ニッポンという「線香花火」。終わらないと”次”が始まらない。(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 28)
今日(2日)朝もNHK『日曜討論』を見た。今回はフジテレビ「中居騒動」で世間が騒然としている中、NHKはというと教科書どおりに我が国国会における「予算審議」について議論を行わせていた。出席していたのは衆議院予算委員会の与野党理事の議員たちだ。自民党からは井上信治・筆頭理事が出席していた。いきなりの余談となり恐縮だが、同氏はかつて筆者が外務省欧亜局西欧第1課に勤務していた際、となりにある東欧課で総務担当をしていた。国土交通省からの出向者だとは知っていたが、どことなく飄々としたところがある人物であり、「不思議な人だ」とは思っていた。その直後に同氏は衆議院選挙に立候補し、当選した。聞くところによると我が国を代表する医療利権グループの絶対的な支持を得ての国会議員稼業だとのこと。あの独特の「飄々さ」はそうしたいわゆる銀の匙から来ていたのかと、妙に今、納得している。
さて。『日曜討論』における議論を見ていてあらためて思ったことがある。それはそこにおいて議論されているのが、「パイを配分・再配分すること」だけであり、そもそも「パイ」、すなわち我が国の国富そのものを増やすことについては一言も触れられなかったということである。国会における予算委員会は衆参両院を問わず、財務省が行政の側では所管している委員会だ。そしてその財務省はと言えば、国力を背景に税金を徴収し、それを配分する、あるいはそれでも足りなければ国債・外債を国内外に発行して国家財政を補填するということを生業としている。そうであるが故に、そもそも国力そのものを増やし、国富をとってくるという現場レベルでの作業は所管外ということになってくるのだ。「それは経済産業省に聞いてくれ」というのが財務省に言わせれば本音であろう。しかし、それでは経済産業省が優位の政権が我が国で樹立されればどうなるのかというと、それが余りにも悲惨なものとなることは、安倍晋三政権の際に私たち国民全員が痛感したばかりなのである(「アベノマスク」という失笑ものの政策を思い出して頂きたい。)。つまり、経済産業省は我が国経済・産業に刷新をもたらし、進取の精神をもって新しい価値をもたらす存在なのかというとそうではなくて、むしろ真逆の存在なのである。特定の新規産業が出来たならば、今度はその規制に入り、補助金漬けにして腐らせてしまうというのがむしろその生業なのだ。それが証拠に、「アベノミクス」における三本目の矢であるはずのイノヴェーション政策はついぞ放たれることはなかった。したがって国富は増えることはなく、むしろ借金だけが国家としては増え続けているのが実態なのだ。
だがしかし、我が国ではここに来て年間ベースで8兆円余りも税収が「増えた」のだという。ただしそれは「国富」が堅牢な形で増えたからではない。単純に量的緩和でカネ余りである中、あの手この手で増税策を財務省が図った結果、一時的にそうなったに過ぎないのである。他方で今年度(2024年度)予算については実に6兆円も余っているのだという。単純計算で14兆円近くも宙に浮いているのが我が国における現状だということになるが、それでも「足りない、足りない」と不思議な大合唱が国会では続いている。「???」と想うのは筆者だけだろうか。
我が国においては、とりわけ大企業を中心とした上場企業の中におけるカネ余りの状況がここ数年続いている。我が国政府はといえば、大局的に見て、「国富」が自前では増えないだろうということを確かに認識している。その際、厄介なのが私たち国民が依然として「親方日の丸意識」を強く持ち合わせており、「何かあったらば国が助けてくれるはず」と信じ込んでいる点なのだ。もはや破綻することが目に見えている年金制度がその典型なのであって、そうであるからこそ、岸田文雄政権では「一億総投資家」を掲げ、国民全体にグローバル金融マーケットという「鉄火場」へ突撃する様仕向けたのである。そうした中でカネ余りの政策はグレート・モデレーションを我が国において引き起こすどころか、むしろインフレを持続的に招いてしまっており、結果、日本銀行は昨年(2024年)7月末にマーケットとの対話が不十分なまま、利上げを強行。続く8月5日の「日本株大暴落」を引き起こしてしまったというわけなのだ。そうした中で「鉄火場」に新NISAという、いわば「三八式」の古い銃だけで突っ込まされた私たち国民=個人投資家は今や完全にフリーズしてしまい、それが投資だけではなく、消費全体の深い落ち込みを招いてしまっている。我が国では「コロナ期」よりも実に3割以上高い倒産件数を外食セクターにおいて抱えるに至っているのだという。それもそのはずだ、この冷え込みの中で晩酌を家しないで、享楽に耽るほど私たち国民はバカではないからだ。
