が自宅にいることで比較的自由にできることなどから喫煙量が増加し、電子タバコへの懸念から一部では可燃性タバコへの回帰が起こっていると指摘される。

しかしここで考えたいのが次の2つの点である。すなわち(1)バイデン「新米政権」によるタバコ規制の更なる転換、(2)麻薬ビジネスとの関係である。

まず第一に、バイデン「新米政権」におけるタバコに関わる政策の転換の可能性である。バイデン「新米政権」において今次パンデミック対策責任者として専門家パネルに参加するのがデービッド・ケスラー元米食品医薬品局(FDA)長官である。同人は長年タバコ販売の規制強化を目指し政界に敵も多いとされる人物である。そもそも先述の「謎の」肺疾患の症状は今次新型コロナウイルスの症状と酷似しているのではないか。今次パンデミックが大々的に“喧伝”される以前の去る2019年9月の段階でイタリア勢においては「Sars-COV-2」がかなりの規模で確認されていたとの情報があり、米国勢においても当該肺疾患はむしろ「Sars-COV-2」であったとも考えられる。トランプ米前政権においては電子タバコによるものとされた当該疾患がバイデン「親米政権」においてどのように扱われるのか、むしろ再び「(可燃性)タバコ離れ」の減速から再転換がなされるのかについて注視する必要があろう。

第二に重要な点は麻薬ビジネスとの関係である。

そもそも電子タバコはそれ自体による健康被害のみならず大麻やマリファナ、コカインなどを吸引するために使われていることも懸念材料となっていた(参考)。

この関係で重要なのがトランプ米前大統領が電子タバコ規制路線をとっていた昨年(2020年)11月にコロンビア勢が1999年以来初めてとなる景気後退局面に入ったことが“喧伝”された点である(参考)。コロンビア勢は世界のコカイン生産量のうち約60パーセントを生産しており、同国勢内には300を超える麻薬密売組織が存在しているとされる(参考)。コロンビア勢を巡る麻薬ビジネスの転換に伴い電子タバコとともに動かされていた同国勢の麻薬の流通にも転換が起こったことも考えられる。

「タバコ」ビジネスを巡る大転換が米国勢を中心として起こっていくことになるのか。引き続き注視していきたい。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

佐藤 奈桜 記す

 

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