「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第6回 利益感覚~ - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第6回 利益感覚~

週末のパリはクリスマス直前で、普段は日曜日開店しない店やデパートも大勢の客で賑わっており、例年通りのノエルを迎えようと皆が準備する一方で、クリスマス・ミサを狙ってテロが行われる可能性がニュースで繰り返し流され、日常と非日常の境界が徐々に曖昧になりつつある感が強くなっておりますが、皆様は素敵な一年をお過ごしになられましたでしょうか。

さて、今年最後のコラムではグローバル人財に求められる「利益感覚」について書かせて頂こうと思います。

最初の職場が外務省であり、「国益」を守るというのが大義名分化しているとはいえ、外交を行ってる立場では誰もが少なからず己の中にこうした矜持を持っているのが当たり前であった職場にいた自分にとって、属する「企業」のためでも何らかの目的や意思の達成のためでもなく、ただ「仕事をする」ということに満足している人材が如何に多いかという現実に実は驚きを隠せないのが本音です。我々の親世代のように「勤めている企業のために身を粉にして働け」とか「会社が全ての企業戦士になれ」という意味あいではなく、少なくとも自分の職務を全うしている間は、企業の一員として「自分の与えられた仕事」や「自分の責任区分の仕事」という狭い視野でのみ仕事をするのではなく、常に自分が属する企業の利益まで見越した上で行動することこそ、「仕事をする」という意味なのではないでしょうか。企業利益まで常に頭の片隅において勤務するという感覚を、管理職でなくとも入社した当初から身につけている事、身につけていける事こそが「人財」たるには重要であると感じます。

在籍企業にとって何が一番の利益であるかを常に考えて行動する『癖』がついていれば、仕事をしていく上で、自然とこなすべき仕事のプライオリティが容易につけられるようになり、時間配分、力量配分、采配等全てがスムーズに行えるようになっていきます。長期計画を立てる際にも、企業全体の利益から俯瞰してどの地域でどのタイミングでどのプロジェクトを行っていくべきかの吟味がスムーズに行えるようになるはずです。自分個人にとっては非常に重要と思えるプロジェクトでも、企業全体の利益から見てそれが本当に重要であるかはまた別の問題です。企業において何が一番重要であるのかということを常に考えていければ、どう見ても無謀なプロジェクトのごり押しや総売上げを見かけだけ量増しするだけのプロジェクトに労力を費やそうとするムダは自ずと省けるでしょう。

コスト面でも、どうせ「会社の経費だから」と精査を怠れば、ちりも積もれば山となり忘れた頃に重石になってくることもありえます。欧米では昨今の経済不況から多くの企業がコスト削減を謳っており、在欧日系企業においても同様にコスト削減の嵐が吹き荒れておりますが、ローカルがコスト削減に励む傍らで駐在員は今まで通りに経費を使い、或は無駄遣いし、ローカルの顰蹙を買っている例なども散見されます。問題は高々数百、数千ユーロの経費の話ではなく、このような瑣末なところでローカルとの間に溝ができれば、仕事を回していく上で支障を来たし会計上には現れない損失となって己にかえってくる点なのです。

お気付きだとは思いますが、「利益」とは何も数字に表れるだけの「売上」のみを指すわけではありません。数字に表れる「利益」も勿論大切ですが、そこには現れえない企業や仕事に好影響をもたらすという意味での「利益」についても見定められる力量を持てることが重要です。人間関係を潤滑にすることであったり、ムダな工程を省くことであったり、様々な面で余計な労力をかけず仕事を滞りなく進めることに繋がる「利」があることを理解し、所謂「実務」との兼ね合いで「実務」以外のものが「実務」に及ぼす損益も図りつつ仕事を進めていけることも、企業にとって大きな「利益」となる点を忘れてはいけません。

与えられた仕事を黙々とこなすのでもなく、自ら進んで仕事を行うだけでもなく、常に企業全体の利を俯瞰しつつ、自らの立場とすべき事を弁えて最大限の「利」を得られるよう仕事を進めていく事が出来るようになるには、広い視野が必要であり、一朝一夕に培えるものではないかもしれませんが、「木を見て森を見ず」に仕事を進める人々が多い中でこうした能力を逸早く身につけることがグローバル人財には求められます。海外進出した日本企業が直面する大きな問題の一つが現地ローカルとの調和であり、調整であるからこそ、こうした意味での「利」を即座に解し操れる手腕が必要とされるのです。

自分が起業した会社でなくても自分が属する企業の利益を最大限に考えて行動できる人材こそが最高の人財であることは言うまでもありませんが、こうした人財こそが世界に羽ばたく際に日本企業としての「利」を遠い異国の地で追求することの出来る「グローバル人財」になりうるのだと思います。

連載6回の予定でテーマを組み立ててきたので概念的になってしまった点も多々あるかと思いますが、少しでも皆様の「気付き」となれたのであれば幸いです。今回が最終コラムの予定だったのですが、実は、もう暫くこちらでコラムを続けさせていただくことになりました。今後ともお付き合いいただけますよう宜しくお願い申し上げます。

【執筆者スケジュール】

川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

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