未病という名の病気~なぜ今注目を浴びているのか~ - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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未病という名の病気~なぜ今注目を浴びているのか~

既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃になる。徹底した規制改革を宣言した安倍晋三前首相の言葉を覚えている方は多いだろう。国家戦略特区については様々な視点から議論がされる中、この度「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」の一つである、「キングスカイフロント」へ訪問した。そこでは官民や外資系企業など世界最先端のイノヴェーションの場が広がっており、今回はその一つである神奈川県⽴保健福祉⼤学⼤学院 ヘルスイノヴェーション研究科の研究活動「未病」に言及しつつ、現代における高齢化社会の課題解決にもつながり得る可能性について以下の通り論ずる。

<キングスカイフロントの研究棟>

(参照:筆者撮影)

1.2000年以上続く「未病」とは
「キングスカイフロント(King Sky Front)」は羽田空港に隣接しており、殿町に国家戦略特区として設けられた地区である。ライフサイエンス・環境分野を中心に世界最高水準の研究開発から新産業を創出するイノヴェーション拠点の整備を進めており年々発展し注目を浴びている。元々は工場があった場所だったが、移転に伴いキングスカイフロントの建設が始まった。その後2011年には「国際戦略総合特区(京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区)」に指定され、2014年には「国家戦略特区」に指定された。現在では、約40haに及ぶこのエリアでは、約70機関と約5000名の職員が働き、健康・医療・福祉、環境といった課題の解決に貢献するとともに、この分野でのグローバルビジネスを生み出すことで、日本の成長戦略の一翼を担っている。

今回は2019年から現地で活動をしている神奈川県⽴保健福祉⼤学⼤学院のヘルスイヴェベーション研究科(以下SHI)及びイノヴェーション政策研究センター(以下CIP)を訪問した。SHI及びCIPでは、少子高齢化社会に伴う課題に対して社会解決を図る研究は成されている。その中でも、「未病(ME-BYO)」という概念に特に力を入れて取り組んでいることから以下紹介したい。

この概念は元々東洋医学に由来しており、2000年以上前の中国の書物『黄帝内経素問』にも「聖人は未病を治す」という記載がある(参照)。神奈川県ではこのコンセプトに着目し、キングスカイフロントのSHI・CIPで研究や社会実装が進められている。従来の概念では、健康か病気かという二分法で捉えられており、病気になるまでは健康状態とみなされ、体に異変が生じた際に病院に行くことが当たり前とされている。そしてこの病気か健康かという境界線を創っているのが政府や病院である。こうした「病気を治療するアプローチ」から「病気を予防するアプローチ」を図るために「未病(ME-BYO)」の研究と社会実装が進められている。

<「未病(ME-BYO)」のコンセプト>

(参照:未病指標プロジェクトHPより

2.個人の健康状態を指数化する
具体的には、病気が0で健康状態が100とすると、現在の地点から病気や健康に対する距離を指数化し、日頃より未来の健康リスクを知ることを目的としている。当然こうした指数化はこれまでの高齢化社会における高齢者だけではなく、若者に対しても対象としており、この点が重要なポイントである。現状の進捗としては国内では既にアプリが導入されて日々の健康インデックスを知り、若者も含めた社会全体の行動変容を起こす取組みが成されている。

取組みは国内のみならず海外からも「ウェル・ビーング(well-being)」の一環としてこの取り組みが注目されている。例えば世界保健機関(WHO)では1947年に採択されたWHO憲章(世界保健機関)から「Well-being」という言葉を明記しており、この概念を具現化するためにWHOではICOPE(Integrated Care for Older People)を打ち出し、”高齢者向け”の概括的なケアを打ち出している。また、先行研究を鑑みると海外における「ウェル・ビーング(well-being)」の関連研究では、「サクセスフル・エイジング」という分析手法があり、人類が歳を重ねる「エイジング」から発展させ、どういう過程を経ることが重要であるのかという研究が重ねられている。

<図:これまでのサクセスフル・エイジングモデル>

(参照:John W. Rowe,『Successful Aging』(The Forum)

3.新しい「ウェル・ビーング(well-being)」
こうした学術的系譜を辿ると、不十分な点がある。例えば、WHOのICOPEについては“高齢者向け”の包括的なケアとして高齢者の健康の維持にフォーカスを置いている。また、学術面においても、サクセスフル・エイジングの第一人者であるBaltes(1996)は心理学的安寧と自我の統合が与える“高齢者”のサクセスに注目しており、その後の研究においても高齢者の発達過程に注目している(参照)。

上述の様に焦点が“高齢者”に傾斜してきた学術的系譜を鑑みると、今回訪問したキングスカイフロントで進められている研究はすべての世代の参画を伴うという点で新しい視座を国内外に与えるだろうと愚考する。現代の我が国社会の現状を見渡すと、我が国人口問題の有識者が「2100年に8000万人目指すべき」と提言されたが、果たしてそうした議論が我が国の「ウェル・ビーング(well-being)」に繋がっているのだろうか(参照)。

<図:提言書を受ける岸田総理>

参照:日経オンライン)

本当の意味での市民参画が新しい視座の下実現されれば、それが「ウェル・ビーング(well-being)」を新しいフェーズへと移行させると共に、グローバル社会に対して課題解決のロールモデルを示し「Pax Japonica(パックス・ジャポニカ)」の実現に繋がるのではないだろうか。今回の訪問を通じて上記の今後の可能性に期待したい。

コーポレート・プランニング・グループ
岩崎州吾 拝

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