“進化する地熱発電”で我が国のエネルギー戦略は変わるのか (IISIA研究員レポート Vol.95) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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“進化する地熱発電”で我が国のエネルギー戦略は変わるのか (IISIA研究員レポート Vol.95)

(出典:資源エネルギー庁

 我が国の環境省は、世界の平均気温は去る2017年時点で、工業化以前(1850~1900年)と比較して、既に約1度上昇しており、こうした状況が続けばさらに気温上昇が予測されると警告している(参考)。カーボン・ニュートラルを実現すべく、温室効果ガス排出量の削減が求められている状況の下、期待されているのは、様々な再生可能エネルギーの普及である。再生可能エネルギーには、太陽光、風力、バイオマス、地熱等の様々な種類があるが、導入の契機となったのは二度のオイル・ショックで代替エネルギーが求められるようになったという事情だった。今般では、再生可能エネルギーの導入拡大は、エネルギー源を多様化することによるエネルギー安全保障という側面に加えて、地域経済の振興策、気候変動対策も含むものとして、より一層定着しつつある。

多様な再生可能エネルギーの形が広がりを見せる中、太陽の熱エネルギーに由来する「地中熱の利用」、地下深くに存在する膨大なマグマから生じる「地熱発電」、どちらも利用の促進が期待されている。では、マグマに起因する地熱資源が見つかる場所とは、どのような場所なのだろうか。熱水資源が自然発生する場所は地熱貯留層と呼ばれる。これらの貯留層は地下深くにあり地表の上からではほとんど検知できない。最も活発な地熱資源は、通常、火山が位置する主要な構造プレート境界に沿って発見される。例えば、世界で最も活発な地熱地帯の1つは、太平洋を囲むように存在しており、「リング・オブ・ファイア」と呼ばれている。それゆえに、米国勢にある地熱発電所のほとんどは、西部の州とハワイにあり、カリフォルニア州は地熱エネルギーから最も多くの電力を発電している地域である。特に、北カリフォルニアにある「間欠泉乾燥蒸気貯留層」は、世界最大の乾式蒸気田であり、去る1960年以来電力を生産している。マグマは地表に近づくと、液体を通す性質を持つ岩石に閉じ込められた地下水や、砕けた岩石の表面や断層に沿って流れる水を加熱する。つまり、熱と水の存在がカギとなるのである。(参考)。

(図表:地熱地帯である「リング・オブ・ファイア」)

(出典:U.S. Energy Information Administration

 一方で、他の再生可能エネルギー源からの電力がこの数十年で大きな増加を示しているが、地熱利用は普及が頭打ちになっていると指摘されている。太陽の熱エネルギーが蓄えられ存在する「地中熱の利用」は、地球の表面から約120メートルまでの比較的浅い深さでエネルギー抽出を可能にするという自然条件がある場所にのみ存在するという制約がある。さらに深い地殻を掘り進めるには、地殻が高温で硬いためにドリル・ビットが磨耗することになり、ある深さ以上には従来型の掘削技術は用いることができないという問題もある(参考)。また、より深い1,000から3,000メートルに存在するマグマ熱を利用している地熱発電においても、そのコスト面などの課題が挙げられている。国際エネルギー機関(IEA)が昨年発表したレポートでは、地熱発電を普及させるべく軌道に乗せようという試みが思うように進展していない実態を明らかにしている(参考):

  • 地熱による発電量は、去る2020年には前年比2パーセントの増加と推計され、過去5年間の平均成長率を下回った。過去5年間の地熱発電量の増加は年間平均500メガワットで、この成長の大部分はトルコ勢、インドネシア勢、ケニア勢によるものである。これらの国々は、豊富で未開発の資源が利用可能であるため、引き続き先導することが期待されている
  • それにもかかわらず、地熱技術は昨年(2021年)から来る2030年にかけて年間13パーセントの発電量増加(平均の年間発電量増加としては約3.6ギガワットに相当)に到達する見込みは実現できない状況である
  • 発電のための地熱資源の展開を拡大するためには、コストを削減し、開発前のリスクに関する課題に取り組むための政策が必要である

エネルギー源としての豊富さは魅力である反面、地熱発電はその開発コストという課題を抱えているという実態があることがわかる。

 (図表:地熱エネルギー発電量とその将来見通し)


(出典:国際エネルギー機関(IEA

 こうした状況の下、米国勢のマサチューセッツ工科大学(MIT)のスピンアウト企業が世界で最も深い穴から作られた「ディープ地熱発電」の実用化に取り組んでいる。MITの開発チームは過去14年間、放棄された石炭火力発電所を10年以内に完全にカーボン・フリーで復活させようという研究を続けてきた。こうした方法を実践するのは、MITのスピンアウト企業である「クアイズ・エネルギー」社である。同社は深い穴を掘削するためにX線を使用して岩石を気化させることで、膨大な地熱エネルギーを抽出し、放置された石炭火力発電所のタービンや送電線を活用して発電所を建設するという大掛かりな計画を進めている。来る2026年までには試験的な地熱井戸から摂氏500度の「ディープ地熱エネルギー」を抽出することを目指しているという。つまり、同社は岩石を気化させる方法を用いて世界で最も深い穴を作り、何百万年もの間、人間のエネルギー需要を満たすのに十分な量の地熱エネルギーを捕獲することを実現させようとしているのである。(参考)。

エネルギー資源に恵まれない我が国にとっても、地熱エネルギーは大いに期待されているエネルギー源の一つである。我が国は環太平洋火山帯の一角を占める火山国であり、利用可能な地熱エネルギーが豊富に存在しているという優位性を持っている。しかしながら、世界で第3位の地熱資源ポテンシャルがある一方で、その約2パーセントしか発電に利用していないのが現状であるなど、今後の開発余地は大きいと見られる。国の長期エネルギー需給見通し(2015年7月)において再生可能エネルギーは「各電源の個性に応じた最大限の導入」を図ることを目指しており、地熱発電については来る2030年度に現状の3倍に拡大させると計画している。このため、我が国としても地熱エネルギー利用のための各種促進策を準備する構えである(参考)。

(図表:我が国の地熱発電所)

(出典:独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構

 地熱エネルギーをより効果的に抽出するための科学技術の発展、また、制度面の環境整備が順調に進展するなら、我が国は地熱発電で今後より優位な立場に立っていくことも十分に考えうる。さらには、地熱エネルギー利用をめぐる科学技術の発展に伴い、地熱発電プロジェクトは地球に存在するエネルギー資源の豊富さを“演出”することになり、「脱炭素化」への動きをさらに加速させることになるのかにも注目すべきであるだろう。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
倉持 正胤 記す

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