「グローバルヘルス戦略」から見える近未来 ~我が国に求められる「次なる一手」とは~ (IISIA研究員レポート Vol.96) – IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 – haradatakeo.com
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「グローバルヘルス戦略」から見える近未来 ~我が国に求められる「次なる一手」とは~ (IISIA研究員レポート Vol.96)

本年(2022年)5月24日、我が国政府により「グローバルヘルス戦略」が策定された(参考)。「グローバルヘルス」とは、地球規模で人々の健康に影響を与えるため、その解決に国際的な連携が必要とされる課題とされている。元来は、熱帯地域特有の疾病に対する医学(熱帯医学)と同一に研究されていたが、そこから開発途上国の疾病を扱う「国際保健(International Health)」へと発展し、さらに近年では、気候変動、パンデミックなど先進国も含めた、国家の枠を超える地球規模(グローバル)の課題であるとの認識から、「グローバルヘルス」と呼ばれている。それゆえ、グローバルヘルスは、途上国における感染症対策から、「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを目指すユニバーサル・ヘルス・カヴァレッジ(UHC)まで、幅広い課題を包含する概念とされている。このグローバルヘルスに関し、我が国政府は、主要国首脳会議(サミット)の場で度々取り上げてきた。去る1997年には、デンヴァー・サミットにて、橋本龍太郎首相(当時)は寄生虫症の国際的対策の重要性を訴え、翌1998年のバーミンガム・サミットで、この提言がコミュニケに盛り込まれた。その後も、去る2000年の九州・沖縄サミットでは、包括的な感染症対策支援に関する「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」が、2008年の洞爺湖サミットでは、「国際保健に関する洞爺湖行動指針」が、2016年の伊勢志摩サミットでは、「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」が発表されるなど、我が国は、グローバルヘルス・アーキテクチャー(国際保健の枠組み)に関する国際的な議論をリードしてきているといえる。

(図表:洞爺湖サミット)(出典:Wikipedia

去る2019年に開かれた国連ユニバーサル・ヘルス・カヴァレッジ(UHC)ハイレベル会合では、私語が多く騒ついていた国連の会議場も、安倍首相(当時)が登壇すると静まり返り、誰もがスピーチに聞き入っていたという(参考)。グローバルヘルス分野の推進役としての我が国の存在感を表す一例といえよう。

(図表:国連ユニバーサル・ヘルス・カヴァレッジ(UHC)ハイレベル会合)(出典:外務省

そうした中で、来年(2023年)の広島サミットを前にして、今般発表された「グローバルヘルス戦略」は、ここ数十年間、我が国が貢献してきたグローバルヘルスに関する議論の集大成ともいえる。では、その特徴としてどういったものが挙げられるのであろうか。まず、今次「戦略」が発表されるまでの間、グローバルヘルスを巡っては、今次パンデミックや「ウクライナ戦争」など様々な危機を経ることで、保健ガヴァナンス構造そのものの変容がみられたという点が指摘できる。すなわち、国際政治との密接な関りが意識されるようになり、「ヘルス・セキュリティ」として安全保障としても捉えられるようになってきたのである。また、熱帯医学の延長線上にあるこれまでのグローバルヘルスは、植民地主義的な性格、すなわち宗主国から植民地に対する垂直的(トップダウン)アプローチという面が強かったが、近年では、水平的・非階層的アプローチが意識されるようになった。今次パンデミック発生当初における世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長による「親中」姿勢が批判されたことも背景としてあろう。さらに、今次「グローバルヘルス戦略」の最大の特徴として、NGO、NPOといった市民層も対話に参加し、策定に至っているという点が強調されている。市民社会との対話の上に政策を形成するという試み、すなわち、社会関与(Public Engagement)は、同分野のみならず、様々な分野にて求められているものであり、今次「戦略」の策定は、そのモデル・ケースともなり得るのではないか。

(図表:WHO事務局長に再選したテドロス・アダノム)(出典:WHO

ただし、この「グローバルヘルス戦略」には当然課題もある。その際たるものが、ファイナンス・メカニズムの構築であろう。グローバルヘルス関連のアクターは国連の関連機関の他、グローバル・ファンド、Gavi、CEPI、GFF、Unitaid、ACT-A、COVAX等、多様であり、その資金源も、各国政府の他、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を筆頭とする民間団体など、様々である。これらの巻き込みと連携・協働をいかにとりまとめるかが重要となる。そうした中で、資金を調達・集約するツールの一つとしてハイライトされているのが、国際連帯税(International Solidarity Levy)である。国境を越えて展開される経済活動に対して課税し、その税収を途上国向けの開発支援などに活用することを目的とする国際連帯税は、去る2002年にメキシコ勢のモンテレーで開かれた国連開発資金国際会議の場において、初めて導入が検討されたものであるが、爾来20年、議論はされているものの、国際的合意、さらには各国勢の国民からの支持がネックとなっており、中々議論が進んでいない。今次パンデミック、ウクライナ戦争など、いずれも最後、行き着くところはマネーによる解決であり、それが「次のフェーズ」へ向けたカギとなる。来年(2023年)の広島サミットでも、ユニバーサル・ヘルス・カヴァレッジ(UHC)が主要テーマとして議論の俎上に上がれば何らかの具体的成果を出すことが求められる中で、この陥穽を克服することができれば、我が国こそが「次のフェーズ」の牽引役となりうるのではないか。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー原田 大靖 記す

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