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笛吹けど、プーチン来らず。(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 41)

昨日(16日)、トルコ・イスタンブールで露烏高官協議が実施された。開催に先立ち、米国からはトランプ大統領が「場合によっては自分(トランプ)も駆けつける」と叫び、実際現場には首脳レヴェルとしてゼレンスキー・ウクライナ大統領が駆けつける騒ぎであったが、何のことはない、肝心のプーチン露大統領が来らず、結果的に停戦も何もが「破談」で終わった。「こうなること」が危惧されていなかったわけではないが、他方である程度、期待値が高まっていたことも事実であろう。しかし、結果としてプーチンはやって来なかった。そう、「笛吹けど、プーチン来らず」だったのだ。

こうした一連の流れを見ていて、筆者はふと、これまでロシア勢との関係で自ら経験してきたことのいくつかを思い出していた。一つには今から11年前であろうか、当時は東京・仙石山にあった我が研究所のオフィスに突然、ハンチング帽を被った、やや老いてはいるものの矍鑠とした自称「ロシア人外交官(2等書記官(!))」がやってきた時のことだ。あの時、筆者はその直前に、米国の諜報機関筋からのある「重大なメッセージ」を託され、東京・狸穴にあるロシア大使館を往訪し、アファナシエフ大使(当時)にそれを伝達していたのであった。アファナシエフ大使はしかしながら、事の次第を全く理解出来なかったようであり、会談は「破談」に終わった。それを受けて、「この御仁では話にならない、誰かまともに話が出来る然るべき人物をよこして欲しい」とあえて在京ロシア大使館経済部に対してメールをしたのであった。するとややあってから、このハンチング帽の老外交官が登場したのである。

一しきり会話をした後、ゆったりとした調子で、このハンチング帽の老外交官はこう語りかけてきた。

「原田さん、ロシアと日本はゆっくりと時間をかけて付き合ってきているのですよ。今もそう。だからゆっくりとやって行きましょう、ゆっくりと。」

後に米国の諜報機関筋からはこの穏やかに微笑しながら語りかけてきた老外交官が何者であるのかを聞かされた。「プーチン大統領は対日関係において必ず意見を求める大佐クラスのアドバイザーをクレムリンに置いている。背格好等からしてこの人物であるに違いない。」―――ロシアは、不誠実な様に見えて、実はチラリとその信義を見せることがあるのだ。

そしてまたもう一つ、思い出したことがある。それはサンクトペテルブルク・チャネルを通じて(詳細はもちろん説明することが叶わないけれども)「ロシア国家安全保障評議会」、すなわちロシア勢の政府部内における最高意思決定機関の記録を目にした時のことである。驚くことなかれ、そこには我が国の側が然るべきステップを踏んだ場合、ロシア勢としてもどの様にして国内外の両側面から見ても「自然な形」で北方領土の中でも「歯舞・色丹」の2つを我が国へと返還していくべきなのか、についての具体的なプランが記されていたのである。端的に言うならば、「住民投票」を行い、その結果を受けて我が国へこれら2つの島々を返還するという流れを述べるものであった。ただし、このプランが執行されるに際しては、一つの条件を付すとも書かれていた。それは我が国における時の権力者「安倍晋三」氏(故人)が5月8日の対独戦勝記念日の式典に、ロシア勢を祝すために列席すること、なのであった。私はこのことを複数のルートを通じて安倍晋三氏に届く様に矢を放った。しかしながら、あれほどまでに「対露関係の改善」に取り組んでいたはずの安倍晋三氏は、結果として動かず、モスクワに出向くことは無かったのである。無論、件の「住民投票」が行わることはなかった。

ロシア勢、そしてそのプーチン大統領はしばしば狡猾であり、強圧的であると書かれる。確かにその様な側面があることも事実だ。しかし外交関係について見てみるならば、そこには彼なりの「美学」とういか、「ディシプリン」がある様な気がして筆者にはならないのである。それは「信義」であり、「信用」である。しかもそれは短時間で成り立つ様なものでは決してないのであって、じっくりと時間をかけることによってだけ醸成されるべきものなのである。

「これだけ多くの犠牲者がとりわけ被害者であるウクライナの側において出ているのだから、そんな悠長なことを言うべきではない。」

そう、読者は思われているに違いない。しかしそう想ってしまうのは私たち日本勢が彼の国とその周辺を巡るこれまでの歴史の歩みをほぼ全く知らないからなのであって、「大陸」においては全くもってルールが違い、時間の感覚が違うのである。この点を、トランプ米大統領は明らかに見誤っているのであって、来るべき大統領選に向けて功を焦るゼレンスキー烏大統領においては完全に無視すらしている様に見えるのは筆者だけであろうか。

ロシア勢は大陸の民であり、時の流れが島国とは違う。ましてや最終的に近現代の「矛盾」をロシア勢に押し付け、何度となく苦境に陥れてきた米欧勢に対して、信頼・信用は一朝一夕には出来ないのである。無論、人権人道上の非道行為は一切許してはならない。しかし、歴史が織りなしてきた「事実」もまた、私たち日本勢は、この悲惨なウクライナ戦争から比較において遠い存在であるからこそ、ひしと胸に刻み込むべきなのである。筆者は今、サンクトペテルブルクに何度となく行った時のことを思い出しながら、そうあらためて思い知り始めている。

2025年5月17日 東京の寓居にて

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役会長CEO/グローバルAIストラテジスト

原田 武夫記す

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