NY雑感。あるいは「トランプ不在の米国」について(原田武夫の”Future Predicts.” Vol. 82)
5日から米国のニューヨークにスタッフと共に来ている。当地で開催中の国連経済社会理事会「科学技術イノヴェーション・フォーラム」の関係者会合に出席するためだ。国連というと我が国ではたいていの場合、安全保障理事会における舌戦がとりあげられがちだ。しかしそれは国連が行っている活動の一部に過ぎないのであって、とりわけ民生分野においては経済社会理事会(ECOSOC)、さらにはその上部に位置する総会(GA)が大きな役割を担っている。今回のこの会合は11回目であり、筆者は弊研究所の姉妹団体である日本グローバル化研究機構(RIJAG)が同理事会に対する諮問資格(consultative status)を有していることから、全体会合及び分科会において正式に出席することを許された次第である。
今回出席したのにはもちろん理由がある。現在、国連大学からの呼びかけを踏まえ、世界で最高峰とされる科学系出版社であるSpringer-Nature編集部が担当する「国連大学AI叢書」の一環として1冊、拙著を上梓する予定であり、来年前半の出版に向けて英語で執筆を重ねている。詳細については、まだ出版契約を締結したばかりであるのでこの場では詳らかに出来ない点をお許しいただきたいが、端的に言うと「失われた30年」を経た我が国が、人工知能(AI)の社会実装をこれから本格的に行うことで、どの様な形の「復活モデル」をグローバル社会全体に提示出来るかという点が最大の関心事項である。もっともこの様に云うと、例えば政府部内で始まったデジタル庁の力作・国産LLMを軸としたデジタル基盤「源内」の中央省庁への実装であるとか、あるいはドローンを中心としたAI統合基盤をベースとした我が国発の防衛装備品の大量輸出を通じた経済復興といった話の様に聞こえるかもしれない。しかし全くそれは「違う」のであって、もっと必然的に起こる現象の数々をベースにした時に、そこで下されることになる我が国の重大な決断がいかなる形で人工知能(AI)の実装によって加速されることになるのか、結果としてそれが新たな統治ガヴァナンスの形を創り出していくことになるのか、について学術的に論ずるのが今回の企画である。かつて2017年にロンドンより同じく英文著作として「Pax Japonica. The Ressurection of Japan.」(Lid Publishing)を上梓したが、その時には「何故にパックス・ジャポニカ」が実現されるのかという点について、最終的には問いかけで終わってしまい、その実現の道のりについては書けなかった自分がいたことを今でもまざまざと思い出す。あれから、10年余の月日が経ち、遅ればせながらようやくここに来て、「パックス・ジャポニカとは一体何であるのか」について明確に述べることが出来るようになったというわけなのである。
しかしこの様に述べると多くの読者の皆様からは必ず、この様な御言葉を頂戴する。―――「やっぱりニッポンは最後の最後に残る存在なのだ。素晴らしい存在なのだ。そのことをようやく書いてくれるわけだから大いに期待している」
大変申し訳ないが、今度の拙著は、実のところそうした期待と全くもって相反することをあらかじめ告知しておきたい。なぜならばニッポンと私たち=people on the streetが観念している存在は今や、1973・4年を頂点とする「高度経済成長」によってもたらされた経済的な果実を「遺産」として享受しているにすぎず、ただただ「慣性(inertia)」によって動いているだけに過ぎない、実に情けない存在だからだ。そしてそうした経済力をもたらした契機は私たち=people on the streetが真面目であり、器用であり、団結力があったからだとしばしば説明されるわけであるが、そうした世情しられる「美徳」の多くは既に失われており、むしろ怠惰であり、環境に適用できず不器用であり、かつ何かというとハラスメントを気にしてお互いに会話をせず、団結など絶対にしないのが私たち=people on the street in Japanの実態だからだ。そうしたところからひねり出したところで、所詮何も出て来るわけはないのであって、むしろ「問題が集積し、これ以上は立ち行かなくなるから、やむを得ず選択を下す」ことによってこそ、その次の展開が見られるのである。今度の拙著ではそれが最終的に、天啓とでもいうべき流れの中、3つの階層でそれぞれ人工知能(AI)が社会実装されることを通じ、大変革が制度配置の転換という形で生じることになるという流れを学術的に、しかも国内だけではなく、むしろSpringer-Natureの目線で許容出来る(残念だが我が国の「有名な学者」の皆さんの論文はその目線で言うとほぼ、却下されるレヴェルである)国外における研究をベースに紡ぎ出すことを目的としている。したがって感情論や、精神論、更にはスピリチュアル論としての「日本人優位論」ではないことをあらかじめお断りしておく。
