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パリ協定VS地球工学 静かなる環境マウント合戦(IISIA研究員レポート Vol.20)

気候変動に対処するためのパリ協定から5年という節目を迎え、我が国も「ゼロ排出」を宣言した裏で静かなるバトルが繰り広げられている。

「CO2削減」の「代替案」として考え出され物議を醸してきた「ソーラー・ジオエンジニアリング(太陽地球工学、solar geoengineering)」が刻々と実現に近づきつつあるようだ(参考)。

耐久性のある反射粒子を高層大気に散布して太陽光を遮断することで地球温暖化を減少させようというアイデアだ。

来る2021年6月に研究用気球を試験飛行させることをハーヴァード大学の研究者らが提案した。2月に独立の諮問委員会の承認を得る可能性がある。

 (図表:太陽地球工学)

solargeoengineering

(出典: Harvard’s Geoengineering Research Program

「地球工学(ジオエンジニアリング)」はまだ生まれて間もない技術だ。環境を「操作」して気候変動の影響を一部「相殺する」ことを指す。CO2排出量の削減や気候変動に対する取り組みに取って代わるわけではない。けれど、そのような取り組みを「補完する」ものとして考えられている。

地球に降り注ぐ太陽光の量を「人工的にコントロールする」という発想に激しい反発が起こったのも想像に難くない。

昨年(2019年)3月に開催された国連環境総会(UNEA、UN Environment Assembly)で「地球工学」が議題に上った。この技術に対するリスク調査と監視の強化をすべきだとの意見が出たのだ。

これに対して米国勢やサウジアラビア勢が反対した(参考)。

石油や石炭を燃やした時に発生するCO2によって地球が温暖化するという主張を始めたのは国際連合(UN)の気候変動に関する政府間パネル(IPCC、Intergovernmental Panel on Climate Change)である(参考)。

「排出権取引」マーケットの中心である欧州勢に対して「CO2削減」以外の選択肢も持ちたい石油産出国の米国勢とサウジアラビア勢という対立の構図が出来上がっている。実は我が国はこのとき反対した側に入っている。

しかし欧州勢も本気である。昨年(2019年)10月にはマーク・カーニー(Mark Carney)英中央銀行総裁(当時)が「温室効果ガスの排出削減に真剣に取り組まない企業は倒産する」とまで発言した(参考)。

 (図表:マーク・カーニー前英中央銀行総裁)

Mark Carney

(出典:BBC

具体的には「投資家は気候変動に真剣に取り組まない企業を罰するだろう」とし、逆に温室効果ガスの排出削減に効果的に取り組んでいる企業は「大きな利益」を得ることができると「経済的な報酬」を提案した。

米政治メディアの『Politico』誌に「エコ戦士」と評されたこともある同氏は去る2015年にマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長とともに作成した報告書ですべての上場企業に対し気候変動によるリスクを年次財務報告書で開示するよう提案している。

この発言のすぐ後にアントニオ・グテーレス(António Manuel de Oliveira Guterres )国連事務総長は同氏をマイケル・ブルームバーグの後任として気候変動問題担当特使に任命した(参考)。

さらにパンデミックのため延期されている第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26、2021年11月開催予定)の金融顧問としてもジョンソン英首相から任命されている(参考)。

他方で我が国では使用してもCO2を排出しない次世代のエネルギーとして「水素社会」の実現に向けた実証実験が活発化している。たとえば福島県を新たなエネルギー社会のモデル創出拠点とする「福島水素エネルギー研究フィールド」が動作試験段階に入っている(参考)。

この対立は今後さらに激しくなるかもしれない。

 

グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst

二宮美樹 記す

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