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「JT子会社の資産がロシア政府の管理下に」という新事態。(原田武夫の”Future Predicts.” Vol. 104)

今、このブログは久方ぶりに関西にいらっしゃる複数の我がメンターに(少々早いが)「年末のご挨拶」をしにスタッフと共に廻り、京都からの帰りの新幹線の中で書いている。一見すると何気ない週末の始まりだ。連休でもないので車内はそこそこ座席が埋まっており、乗客の皆さんは思い思いにしばしのひと時を、移り行く車窓の風景をぼんやりと眺めながら過ごされている。「昨日と今日は同じ、今日と明日は同じ」であるかの様に思えてしまう。

しかし、である。この週末に入る直前、我が国の旧国営企業であり、株式マーケットで言うならば「資産株」として名高い有名企業にロシアが襲いかかったのである。「ロシア政府が、我が国企業「JT]の子会社の資産をその管理下に置くことにつき、プーチン同大統領が許可した事案」である。これを受けて同社株は昨日(6日)の東京株式市場で「暴落」。ドイツ語で言うならば正に「血の海(Blutbad)」とでもいうべき事態が生じてしまった。

こうした事態の展開を踏まえ、同社(及びその関連会社)がそもそもロシアでいかなる事業展開を行っていたのか、さらにはウクライナではどうだったのか、さらに言うならば総じていうと同社(及びその関連会社)による「紛争地」におけるビジネスの実態等については、ここでは論じない。それはそれとして、むしろより広く、我が国に暮らす同胞である読者の皆さんが、単に「株価が暴落、今こそ買いか否か」といった卑近な視点にとらわれることなく、今後の我が国自身がどの様な境遇に置かれることになるのか、またその結果、私たち日本勢の全員の行く手にいかなる運命が立ちはだかっているのかについて、ここでは地経学とインテリジェンスの専門家として記しておきたいのである。

端的に言うと、我が国とロシアとは「戦争状態」にはない。例えば現状、我が国からロシアに渡航しようとして、先方から査証(ビザ)が下りないということはないのだ。無論、西側諸国は「ウクライナ戦争」を理由にロシアに対して経済制裁をかけているため、ホテルや航空チケットの予約、さらには現地での一連の決済のために西側企業の発行したクレジットカードを用いることが出来ない。したがって大変「不便」ではあるのだが、しかしそれでも我が国からロシアに行けないということはない。

「当たり前ではないか。何を今更言っているのか」

そう、読者はいぶかしく想われるかもしれない。だが、「このこと」、すなわちとても単純なこの事実においてこそ、まずは全ての議論の出発点であるのだということをここではあえて確認したいのである。

なぜか?それは、私たち日本勢は「ウクライナ戦争」から明らかに裨益しており、それはロシア勢からすれば「利敵行為」そのものだからだ。軍事用ドローン開発・供与を筆頭に我が国は実のところ、「ウクライナ戦争」を契機とした「戦争経済(war economy)」から(他の米欧勢同様)裨益している。しかも「開発主義国家2(developmental state 2)」としてこれまでの旧通産省・大蔵省を中心とした開発主義国家体制から、防衛省を中心とした次なる体制へと組みなおしている中において、高市早苗政権は「防衛と経済は車の両輪」と、あたかも平時の防衛装備品拡充によるプラスの経済効果だけしかないかの様な議論を”喧伝”してやまないのであるが、その実、我が国は戦闘行為の行われている現場と直結し始めており、その意味で「戦争経済」の大車輪の中に入り始めているのである。

しかし、それでも我が国とロシアは「断交」していない。つまり、外交(diplomacy)という観点で対話のチャネルは明らかにオープンであるままなのだ。このことは「グローバル社会における梁山泊」を自認する弊研究所の視座からするととりわけ重要である。なぜならば如何に敵対的な行為であっても、それが「戦争(warfare)」ともなれば、もはや対話の余地はなく、交渉も出来ず、ただひたすら生存をかけた武力闘争だけ、になるからだ。我が国とロシアの間ではまだそうはなっていない。そしてこのことは、「文化・学術」のラインで意図的にロシア勢との間におけるチャネルを保っている弊研究所の直近における「ロシア体験」からしても実によく分かるのである。