ところが、大企業を中心とした上場企業は違うのだ。「出玉が株式マーケットになければ個人投資家がしょぼくれてしまうのだから、まずは政策保有株を放出せよ」とこれら企業たちは金融庁と東証に追い立てられ、ここに来て俄かに持ち合い株を大量に売り始めている。その結果、当座は大量のキャッシュ(現金)を持つに至っているわけだが、しかし成熟産業に属しているこれら大企業は、真にイノヴェーション(刷新)をもたらす成長投資など必要としていないし、思いつきもしないのである。だからといって手持ち現金を大量に保有していると「村上ファンド」らアクティヴィストたちの餌食になってしまうわけであり、これら企業はいきおい「自社株買い」か「社員たちの賃金引上げ」、さらには「配当引き上げ」に走っている。だからこそ、日本株は大型株を中心になぜか中途半端なレヴェルで株価が安定しているのであり、また上場企業では今年(2025年)の春闘でも「平均5パーセントのベースアップ実現」などと叫ばれているのである。これに対して我が国経済の大多数を占める中小企業における状況は全く違う。「賃上げ」など考えられないのであって、今や将棋で言う「アナグマ戦術」しか残された道がないというのが実態なのである。ところがそうした窮状を、「企業献金」に依存している自民党のお歴々は一向に理解しようとしない。「大企業が潤っていれば、その社員たちが賃上げで消費を旺盛にするようになり、やがては乗数効果的に我が国経済全体が潤うことになる」と我が国の官庁エコノミストたちが教科書通りに述べていることを鵜呑みにしてしまっている。
そうした中、大企業である上場企業たちは有り余るキャッシュを今度は「企業買収」に用い始めている。日産とホンダの「経営統合」論議、あるいはセブンイレブンを巡る騒動を見れば事の深刻さは先刻明らかだろう。「成長投資」を自ら思いつき、これを大輪の花にまで育て上げることの出来ないサラリーマン社長たちが率いたこれら大企業たちは、MBA教程の「定石」どおりに今や、共食いによって何とかその場しのぎをしようとしている。何せ、上述のとおり、街角景気は我が国において冷え込む一方であり、消費性向が上がってきていない以上、どのセクターであっても売上がうなぎ上りであり続けることなどもはやあり得ないのである。そうである以上、この「共食い」戦略が必勝法ということになっているのであって、そうなると企業買収の際に必ず必要となる「不祥事」が続々と摘発されることになってくる。フジテレビ「中居問題」もそうした俯瞰した観点から見る必要があるのであって、かつ「こうなること」を見越して、我が国を丸呑みしようと画策しているのが、海の向こうの勢力である時、そこにまたしても将棋でいうと「詰んで」しまっている哀れな戦後ニッポンの残像を見つけざるを得ないのである。
もっというならばこういうこと、だろう。―――「今や、ニッポンという線香花火が燃え落ちそうになっている。」
そう、そのとおりなのだ。「政策保有株」の放出による、我が国大手企業=上場企業の「にわか成金」ぶりの状況は1回切りのものでしかない。つまり「後が無い」のである。そして、いわば「線香花火」の様のその最後の輝きと共にそれが燃え落ちるのは来る7月前後ということになると弊研究所としては現段階では見ている。そう、本当の「危機」はその時、突然やって来る。ただし、「その時」はこの様に突然やって来る様に見えて、実は深謀遠慮の下、戦略的にそう「設定」されてもいる。その様にして「これまで」の戦後ニッポンが終わるのと同時に、「これまで」の戦後世界秩序も終わりの時をいよいよ告げ始めるのだ。その時こそが「その次」の始まりなのであって、そのこと、を担うべき新しい人々が力のある者として続々と姿を現し、「世直し」を至るところで始めることになる。
「この世に偶然なぞ一つもない。私は賭けてもいい。」―――F.D.ローズヴェルト米大統領のことばだ。この言葉の真意をよく噛み締めつつ、「次」に向け駆け抜けて行きたい。あくまでも、これから淘汰される「前衛」の位置からではなく、じっくりと、しかし底堅く隆起し始める「後衛」の位置から。
2025年如月の2日目 雨の東京の寓居にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す
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