特別寄稿 「テロ」と「危機管理」 - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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特別寄稿 「テロ」と「危機管理」

今回は通常の「グローバル人財」ブログはお休みさせていただいて、13日に起きたパリでの同時テロ事件について、現地で実際に生活している立場からの所感を書かせていただこうと思います。

同時多発テロから10日以上経ちますが、ニュースも新聞も一面テロ情報で溢れかえり、通常の日常生活に戻りつつあるものの、同時多発テロが植えつけた「恐怖」が人々の心に影を落としているのは明らかな状況です。

パリを東京23区と例えるならば私が住んでいるのは西郊外の武蔵野辺りとなり、感じている「不安」の度合いはパリ在住の人々とは一線を画するものかもしれませんが、実際にテロ現場にいた友人やクラスメートがいたり、小学生の子供たちもテロの週明けの月曜日には全生徒が一同に集められ一時間半に亘り同時多発テロについて実際どんな事件が起きたのか説明を受けたり、インタースクールには登下校時にパトカーが常駐するようになったりと、前回1月に起きたテロ事件からやっと普通の生活に戻っていた矢先の同時多発テロで、大人ばかりでなく子供たちも不安を感じているように思えます。私事ながら我が家はテレビが映らず子供たちが映像で今回のテロ事件を見ることはなかったのですが、映像を見てしまった子供たちの中には、恐怖の度合いが甚だ大きく初めておねしょをしてしまった子供や、パリで仕事をする両親の安否が気懸かりで学校の授業にも身が入らない子供達もいるとも聞き及びます。

実際、13日のパリ同時多発テロ以来、精神科の診察は通常の倍以上、睡眠薬、精神安定剤の販売も爆発的に増加しており、直接的な被害者ばかりでなく、間接的に恐怖を感じている市民が如何に数多いかを物語っています。仏全土の非常事態宣言はすぐに議会承認を経て三ヶ月間延長されているものの、バルス首相が国民議会演説で「化学テロや生物テロ」の危険性についても言及する等フランスでの「テロリスク」は引き続き高いままであり、隣国ベルギーでもテロ警戒レベルが週末より最高段階の4に引き上げられ厳戒態勢が続いている状況と、近い内にまた欧州勢の何処かでテロが起こる可能性を心のどこかで感じながら生活しているような毎日です。

とはいえ、実際に当事者になっていないと「危機意識」が薄いのも事実だと思います。地震や火事といった災害の対処には慣れている日本人も、「テロ」が起きた時の対処まで考えたことはない方がほとんどでしょう。

一月に起きたテロ事件では、標的となったのがアラブの風刺も掲載する「新聞社」と「ユダヤ食品店」という「イスラム原理主義」の明確な「攻撃対象」であり、標的となりそうな場所を避けることで「リスク回避」できたわけですが、今次テロでは、国立競技場に相当するパリ郊外サン・ドニの「スタジアム」や元々ユダヤ系所有であった「バタクラン劇場」は確かにテロの標的となりやすい場所であったとはいえるものの、一方で一般のレストラン、カフェ、しかも10区や11区という一般市民の居住区がテロ攻撃対象となっており、「リスク回避」行動が取り難いばかりでなく、「何時何処で起こるかわからない」という不安を掻き立てる一因ともなっています。こうした状況下、今後起こりうるテロは「不特定多数」を狙う可能性が高い点を念頭に置くことがまず重要であり、その観点から自身の安全を第一に考えて行動していく必要があるといえます。13日の晩、パリのオデオン界隈で接待をしていた知り合いの日本人は、「テロ」が起こったことを知りながらもその後オペラ座のキャバクラに移動して接待を続け、23時過ぎに市より全店閉店命令が出て店から追い出されるまで店にいたそうですが、その程度の危機意識しかない日本人もいることから改めて警鐘を鳴らしたい次第です。また、何かしら事件が起きたら社員の安全確認をするのが当然だと思うのですが、安全確認網が整備されているかももう一度確認いただきたく思います。

話は変わって、今回の犯人像については日本でも色々報道されているかと思いますが、「イスラム過激派」に染まり今次テロ犯にまでなっていった若者たちが、移民の2世、3世ではあるものの所謂「貧困層」で社会からドロップアウトしているわけではなく、「中流階級」の出であり、教育もしっかり受けている若者すらいた点が注視され、欧州社会への同化の難しさの観点からこちらでは語られていますが、この点について寧ろ「宗教による洗脳」という意味で、イスラム過激派とオウム真理教の類似点が個人的には気になります。地下鉄サリン事件が起きた当時、何故学歴もある将来有望でありそうな若者がオウムに入団し、このような事件を起こしたのかが物議を醸しましたが、現在起きている「イスラム過激派」への「洗脳」から「テロリストの育成」が全く同じ形で且つ大規模に国際的に行われている点がただの偶然にしては状況が似通いすぎている点に注意が必要です。

「イスラム過激派」に感化され「イスラム国(IS)」に赴きその戦闘員となるのは元々イスラム教徒であった若者たちという先入観がありますが、「宗教による洗脳」という大枠から見れば、何も元々イスラム教徒でなくても「洗脳」することはさほど難しいことではないのかもしれません。こうした意味で、今後のテロリスクは、勿論欧州勢におけるリスクが非常に高いことは言うまでもありませんが、対「イスラム国(IS)」国際同盟国として日本も名が挙げられている状況を以ってすれば、日本においても強ち否定できないといえます。日本では、我が国が反「イスラム国」同盟国として声高に名乗りを上げている感は無いのでしょうが、欧米プレスなどでしっかりと日本が同盟国色に塗られている地図[i]が流布されている事実がある点しっかりと認識しておく必要があります。

テロとの全面戦争を欧米勢が画策する中、図らずも我が国がそこに巻き込まれている状況にあることを理解することが「リスク回避」の第一歩となることを期待しつつ、十分な「危機管理」を各人に行っていただきたく思います。

 

【執筆者プロフィール】
川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日 系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得。主な論文に 「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

 

[i] http://www.lemonde.fr/les-decodeurs/visuel/2015/11/24/quels-sont-les-pays-membres-de-la-coalition-contre-l-etat-islamique_4816534_4355770.html

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