「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第8回 マネージメント~ - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第8回 マネージメント~

さて、今回は「日本企業が直面する課題」の中でも一番の課題となるマネージメントをテーマにしたいと思います。

日本国内にあってもマネージメントは企業にとって重要な課題となりますが、海外拠点でのマネージメントは、部下の大半が文化も言語も異なる人々であるが故に舵取りが一層難しくなるのは想像に難くないでしょう。マネージメントの何たるかはこちらのブログ読者の方々の方が余程良く御存知でいらっしゃると思いますので省略するとして、まずは、欧米社会で勤務しマネージメントをしていく上で念頭に置くべきは、欧米社会が「権利」社会であり「契約」社会であるということを申し上げたいと思います。

日本人的な感覚では、「権利」は「義務」の遂行の上に成り立つものと勘違いしがちですが、義務は遂行しなくとも「権利」だけは要求するのがごく一般的な欧米社会の在り方と思っていただいて良いぐらいです。ですから、自らの「権利」には非常に敏感です。些細なことでも自らの権利が侵されることであればとことんまで戦う姿勢には、その労力を仕事に回せば。。。と違う意味で感心してしまう程です(笑)。その「権利」を守ってくれるものが、労働法であり、労働協約でありまた個人の労働契約書となりますから、そこそこ皆労働法に詳しいです。そしてそこで謳われる「権利」は全て享受する一方、契約書に記載される仕事内容以外は「それは自分の職務ではない」と放棄するのです。

勿論単なる一般論ですから、日本人よりも日本人っぽい欧米人もいれば、日本人でもこういうタイプの人もいるでしょう。が、一般的に見てこのような考え方を持つ人が多い中でマネジメントをしていくわけですから、管理する側でも、その国の労働法をある程度理解する必要があることがお分かりかと思います。駐在として日本から赴任してきている方々にとっては、3年程度しか滞在しない国の労働法まで理解するのは無駄骨にしか思えないかもしれませんが、きっちりと被雇用者が労働法で保護されている欧米の国々では、何かと労働法やそれに付随する労働協約及び雇用契約書を盾にとって彼らが様々な要求をしてくる可能性があることを考慮すべきです。本来であれば人事に任せておけばいい話なのでしょうが、本社が別の国にある場合等、拠点がある国の法律を理解している人間があまりいないような場合もあり、管理側で判断基準が曖昧になっているような例も散見されます。

一方で、欧米の労働法をきっちり学べば被雇用者がどのような権利を持つべきか、日本が遅れている点を理解できるという利点もあります。有給休暇の取得義務化が昨年度話題になりましたが、5日の取得義務化について議論している姿は国際的に見て寧ろ恥ずかしくもなるレベルであり(因みにフランスの法定休暇は35日)、国外にいると日本が後進国扱いされる所以が納得できます。個人的な例となりますが、産休後時短復帰をしようとしたところ、フランスの法律では被雇用者が時短復帰を望む場合1年以上継続勤務していれば必ず受理されねばならないことになっているのですが(勿論法に則った手続きを取る場合)、赴任で来ていた日本人上司も日本人事務所長もフランスの法律を正確に理解しておらず、こちらの希望を却下しようとするので、労働法の説明から始めて状況を理解してもらわねばならず一苦労した覚えがあり、正直、人事で労働法ハンドブックでも作成するなりして欲しいものだと心から思った経験もあります。いまだに日本ではマタハラ等も聞きますから、日本人的には当たり前のことをしているとしても、欧米人相手には訴えられかねない対応を気付かぬうちにしてしまっていることもありますので注意が必要です。

もう一つ重要なのが、前回も書きましたが欧米社会が「階級社会」であるという点です。社会的にも「階級社会」ですが、社内でもヒエラルキーが非常にはっきりものを言う社会です。「下」は「上」に従うものであり、その逆はありません。つまり、ヒエラルキーが下の者が上の者に何を言っても基本聞き入れません。お願いをして何とか協力を頼めても、下の者からの催促は彼らが一番嫌うところであり、ただ待つしかできないのです。ですから、国内本社のように人数が多くないにも拘らず、日本本社と同様のレベル区分を無理やり当てはめヒエラルキーを細分化すると管理が非常に複雑となります。日本人部下Aに外国人部下Bと協力するタスクを与えても、BのレベルがAより上であると、Aの言うことはまったく聞き入れてくれないという状況が起こりうるからです。社内の調和を崩さず、できる限りの協力関係を生み出すためには、いくつかのポストは勿論作らざるを得ないにしても、ヒエラルキーの細分化だけは避けておくほうが無難です。そもそも数年しかいない駐在よりも長く勤めているローカルのほうが知識をもっている点などもあるわけですから、下手に差異をつけてしまうと「何も知らない新人が何故自分よりレベルが上なんだ」等、反感を買うだけで協力を得るのが難しくなってしまい、その果てには誰の言うことも聞かないモンスター・ローカルが出来上がってしまう可能性すらある点に注意が必要です。

世界に羽ばたくグローバル人財たるには、是非、「如何にローカルの協力を得られるかが、国外拠点での最大のマネージメント・タスクである」ということを肝に銘じておいて下さい。

【プロフィール】

川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。     現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。

リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得       主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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