宇宙からの電波を奪え!電波望遠鏡で引き裂かれる世界 (IISIA研究員レポート Vol.29) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
  1. HOME
  2. ブログ
  3. 宇宙からの電波を奪え!電波望遠鏡で引き裂かれる世界 (IISIA研究員レポート Vol.29)

宇宙からの電波を奪え!電波望遠鏡で引き裂かれる世界 (IISIA研究員レポート Vol.29)

来る夏(2021年夏)から南半球で世界最大級の電波望遠鏡の建設が開始される。

SKA(Square Kilometre Array)プロジェクトである。「平方キロメートル配列」を意味する国際的な政府間の取り組みだ。単一の望遠鏡ではなく「配列(アレイ)」と呼ばれる望遠鏡の集合体であり、複数の大陸に分散して設置される。

まずは南アフリカ勢とオーストラリア勢、その後は他のアフリカ諸国勢にも拡張される予定だ(参考)。

(図表:SKA完成予想図)

SKA

(出典:Wikipedia

「電波望遠鏡」は従来の「天体望遠鏡」に比べて初期宇宙からの微弱な電波信号をより詳細に検出することが可能だ。そのため暗黒物質の性質や銀河がどのようにしてできているのか、また宇宙には人間だけが存在するのかといった科学の最大の謎に答えることが期待されている。

地理的に分散し、十数か国のメンバー国が参加するため並外れたレヴェルの国際協力と国境を越えた機材や資金、人の移動を円滑に行うことが不可欠となる。このことが当初は民間の非営利団体であったのをCERNや欧州宇宙機関のように国際協定によって設立された政府間組織(IGO)としての「SKA観測所」(SKAO)に移行するきっかけとなった。このモデルは去る2013年10月に初めて提案され、2年後には協定の起草に向けて正式な交渉が始まった(参考)。

交渉を主導したのはイタリアだ。2年半の多国間交渉を経て去る2018年5月に「SKA観測所」協定のテキストが合意され、2019年3月12日にイタリアの首都ローマで署名された。初期署名国となった7か国は英国勢、オーストラリア勢、中国勢、イタリア勢、オランダ勢、ポルトガル勢、南アフリカ勢である。そして今年(2021年)1月15日に発効した(参考)。英国勢の外務および英連邦・開発局(FCDO)が協定の批准と発効の正式なプロセスを監督し、原本はロンドンで保管される。

SKAプロジェクトは元々去る1990年代に英ケンブリッジ大学の電波天文学(radio astronomy)博士であるスティーヴン・ローリングス(Steven Rawlings)らによって構想された。彼の超低周波電波観測への情熱がSKAのような野心的な次世代電波望遠鏡を推進する原動力となった。ローリングス博士は去る2012年に長年の親友で元NASAの研究者でもあった数学博士宅で事故死している(参考)。

世界最大級の電波望遠鏡といえばプエルトリコの直径305メートルもあるアレシボ天文台が昨年(2020年)12月に大崩落を起こし世界中の研究者らを驚かせたばかりである(参考)。

(図表:英国勢にあるSKA本部)

SKA HQ

(出典:Wikipedia

アレシボ天文台は去る1960年代半ばに米国防総省(DoD)から資金提供を受けて建設され、現在は米国立科学財団(NSF)が所有する。

およそ60年間にわたりアレシボ天文台は地球上で最大の宇宙への窓だった。幅1,000フィート(約304メートル)の巨大アンテナは雪の結晶の100万分の1というエネルギーで地球に降り注ぐ電波を捉えることができる絶妙な感度を持っていた(参考)。

冷戦時代には米国家安全保障局(NSA)がこのアレシボ電離層観測所(Arecibo Ionospheric Observatory)を用いて、旧ソ連が北極圏に設置したレーダーから発していた電波を傍受していたこともある(参考)。

ところで元々南アフリカ勢はSKAのホスト国として「期待薄(long shot)」だと言われていた国だった。

ホスト国になれるかどうかは天文学コミュニティにおける強さにかかっている。オーストラリア勢の方が電波天文学の伝統は長く、強かった。しかし南アフリカ勢はそのギャップを埋めるために資金を投入してきた結果今に至った経緯がある(参考)。

南アフリカ勢では2005年には10人未満であった「電波天文学者」の数が現在では200名以上に増加している。南アフリカ勢における科学の世界がすでに変わりつつある。

中南米勢を中心に巨大電波望遠鏡を設置し宇宙の解明に努めてきた米国勢と、それに対して英国勢、南アフリカ勢、オーストラリア勢を中心に展開しつつある新たなプロジェクトに引き続き注視して参りたい。

 

グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst

二宮美樹 記す

 

前回のコラム: コロナ特需?「精密栄養学」の個人データベース市場

 

無料の「IISIA公式メールマガジン」にぜひご登録下さい(下線部をクリックすると御登録画面にジャンプします)。

 

なぜ世界は「月」を取り合っているのか?について詳しくは

IISIAマンスリー・レポート 2014年9月号

第1章 ロシアの世界戦略とマーケット(その1)
2030年に月面が「植民地化」される日
~米ソ冷戦下行われた驚愕の作戦行動とその今日的意味~

IISIAマンスリー・レポート2010年11月号

第3章 知られざる資源の世界(その3)
新たなるエマージング・マーケットとしての「月」
~ヘリウム 3 を巡る国際競争の現状と月資源という新たなターゲット~