1. HOME
  2. ブログ
  3. 「迷走する“北京オリンピック・ボイコット論”」(IISIA研究員レポート Vol.54)

「迷走する“北京オリンピック・ボイコット論”」(IISIA研究員レポート Vol.54)

今年(2021年)の夏、新型コロナウイルス感染拡大によって1年延期されるなど、紆余曲折の末に開催された東京オリンピック・パラリンピックは、去る9月5日のパラリンピック閉会式をもって日程を終了した。オリンピックの熱気が冷めやらぬ中、世界の注目は早くも、来る2022年2月4日に開幕する北京冬季オリンピックの開催に向けた動向に移っているようである。

(図表:撤去作業が進められるJR東京駅前のオリンピックカウントダウン時計)

(筆者撮影)

元来、オリンピックとはスポーツと平和の祭典である。国際オリンピック委員会(IOC)は「1992年にアスリートやスポーツの価値を守り、世界中の戦争をより平和的かつ民主的な解決に向かう道を目指して『オリンピック休戦』を提唱し、1994年のリレハンメル大会からこの取り組みは始まりました」と平和とオリンピックが不可分であることを強調している(参考)。それにもかかわらず、オリンピックが外交上の駆け引きの舞台となることはしばしば見られてきた現象であり、北京オリンピックを何らかの形で「ボイコット」することを示唆する動きもその一つである。

中でも最も注目を集めたのは、米国勢でバイデン政権を支えているはずの民主党勢の主要人物であるペロシ米下院議長の発言だった。ペロシ氏は去る5月、来る2022年の北京冬季オリンピックをめぐり、選手団以外の外交使節の参加を見送る「外交的ボイコット」を実施するよう呼び掛けた。超党派の議会公聴会で「私が提案するのは、他の人からの提案と同様に外交的ボイコットだ」と述べて、北京オリンピック参加を控えることを世界の主要国に向けて公然と主張したのである。その理由については「現在行われているジェノサイド(民族大量虐殺)を踏まえると各国首脳が中国に向かうのは実に疑問だ」と説明した(参考)。

(図表:ペロシ米下院議長)

ペロシ氏の公式HPより

今月(9月)に入ってもボイコットに向けた議論は収まらず、AP通信によると、米国勢のテレビネットワークNBCを含む大手放送局のいくつかは、来年の北京冬季オリンピックを取材する計画を中止するよう人権団体から求められているという。人権団体とはウイグル勢、チベット勢、香港勢の住民など、中国勢の少数民族を代表する団体であり、こうした団体からの要求が公開書簡として大手放送局の幹部に送られたと見られている(参考)。

表向きは、「ウイグル勢に対する人権侵害」を北京オリンピックの「外交的ボイコット」に結びつける議論が進展し、米中勢の激しい“角逐”が生じていくように見える状況である。しかしながら、別の動きが見られていることも注視しておかなければならない。例えば、米国勢のケリー気候変動問題担当米大統領特使は、来る10月に英国勢で開催される国連気候変動枠組み条約会議に先立ち、去る8月31日から我が国と中国勢を訪問した(参考)。訪中したケリー特使は、中国勢の気候変動問題担当者との協議を行い、この問題における対話や協力関係を強化することを目的としていた。アフガニスタン勢から撤退したいま、国内統治で精一杯と見られているバイデン米政権は、気候変動問題を中心に中国勢との議論を先行させていきながら、中国勢の関与を核とする「グローバル共同ガヴァナンス」への動きを強める意図があるのは明白である。こうした中で、「2022年北京オリンピックのボイコット」という言説が徐々に封印されていく可能性があることを指摘しておかなければならないだろう。

しかし、アフガニスタン勢において中国勢の関与が想定されている中、イスラム系過激派「イスラム国(IS)」との戦いなどで情勢の混迷がさらに加速しているとすれば、中国勢は米国勢と共有してきた自らの関与に対する前提条件が崩れたと認識し、他方、米国勢の中においても、中国勢との「大団円」にストップをかけるという動きが強まることもありうる。こうした動きが強まれば、「2022年北京オリンピックのボイコット」という言説の封印が解かれることもあるものと推察されるのである。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

倉持 正胤 記す

前回のコラム:「台湾海峡で激突?米中はどこに向かうのか」 (IISIA研究員レポート Vol.52)