「第2のカイロ・テヘラン会談」という幻想。(原田武夫の”Future Predicts.” Vol. 103)
早いもので今年(2026年)も10月末日を迎えた。そしてマーケットとそれを取り巻く国内外情勢は動いている様に見えて、その実、何も動いてはいない。確かに「動いている」様に見える要素に関わっている御仁たちは己の存在意義がかかっているので新たな「何か」を構築した、と吹聴しがちである。しかしその実、今もなお世界は”解き”のフェーズの真っただ中にあるため、何かを固めようと思っても全くもって固まることがない。結果、全ては”解かれて”いくわけである。
しかしだからといって”解き”だけで全てが終わるというものでもない。実際には「次」に向けて”結び”の曙光が見えていることもまた事実なのである。ただし難しいのは”結び”に完全に転じたわけではないので、それをきっちり結びきってしまうと今度はたちまち(上述のとおり)”解き”となってしまう。よって”結び”に向けたフォーメーションに加わりつつも、あくまでもそこは片足を載せかかるという程度にしておき、常に身軽な立ち位置を確保する。これが今の世を行き抜くための極意なのではないかと日々痛感している。例えば言うならば「令和の白洲次郎」といったところであろうか。
私たち日本勢にとっては余りにも手痛い衝撃となるはずなのが、まもなく行われる米中ロ首脳会談であり、それは行ってみれば「第2のテヘラン会談」とでもいうべきイヴェントなのである。先の大戦の最中に行われたテヘラン会談においては、米英ソ(さらにはその直前にはカイロ会談が行われ、そこで事実上、テヘランでのアジェンダが決められたわけだが、そこには中国も加わる形で(宋美齢が実質的な中国代表団の首席であった。英語の出来ない夫・蒋介石を差し置いて))「戦後秩序」が事実上決められた。これと同様に、来月(11月)18・19日に深圳で実施される「米中ロ首脳会談」においては、これまで弊研究所が繰り返し述べてきたnew world orderである、グローバル「共同」ガヴァナンスが白日の下にさらされることになる。deep throatからかねてより聞いているところによれば、それに乗じて、韓国勢は米国勢、中国勢、ロシア勢、そして北朝鮮勢とすら「語らった」上で「北東アジア新経済秩序構想」なるものを発表するのだという。対する我が国の高市政権はというと、出無精であり、全くもって外交が不得意(というか定見がないのだ、彼女には)な、かの内閣総理大臣以下、これに対応することが出来てはいない。「世界の平和を守れるのはドナルドだけ!」と叫ぶのは良いが、そもそも米国勢からすれば、我が国はもはやカネが枯渇し始めたATMの様なものなのだから、聞く耳を持たないのである。しかるに、依然として我が国では「同盟論」をぶつ向きが多い上、あるいは己こそ「圧搾(squeeze)」されているということを悟ることなく、「自主防衛」、さらには「防衛と経済の車の両輪」などというもっともらしい議論を「開かれたインド太平洋(FOIP)」などという、率直にいうと「出来もしない大風呂敷」を広げて喧伝する向きが大勢だというのだから全くもってあきれるのである。
「何を言うか、混乱した世界情勢の中だからこそ、我が国は千載一遇のチャンスなのであって、真の独立国になる唯一無二の機会を得ていると考えるべきだ」
そう、読者の一部からはお叱りの声を頂きそうだ。しかし、である。確かに米中ロがどれだけ結託したところで、最終的に、我が国が1970年代から密に温めてきた(というか、実際に一部は実験すらした)「核保有」に踏み切れば状態が表向き変わることは変わるのである。廻りを取り囲まれた、しかも「東アジア有事」であるにも拘わらず、肝心の米軍が助けに来てくれない(というか、助けるとは声高に言うが、どうも動きが鈍い、何かがおかしい、という状況が現出する)となれば、我が国の奥底から「核保有論」が持ち上がることは間違いないのである。事実、あれほど「原子力はあくまでも平和利用のためだけ」と明言している原子力基本法があるにも拘わらず、我が国では今、「安保3文書」の改定における議題項目の中で「原潜保有の可否」が盛り込まれている。関係者は一様に「維新の会の無茶ぶりを交わすためのポーズ」と割り切っているが、今後の状況如何では、「総理のご決断」がどうなるのかは甚だ心もとないのである。そして「原潜」について一歩踏み出せば、それは原子力規制法の改正を伴うことが必死なので、「核保有」にまで行きつくのは時間の問題ということになってくる。現代を生きる私たち日本勢はよもや「国連制裁を受ける対象が我が国になる」などとは夢にも思わないであろう。しかし事態はそこまで行く可能性を常にはらんでいる。その決定的な瞬間の始まりとなるのが、上述の「米中ロ首脳会談」なのである。しかし、これを押しとどめ、あるいは参加する国々の一角を抑え込むだけの外交力は我が国に存在しない(少なくとも「政体」レヴェルにおいては)。したがって、ただただ事態は私たち日本勢の前を通り過ぎていく、かの様に見えるのである。後に待っているのは、転落の歴史の中で軍靴が再び鳴り響く状況になるだけのこと、だ。
しかし、筆者というと全くもって希望を失っていない。逆説的に聞こえるかもしれないが、かくなる転落へと陥るからこそ、かえって我が国にこそ、注目が集まって来ると信じてやまないのである。その理由はなぜか?
この「第2のテヘラン会談」に寄り集う3カ国の中に、英国勢が入っていないからである。そしてその英国勢は我が国に対してこの15年余り、アプローチし続けている。これをどう見るのか、どう捌くのかが我が国の命運を決めると筆者自身は考えている。そしてそれは何も「政体」レヴェルの話のみではないのだ。「国体」レヴェルの繋がりに基づくものであって、追い詰められ、転落する我が国がもはや全くもって指導能力を持たない「政体」に代わって、「日本国憲法を発布した」という意味で、その枠外の存在でもある「国体」により事実上リードされるとすれば、実のところ一発逆転もあり得るのである。そしてそのレヴェルでの決断と行動は、所詮「政体」レヴェルの集団に過ぎない「第2のテヘラン会談」の主人公たる3か国を(いかにこれらが大国であろうと)一気に吹き飛ばすほどの勢いを持つものなのである。そして筆者が知る限りにおいて、米中ロの「内奥」はいずれも、”このこと”を十分知っている。だからこそ、あえて居丈高に我が国に対する圧搾(squeeze)を続けているのである。
その意味で更なる怒涛となるのが来月(11月)であるわけだが、そうであるが故に筆者自身は再び世界中に向けた旅に出ようと思っている。あくまでも今は「外側から見た我が国」を知ることが重要だ。そしてだからこそ、次を担う気概を持ち続けなければならない。やがては「幻想」に終わることになる、我が国をあえて抜きにした「第2のカイロ・テヘラン会談」を超えて。
2026年10月31日 東京の寓居にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す
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