エボラ出血熱”再燃”とワクチン開発の闇(IISIA研究員レポート Vol.32) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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エボラ出血熱”再燃”とワクチン開発の闇(IISIA研究員レポート Vol.32)

ギニア勢においてエボラ出血熱が発生している。

これまでに少なくとも18人が発症、9人が死亡しているという。

エボラ出血熱と言えば去る2013年から2016年の間にリベリアやシエラレオネをはじめとして西アフリカで1万人以上の死者を出した流行は記憶に新しい。

実は今次エボラ出血熱の感染拡大が5年前までの流行の際に感染した人から広まっているのではないかと言われている(参考)。ギニア勢で流行しているエボラウイルス株が2013年~2016年に流行した際のものとほぼ同じであることがゲノム解析で判明したのである。

これまで主張されてきたように野生動物から人間へと種を超えて感染した際にエボラ出血熱として致死率の高い病気となるという説では、ウイルス株が5年前のものとほぼ同じものとなる可能性は低い。

このことから今回の感染は前回の流行の際に生存した人の中で眠っていたウイルスから始まっているのではないかと考えられているのである。

(図表:エボラウイルスのライフサイクル)

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(出典:Wikipedia

エボラ出血熱はいまだ有効な治療法が確立しておらず、その治療は対処療法に限られている。こうした中でギニア勢において先月(2021年2月)、医療従事者に向けたエボラ出血熱に対するワクチン接種が始まった(参考)。同国勢のラマ保険相は「6週間でエボラ出血熱を根絶できる」と述べている。

そもそも感染症に対する治療薬やワクチン開発には大手製薬企業は消極的な傾向にある。

例えばガン関連市場などに比べ、感染症では流行が終息すれば投資も下火となり、またウイルスがなくなれば臨床研究も困難になるためである。過去にはSARSの流行時などにワクチン開発に着手したものの臨床試験の段階で感染者がいなくなってしまったという事例もある(参考)。エボラ出血熱に対する治療薬やワクチンも2016年の段階で同様の経過を辿った。

(図表:エボラウイルスのビリオン(電子顕微鏡))

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(出典:Wikipedia

こうした点に鑑みれば、前回の流行時と「ほぼ同じ株」を持つエボラウイルスの流行は、当該ウイルスに対する治療薬やワクチン開発をしていた会社にとってはある種“朗報”ともなろう。

前回の流行時にある程度、効果が検証されていた候補治療薬としてはブリンシドフォビル(米・シメリックス社)、ファビピラビル(富士フィルムホールディングス傘下の富山化学工業(4518))、TKM-エボラ(ファーマシューティカルズ社)、MB-003(米・マップ・バイオファーマシューティカル社)、BCX4430(米・バイオクリストファーマシューティカル社)、AVI-7537(米・サレプタセラピューティクス社)がある。また候補ワクチンとしてもNIAID/GSKエボラワクチン(米国アレルギー感染症研究所(NIAID)とグラクソ・スミスクライン社(GSK)による共同開発)、Newlink/Merckエボラワクチン(カナダ国立微生物学研究所公衆衛生局(PHAC)が開発、米・ニューリンク・ジェネティクス社(現在はメルク社)が製造)、エボラΔVP30ウイルスワクチン(東京大学、米・ウィスコンシン大学及び米国国立衛生研究所(NIH)による共同開発)がある。

エボラウイルスについては弊研究所が指摘してきた通り、「コースト計画」との関連が注目される(詳しくは「IISIAマンスリー・レポート」2014年11月号参照)。

エボラウイルスはアパルトヘイト下で作られ、撒かれたものであるというのである。

こうした点からすれば、今次エボラウイルスの流行において―これまで言われてきたような野生動物からの感染では説明がつかない―ほぼ同一の株による感染は「生存者の中で5年ものあいだ眠っていた」とするよりもより明白な、そもそも同じウイルスが再度拡散されていると捉えるのが妥当ではないか。

エボラウイルスに対する治療薬やワクチン開発をしていた企業は上述の通り米国勢、カナダ勢及び我が国に集中している。今回のエボラ出血熱の流行により一旦はストップしていた臨床研究が再開され、治療薬やワクチンが「完成」するのだろうか。

エボラ出血熱の致死率は50パーセントから90パーセントとも言われる。

治療薬やワクチンによりエボラ出血熱は流行のサイクルがしばしば巡ってくる「死なない」感染症となっていくのだろうか。引き続き注視してまいりたい。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

佐藤 奈桜 記す

 

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前回のコラム:知られざるマイクロ波の世界―殺人光線か次世代エネルギーか?(IISIA研究員レポート Vol.30)

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