「国連解体」への序曲 ~「次なるフェーズ」に突入したウクライナ戦争~(IISIA研究員レポート Vol.81) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「国連解体」への序曲 ~「次なるフェーズ」に突入したウクライナ戦争~(IISIA研究員レポート Vol.81)

ウクライナ勢のゼレンスキー大統領は、去る4月5日(米東部時間)に国連安保理でオンライン演説を行い、「常任理事国であるロシア勢が拒否権を握っているために国連が即時行動を取ることができない」という現状に疑問を呈した上で、国連が効果的に機能することを確実にするために国連体制を改革するよう訴えた(参考)。それに先立ち、先月(3月)16日(米東部時間)には、米国連邦議会でオンライン演説を行い、「U-24」という紛争解決のための新たな同盟を創設することを提案した(参考)。

(図表:国連安保理でオンライン演説を行うゼレンスキー大統領)
(出典:United Nations

このように、ウクライナ勢を巡る「危機」は、「国連改革」「国連に代わる新たな組織」の創設という「次なるフェーズ」へと突入したといえる。では、そもそも「国連改革」を巡っては、これまでいかなる議論が展開されてきたのか。その系譜を踏まえた上で、現時点で国連が今般の「ウクライナ戦争」に対してなしうる具体的なオプションを検討したい。

まず、ゼレンスキー大統領も指摘している「国連の機能不全」だが、これは言わずもがな、ロシア勢が安保理の常任理事国として拒否権を行使しているため、法的拘束力のある強制措置を決定できず、国連として有効な手だてを打ち出せずにいることを指す。

かつて、1950年6月に勃発した朝鮮戦争においては、ソ連勢が安保理をボイコットしていたために初めて「国連軍」が編成されたが、その後、同年8月にはソ連勢が安保理に復帰し、拒否権行使という戦略に転換した。これを受け、米国勢はソ連の戦略を回避すべく、「平和のための結集」決議を成立させた。これは、安保理において常任理事国のいずれかの国が拒否権を発動したことで、国連がその安全保障の任務を果たせなくなった場合、特別臨時総会(ESS)を開催して、多数決で安保理に代わって軍隊の使用を含む集団的措置をとることができる、とする決議である。

去る2月27日(米東部時間)には、今般のロシア勢によるウクライナ侵攻を受けて、この特別臨時総会が実に40年ぶりに開催され、ロシア勢に対して軍事行動の即時停止を求める決議案が採択されたことは記憶に新しい(参考)。しかし、安保理の決議とは異なり、総会の決議は法的拘束力がなく、各国がそれらを履行する義務を負わないという点で、実質的に前述の「機能不全」を補うものとはなっていない。

(図表:40年ぶりに開かれた特別臨時総会)
(出典:United Nations

こうした「機能不全」を背景として、グローバル社会は、時に「実行力のあるオプション」を展開してきた。例えば、1999年には北大西洋条約機構(NATO)軍が国連安保理の決議抜きでユーゴ空爆(アライド・フォース作戦)に踏み切った。NATO加盟国ではないユーゴスラヴィア勢における内戦に、「人道的介入(humanitarian intervention)」という名目で軍事行動に踏み切ったわけである。また、総会の決議と米国勢の意思との乖離が生じ始めると、米国勢の「国連離れ」が加速し、特に2000年代には、米国勢は「ユニラテラリズム(単独行動主義)」の下、「行動できない国連」の決議をオーバーラップする形で、先制攻撃も辞さない「ブッシュ・ドクトリン」を展開してきた。

(図表:対テロ戦争では協力していたブッシュ米大統領とプーチン露大統領)
(出典:Wikipedia

そうした中で、「国連改革」を巡る議論も様々な形で展開されてきた。例えば、我が国は、ドイツ勢、インド勢及びブラジル勢と共に国連安保理での常任理事国入りを目指す連合「G4」の一角を占めている。我が国及びドイツ勢はそれぞれ国連の分担金の世界第3位、第4位の拠出国であり、インド勢及びブラジル勢は国連平和維持活動への二大兵力拠出国でもある。これに対し、イタリア勢や韓国勢が「G4」の試みを阻止することを目的とした「コンセンサス連合」なる活動を展開しており、その“角逐”が「国連改革」に立ちはだかる大きなハードルとなっている。

