『WorkとJob。こういう人物と一緒に仕事がしたい』 - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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『WorkとJob。こういう人物と一緒に仕事がしたい』

おはようございます。原田武夫です。

今、新年度を控えて各社共に採用シーズンの真っただ中だと思います。私たちIISIAでも既に採用内定をお出ししている新規メンバーの皆さんも含め、現在同じく採用活動を行っています。その観点からひと言書いておきたいと思います。

かつてかの大前研一氏でしたでしょうか、こんなことを書かれていたのを思い出します。
「ヴェンチャー企業は人を喰って成長して行く」
大規模な内部留保を抱えた企業とは違って、生まれたばかりのヴェンチャー企業はカネと共にヒトが絶対的に足りません。確かにそこに働いているメンバーはいるのですが、法人としてのヴェンチャー企業の成長の方が遥かに速いため、追いつかないのです。事業ポートフォリオも拡大の一途を辿るのが常であるため、ヴェンチャー企業のメンバーは一人二役、三役を努めなければなりません。そのため、「名誉ある戦死」ではありませんが、バーンアウトするメンバーも大勢出てきます。それでも前に進まなければならない、そんな日々が続くわけです。

そうした状況を時に内部にあってもこう揶揄する者たちがいます。
「ヴェンチャー企業の従業員が退職するのはメンバーが悪いのではなく、未熟練な経営者が悪いのではないか」

私は経営コンサルティングを一つの生業としているため、多くのヴェンチャー企業経営者の皆様を知っています。そしてお蔭様で間もなく創業10年を迎えるヴェンチャー企業の経営者でもあるという自らの経験と反省を踏まえつつ、この点について言うならば、一点を除いてこうした揶揄はあたらないと考えています。なぜか。

ヴェンチャー企業経営者は例外なく全身全霊、全てを賭けて経営の任にあたっています。「従業員」というステータスでは、例えば自らの命をかけて、すなわち生命保険をかけて資金調達をすることなど全く想像もつかないでしょう。また良い時ばかりではありません。「悪い時」、すなわち売上が激減した時には自ら、さらにはそのファミリーの資産を全て投げうってでも大切な従業員たちの雇用を守るか否かという判断を迫られます。従業員諸君もついていくのは大変ではあるのですが、他方においてその命までもが摩耗することは、余程の「ブラック企業」でない限りはあり得ない。しかし経営者自身は違うのです。下手をすると生身の人間の「命」そのものがすり減っていってしまう。そうした例を私はこれまで数多く見てきました。

それでも、なぜやるのか。―――自らが行うべき仕事が単なる流れ作業としてのjobではなく、真に命(めい)を受けておこなうべきdestinyとしての「work」であると認識しているからです。そしてそのために全てを投げうってでも行わなければならないという突き上げるものがあるわけです。そのいわば”表現(art)“として企業経営がある。私はそう確信しています。

採用シーズンの前提としては、離職者がいる場合がほとんどです。これもまた極めて普通のことです、とりわけヴェンチャー企業においては。それではなぜ離職者が生まれるのかといえば、端的に言うと一点だけ、経営者にどうしても足りなかった点があると思うわけです。それは自らが日々感じ取り、胸の奥底から突き上げてきているdestiny、そしてそれが指し示す「在るべき世の姿」そのものをメンバーたちに伝えきれていないという点です。様々な手練手管、手法があることは事実ですが、正直言ってこれはほぼ不可能に近いと言わざるを得ません。

多くの場合、最近のヴェンチャー企業はこの点について胡麻化しています。シリコン・ヴァレー流のアントレプレナーシップがなぜスピードを加速させるのかというと、率直にいって従業員諸君にこのことを考えさせないためです。そしてストック・オプションという架空のマネーを目の前にぶら下げることで若者たちを走り続けさせます。そうした姿を見る限り、それは単なる「ファッション」なのであって、命(めい)やdestinyとは全く無縁であるように思います。経営者についてもシリアル・アントレプレナーなどというものが流行っていますが、ヒトには命がたった一つしか無い以上、全くもって絵空事、お遊びであるという感を強くします。

その業態上、非上場を前提としたヴェンチャー企業があります。全くもてはやされることはありませんが、それは外部のステークホルダーたちがこれに関わって大儲けできないからです。しかし何故に非上場が前提になるのかといえば、それはそこで経営者が前提としている命(めい)、そしてdestinyが極めて強く、その経営者そのものという「現存在(Dasein)」と結びついているからです。
そうした場合、ちょうど脳内の全てを他者のそれに転移させることが不可能である以上、経営者は自らを支えてくれるメンバーとの間のミスコミュニケーションに悩み続けざるを得ません。これは宿命であって、変えることが出来ないわけです。結果、離職者は当然、次々に出て来る。いろいろなドラマがそこで繰り広げられます。

10年にわたり経営者としての経験を積んできた立場から私は採用の現場において、必ずこう、候補者の皆さんに尋ねることにしています。

「あなたにとって、人生で一番大切なことは何ですか」

・・・”初めに、言葉、ありき。”
ヴェンチャー企業にとって重要なのは、そこでファウンダーである経営者が感じ取っている命(めい)と従業員の想いが重なるか否かです。そして、この採用面接における何気ない問いかけと、それに対する無意識の答えにこそ、その後の全てが実は投影されることを私は知っています。その瞬間に、経営者が抱いている命(めい)、そしてdestinyと、まだそれほど言葉を重ねていないにもかかわらず、時に全く同じことを言う人物こそ、synchronicityが微笑み、ヴェンチャー企業を次のステージへと確実に進めてくれる恵みとして与えてくれる賜物だからです。そして現実にそうした瞬間、というものはあるのです。必要な時に、必要な形で。

去りゆく者には心からの感謝の念を捧げつつ、今日も前に進んで行きましょう。
そして強く想う「在るべき世」に向けて、必ず、そう必ず、命(めい)やdestinyが重く、深刻なものであればあるほど、synchronicityはある瞬間に、真っ黒い暗闇から一筋の光をくっきりと見せて来るはずです。その瞬間が到来することを信じて。具体的にイメージしながら・・・。

「救い」はある。
そう私は初めから信じています。“男一匹、生きていく”とこの世で決めた時から。

それでは。今日も佳き1日をお過ごし下さい。
合掌。

2017年2月7日 東京・丸の内にて

原田武夫記す

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