今回、NYは15年ぶりにやってきた。正直、まず驚いたのがその間に生じた圧倒的な「情報・知能革命立国」米国勢の経済的な本拠地であるこの街は、明らかに完全にリニューアルした、という事実である。特に驚いたのがかつては戦前か戦後まもなくに造られたような鬱蒼としたビル群の街であったのが、多数のインテリジェント・ビルが林立しており、非常に印象深い光景を展開している。そして何よりも、かつては街中のどこにいっても漂っていた、何とも言いようのない下水の臭いが全くしなくなっている(これは筆者だけの印象ではなく、同行した「鼻の利く」スタッフも何も言っていないのでそう感じているのだと思う)。
そして何よりも印象的であったのが、この街では「トランプ」が全く感じられないということである。国民を分断し、それをあたかも選別するかの様な言動を繰り返すトランプ米大統領とその一味であるが、ニューヨークはというといつもながらのmelting potである。ただしそこにはかつて見られたような不法移民たちの悲壮感といったものが見られず、むしろある種の余裕すら感じられるのがこれまた印象的であった。明らかに、何だかんだといって「リーマン・ショック」を経てもこの国に世界中から富が集積し、それが広く薄くではあっても、この国に暮らす人々に均霑されているのがよく分かるのである。
「トランプ不在」というのは国連経済社会理事系の今回の会合においても全くもってそうであった。米国は「ホスト国」であるはずだが、全くもって姿を感じさせない。むしろ、アフリカ諸国などと連携して様々な提案をしているのは中国であり、ロシアなのであって、それにインドネシアやサウジアラビアと言った諸国が連なっている。しかしそうした中において我が国はというと、ほとんど姿が見えない。この会合の上部に位置する「賢人委員会」には確かにわが国有数の研究者(数学者)の方が属されており、今回、ご挨拶させて頂いた。しかしそれは明らかに「個人」としての業績をハイライトされてのものであろうことは、その前後の流れから分かるのであって、我が国国内における「科学技術政策」の最先端が語られたとしてもそれに関心を寄せる向きは残念ながらほぼ皆無なのであった。
我が国にいるとどうしても毎日が「トランプ!トランプ!トランプ!」の様に思えてしまう。しかし、何のことはない、実際にこちらに来てみると全くそうではないのであって、とりわけ民主党系の鼻息の荒い市長が選ばれたばかりのこの街ニューヨークはというと、「トランプ」「MAGA」などどこ吹く風といった実態なのである(危惧されていた入国審査もアッと言う間に済み、正直、拍子抜けした)。我が国における「米国像」こそ、彼の国の国務省を中心とした当局が日々展開する「戦略的言説(strategic narratives)」にしてやられているのではないだろうか。あるいはもっといえば、「トランプ一本足打法」とでもいうべき依存度を見せる高市早苗総理大臣以下の「政体」リーダーたちの意向を組んだ論調操作にしてやられているだけなのではないだろうか。
いずれにせよ、世界は広い。圧倒的に広い。トランプがどんなに日々叫んだところで所詮、それ程度、なのである。圧倒的な「軍事力」「防衛力」などといっても、結局はそれ程度であるということは、イランとの「大団円」を見れば分かるのであって、それに対して急ごしらえの「国家情報局」などをつくって今更ながらスパイごっこを国ぐるみでしたところでそれは全くもって「お門違い」だと思うのは筆者だけだろうか(なぜならば、そもそもそこでのインテリジェンスで用いるツールの統合基盤がOSであれ、AIであれ、はたまたインターネット、衛星回線であれ、全て海の向こうに依存しているわけであるから、それに乗る限りは全くもって「インテリジェンス」はあり得ないのである。Rulebookを変えるという発想がなければ、それは全くもって機能しない)。
筆者そして弊研究所は以上の視点に立ち、全く違う角度、そしてレヴェルから更に着実に前進していきたいと思っている。多くの方々、特に若者たちが寄ってきては去り、寄って来ては去る中、寂寥感がないわけではない。しかし「役割」は役割なのであって、それは克己心とも無縁であり、はたまた欲望とも関係がなく、時間と空間、さらにはその向こう側を司っている存在との関係で果たすべき責務に他ならないと、ニューヨークに来てなぜかしら素直に思えるようになった自分を感じている。あとは・・・徹底的にやるだけだ。旅は、まだまだ続いていく。
2026年5月7日 ニューヨーク・かつて父が定宿としていた”The Prince Kitano Hotel”にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す
(*弊研究所では引き続き、こうした「次の次」の時代を共に創造するメンバーを募集しています。こちらとこちらの記事をご覧頂き、是非ご関心のある方は「Pax Japonicaに対するご自身の想い」を400~600字以内でまとめた上でメール(recruit●haradatakeo.com(●は@です))までご連絡下さい。皆様のご応募をお待ちしております。)