パブリック・エンゲージメントーあなたと知識をつなぐ場について(コーポレート・プランニング・グループの”Pax Japonica” ブログ(Vol. 4)) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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パブリック・エンゲージメントーあなたと知識をつなぐ場について(コーポレート・プランニング・グループの”Pax Japonica” ブログ(Vol. 4))

前職との関わり

3月です。雨が降ったり雪が混じったり、足元から冷える日が続きます。もちろん頭なども無防備になりがちですから、このブログを読んでくださっている方はどうぞ足先から頭まで暖かくしてくださいね。

さて、そんな寒い日に、外部機関へ行く予定が入ります。みぞれ状になった雪がまだ道端に残る7日の午後、東京大学に行ってまいりました。東京大学は一般公開をしているので、学生でなくてもそこまで緊張せずに入れます。いいことです。私の目的は一つ、光吉研究室―正式には道徳感情数理工学社会連携講座―の方々とお会いすること。弊研究所が数年前から共同研究を行っている研究室です。なぜ研究を一緒に進めているかというと…というお話はまたいずれ。私がこの研究内容をある程度咀嚼できたころに紹介したいと思います。今回は初顔合わせですからね。

しかし、なぜ私がこの仕事の担当になったのかはお話しておきましょう。弊研究所に来る前の私は、様々な専門分野と社会をつなげるというコミュニケーションに携わっていました。いわゆるパブリック・エンゲージメントという活動も多かったです。この言葉はよく、研究者が、またはルールを定める側が、自分たちが進めたい取り組みに市民の意見や考えを反映させる方法として語られます。もっと抽象度を上げて言うと、なにかを生み出す側が、それを受け取る側の反応を前もって伺ったり、取り入れたりする。そうすると、生み出すプロセス自体の質が良くなったり、その成果物がより普及しやすくなるという効果が期待できます。

 

アカデミアからパブリックへの働きかけ

例えば研究者の立場で言うと、(その研究者の専門分野、手法にもよりますが)自分の研究がどんなふうに市民に受け取られるかわからない。市民からすると、なんだか偉い学者が難しそうなことを言っている、という印象で終わってしまう。今、私は少々極端な例を出していますが、そうした場面は、読者の皆さんにも心当たりがあるのではないでしょうか。

しかしそんな時に、両者をつなげる、懸け橋になるような場所(や人)があったらどう変わるでしょうか。研究者が日々考えて、思うようにならない実験結果からもヒントを得て、次の実験や調査を繰り返しやっと何かを発見する。そんな営みの苦労や面白さは、当の本人以外にはなかなか感じられません。そこを敢えて外に見せる(発信する)ことで、研究内容への理解を得つつ「研究者その人の魅力」「真剣な研究が持つ真摯さや厳しさ、その先にある(かもしれない)成果の価値」といった面が、誰かの心の琴線に触れることはあり得ます。研究の見せ方によりますが、こうした場をきっかけに、専門的な研究分野や、研究者に対する価値観が変わっていく人たちもいるでしょう。人が対象の、例えば言語学や心理学などの分野では、市民を巻き込んだ実験と元々相性が良いですが、市民を実験の対象というだけではなく、研究を進める当事者その1としても捉えるのが、パブリックエンゲージメント(特に双方向型のエンゲージメント)の興味深い点です。

同時に研究者にとっては、自分の研究に興味を持った市民の反応や意見を直接見聞きできる、貴重な機会となります。自分が研究に感じていたのとは全く異なる面白さが、市民の側から見出されるかもしれません。次の実験への気付き、研究の発信の工夫といった視点も得られるでしょう。なにせ、市井の人々は研究の成果物を還元される(幸運にも、その研究が実を結び、何らかの形で成果が社会で使われる時になったら)、いわば研究成果の受け取り手。未来のユーザーと言い換えてもいいでしょう。自身の研究を、彼らにどう伝えるか。自分の研究を起点に生まれていくもの(社会のシステムであったり、製品であったり、新たな常識であったり)がどんなふうに受け入れられたらよいのか(受け入れられなさそうだとしたら、それは何故で、どう改善できそうか)。学会で集う、同じ専門家に対するのと同じアプローチは使えません。同業者以外とのコミュニケーションを嫌がる研究者もいるにはいるのですが、市民からの意見を研究に反映させる取り組みは、我が国でも進み始めています。

 

IISIAが目指すもの

翻ってIISIAでは、さらにその先を見据えています。研究が社会に還元、実装されるプロセスそのものが社会貢献活動になったり、よい未来を目指すからこそパブリック・エンゲージメントをもって研究成果を実装していく、という形を目指しているのです。この世界で起こる森羅万象を観察し、その知識を元に何かを作り上げていくプロセスは、そのまま科学(一定の決まりの下で体系立てられた知識)と技術(AIや創薬、私たちの日々の生活を支えているインフラストラクチャーなど)の関係にも当てはまります。このプロセスをもっと社会に向けて開き、弊研究所の掲げている使命“giving the people hope and future”の達成のためには、人々へのエンゲージメントが欠かせません。先ずはアカデミアとの共同という形から始め、科学と技術の社会実装がよい未来像の構築に寄与できるよう、取り組んで参ります。

社会貢献事業担当 櫻井あゆ子 拝