他方で、注目すべき外からの動きとして、「世界連邦運動(World Federalist Movement)」による働きかけがある。これは、国連がもつ戦争抑止力が低いことを痛感した世界の科学者・文化人たちが世界の全ての国家を統合した「世界連邦」の成立を目指すべく始めた運動である。極めて理想主義的で、悪く言えば観念的ともされるが、現実主義的・実践的な取り組みも行っている。1968年には、国連憲章第108条「改正」とは別に、第109条「国連憲章の再検討」という条項を追加する修正に積極的に関与している(参考)。長谷川祐弘・元国連事務総長特別代表も指摘しているように(参考)、今こそ国連憲章第109条を発動して、国連再編の動きを始める機会ではないだろうか。

また、新型コロナウイルスによる今次パンデミックを受けて、ゴードン・ブラウン元英首相は、COVID-19という「共通の敵」と戦うために「世界政府」創設を呼び掛けている(参考)。今次パンデミックにおいては、各国は渡航制限やワクチンの奪い合いにより、「世界政府(global government)」はおろか「グローバル停戦(global ceasefire)」すら実現できない様相を呈しているが、「『共通の敵』と戦うために」というロジックは大いに参考になろう。

(図表:「世界政府(global government)」創設を呼び掛けたブラウン元英首相)
(出典:Guardian

では最後に、ロシア勢に対して現状で国連がなしうることとして何があるか。以下、3つの可能性を検討してみたい。

(1)すでに国連総会は4月7日(米東部時間)の会合で、国連人権理事会におけるロシア勢の理事国資格を停止したが、今後は安保理の常任理事国としての資格も停止されうるかが議論される可能性もある。もっとも、これは実際、国連憲章上、可能であるのか。

この点、故・横田洋三・東京大学教授の論文「国際機構における権利停止および除名の法的基礎:マカルチック論文の紹介と論評」によると、国連における権利停止は、憲章第19条及び第5条の規定によるとの指摘がある。しかし、第19条は、分担金を2年以上滞納した加盟国の総会における投票権の停止であり、第5条は安保理の防止行動又は強制行動の対象となった加盟国に対し、権利及び特権の行使を停止するとの規定であり、ロシア勢に対しては、直接適用はできないであろう。

(2)また、安保理の表決に関して定めた憲章第27条第3項但書には、「紛争当事国は、投票を棄権しなければならない」との規定があるため、「紛争」の定義などで議論の余地は残るものの(今次ウクライナ侵攻においてロシア勢はこれを「特別軍事作戦」と主張している)、同規定の適用も、理論上は考え得るのではないか。

(3)さらに、前述の「平和のための結集決議」によって、軍事的強制措置を発動するというオプションも憲章上は可能であるという点も踏まえるべきであろう。今般の特別臨時総会は、単に「軍事行動の即時停止を求める」ものであったが、停戦勧告などの事態の悪化防止への暫定措置の要請(憲章第40条)から、経済制裁や金融制裁などの非軍事的強制措置の適用(憲章第41条)、海上封鎖などの軍事的強制措置の適用(憲章第42条)、国連軍の組織と制裁行動(憲章第43条)までの集団的措置も可能であることを忘れてはならない(参考)。

今般のウクライナ戦争が「国連改革」、ひいては「第二の国連」創設に向けた議論の序曲(ouverture)であるとすれば、多額の分担金を拠出し、「国連改革」を訴えてきた我が国がその後の壮大な交響曲(Symphonie)においてタクトを握る資格と能力は十分にあるはずである。故・桃井真・防衛研究所研究部長(女優・桃井かおりの父君)はその著書で、「日本に足りないものは、国際常識と国際空港のふたつだ」とした上で、国連本部を沖縄に誘致することを提案しているが(参考)、大いに参考になる提案ではなかろうか。ただし、「国連改革」とは戦後の総決算を意味し、そこには各国勢の思惑が通奏低音として流れていることを忘れてはならない。実際の国連は、多くの日本人が抱いているような「平和の神殿」というイメージからは程遠く、各国勢の思惑が渦巻き、国益がぶつかり合う戦場なのであり、一歩間違えれば「虎の尾」を踏むことになりかねない。国連事務総長職の権能を強化し、国連を米ソ二大国に比肩しうる存在にまで押し上げたダグ・ハマーショルド事務総長の“二の舞”とならぬよう慎重に進めなければなるまい。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
原田 大靖 記す

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