我が国企業からすればこうした事態は「寝耳に水」であり、「親方日の丸」よろしく、「まずは政府に助けを求めよう」という気になってしまうのは良く分かる。事実、今回の事態を踏まえ、我が国は官房長及び財務大臣といった「高いレヴェル」でロシア勢を非難する声明を発出している。これはこれで、一見したところ正しい対応の様に見えなくもない。とりわけ、今後「ロシア勢こそけしからん。場合によっては一戦交えてもやむなし」ということであればなおのことこういった居丈高な反応は好ましいと言えなくもない。

だが、「被害」にあっているのは政府当局ではない。旧国営企業であるとはいっても、明らかに一民間企業なのである。そしてこれに対して居丈高な対応だけを政府当局はとっているとなると、問題の解決はこれによって早まることもあろうが、むしろ遅くなることも当然あるのである。つまり、何を言いたいのかというと、これこそが地経学(geoeconmics)的状況というべきなのであり、かつこれまで我が国におけるその識者が語ってきた様な「国土安全保障」的なそれ、ではなく、むしろ政府自身が直接当事者ではなく、グローバル展開をしている我が国民間企業自身がここで第一義的には情報収集をし、考え、動き、そして解決を求めなければならない事態がいよいよ始まったということを意味しているのである。

相手はロシア「政府」である。だが、被害を受けているのは我が国「企業」であるという状況。これだけを見ていると、外交(diplomacy)の原則は「相互主義」なのであるから、ロシア「政府」に対して我が国「政府」が出るのは当然、と言えなくもない。しかし、その結果、元も子もなくなる、すなわち「被害」を受けている我が国企業の側が延々と行政・政治プロセスに巻き込まれ、デジタル社会における一分一秒を争う利益獲得競争の中で被害をいたずらに拡大させるだけだ、ということであればもはやそれは最上の策ではないのである。すなわち「自助努力」が必要になるわけであるが、しかしながら相手はあくまでもロシア「政府」なのであって、そこで必要なのは「国家理性」としての先方の論理が何であるのかを当方は民間企業でありながら十分に知り、それに見合う形でアウトリーチを行い、もって交渉のチャネルを創り出し、ロシア「政府」の対面を一応は守りつつも、他方で当方としての「利益」は完全に守り切る様な、その様なタフな交渉(negotiation)こそが今この瞬間より求められているのである。端的にいって、地経学を必要としているのは、こうした文脈において政府は公的機関ではない。むしろそれを喫緊で必要としているのは他でもない、民間主体に過ぎない(しかしグローバルで裨益を多大にしている)企業そのものなのである。

「それではどうすれば良いのか」

そう、読者はお聞きになりたいはずだ。端的に言うと、筆者は事この局面に至ったが故に、なすべきは彼の国の最高意思決定権者に対して「直接」連絡を直ちにとり、その真意を確かめることから始めるべきだと考えている。なぜならば彼の国はその「意思」によって動かされていることが明らかだからだ。他方で外交ルートを待っていては「被害」を既に被り始めている当該企業の側を止血することが出来ないことは、我が国地方紙の記者が逮捕・拘束されたが、条約上定められている「領事面会」すらしばらくは叶わなかった最近の別の事例からして明らかなのである。つまり、企業の側は座して待っていてはならないのであって、政府や外交当局が何かと「体面」を保つために思考/行動停止に陥っている中で、端的に「トップ」へとアウトリーチし、もって交渉を開始すべきなのである。それこそが、本当の企業インテリジェンスなのであって、かつ地経学徒が語るべきこと、なのである(筆者の目からすれば、以上を踏まえずに一般論を繰り返す、さらにはロシアを一方的に糾弾して火に油を注ぐだけの御仁たちは、その肩書の如何を問わず「素人」でしかない)。

いずれにせよ、時代はここで明確に変わった。「防衛と経済は日本経済復活のための車の両輪」などと絵空事を言っている時代は終わったのである。そして政府・当局にはもはや頼れないのである。自律的に動くべきは民間主体、そして企業、さらには私たち一人ひとりの個人である。そのこと、を筆者はここで声を大にして申し上げおきたいと強く想っている。なぜならば、「事態」はここで終わるのではなく、むしろ止まることなくさらに既存秩序・体制の”解き”へと向かい、我が国は私たち日本勢もろとも、奈落の底へと向かっているのであるから。

2026年11月7日 品川へと向かう新幹線の車中にて

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト

原田 武夫記す

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