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「中国バブル崩壊」のトリガーとなるものとは?(IISIA研究員レポート Vol.50)

我が国では、東京夏季五輪のメダルラッシュと、新型コロナウイルスの感染爆発ともいえる状況でニュースが席巻されている中、マーケットの世界では「中国バブル崩壊か」との懸念が広まっている。というのも、中国当局によるIT・教育業界への規制強化の動きを受けて、中国株からのマネー流出が加速しているのだ。

2022年に共産党大会を控えている習近平指導部としては、市場で独占的な地位を築いているIT企業への統制を強めることで、長期政権に向けて国民の支持を得ようとしていることが背景にある(参考)。また、規制強化の対象は教育業界にも及ぶ。少子化対策として、学習塾の設立を規制したり、既存の学習塾は非営利化させることで、年々増加している教育費の高騰を抑え込み、出産をためらう夫婦にこれを促すことが狙いだという(参考)。近年、中国勢の教育産業は1000億ドル(約11兆円)規模にも達し、今後も成長期待が高まっていたが、「政府の通知1本でビジネスモデルが根本から覆されるなら、中国企業の株価バリュエーションは大きく見直さなければならない」との悲鳴が上がっている(参考)。

こうした規制を受け、去る7月26日(北京時間)の中国本土のCSI300指数と香港ハンセン指数は大幅に下落、米上場の中国大手企業98銘柄で構成するナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数も3営業日の下落率が約19%と、過去最大を記録した。

(図表:大幅に下落したIT・教育関連株)

(出典:Bloomberg

7月28日夜(北京時間)には、市場の懸念を緩和するため、中国証券監督管理委員会(CSRC)が大手投資銀行幹部とオンライン形式で会合を開き、規制面の措置について「拡大解釈」すべきでないこと、世界市場が大幅に変動しないよう政策を安定的に導入することが伝えられた。ロイター通信によると、同会合に招待された投資銀行は、クレディ・スイス、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、UBSなどの中国国内で事業免許を取得している外資の投資銀行だけだという(参考)。

(図表:大手投資銀行幹部との会合を主催した方星海CSRC副主席)

(出典:Wall Street Journal

同会合を受けてか、29日には中国株式市場は大きく反発する動きもみせているが、中国指導部による管理・統制強化は「これが始まりであって、終わりではない」との指摘もあり、まだまだ「中国バブル崩壊」は予断を許さない状況にある。

果たして、今次の規制強化がトリガーとなって中国バブルは崩壊へと向かうのか。一般的にはこうした規制強化の余波や、不動産バブルの失速など経済的要因が考えられるが、他方で中国勢をめぐっては、昨今不気味な動きが散見されている。

去る6月14日には米CNNが「台山原子力発電所での放射性物質の漏洩」を報じている。これは、広東省の台山原子力発電所で放射性物資漏れが生じ、周辺地域の放射線漏量が高まっているとして、同原発の運営に協力する仏系企業「フラマトム」が米国原子力規制委員会に技術協力を求めたというものだ。7月30日には破損した燃料棒を交換し、破損原因を調べるために1号機の運転を停止したと発表されたが、この報道に接し想起されるのが、去る1986年4月25日にソ連(現ウクライナ勢)で発生したチェルノブイリ原発事故である。

当初事故は隠蔽されたが、2日後、西側諸国が異常に気付いた。4月28日の朝、スウェーデンのフォルスマルク原子力発電所で、職員の靴から高線量の放射性物質が検出されたのである。その職員が地図と風向きを確認したところ、その先にチェルノブイリがあったのである。

同日中にスウェーデン勢の外交官がモスクワと連絡を取り原発事故の有無を問い合わせたが答えは「ニェット(No)」であったため、スウェーデン勢は国際原子力機関(IAEA)に事態を報告するとの意向を伝えると、ソ連勢は一転、チェルノブイリで事故があったことを認めたのである(参考)。チェルノブイリ原発事故から35年となった2021年4月26日には、ウクライナの情報機関であるウクライナ保安庁が同原発事故の機密文書の一部を公開したが、それよると事故前からチェルノブイリ原発ではトラブルが相次ぎ、危険性が報告されていたが、パニックを起こさないよう隠蔽されていた可能性があるという(参考)。

(図表:「石棺」に覆われたチェルノブイリ原発4号炉)

(出典:BBC

これらソ連勢による隠蔽工作は、ソ連首脳部のみならず、より現場に近い組織、人間が事実を隠蔽しようとする動きがあった。スターリン以来の恐怖政治から当事者が懲罰を恐れ、保身を第一に考えた故であるが、この体質を含め、もはや情報隠蔽を不可能と判断したゴルバチョフは、「グラスノスチ」(情報公開)の徹底を指導、すると政府への不信感が募り、最終的にはソ連勢の体制崩壊へとつながったのである。

欧米勢によって暴かれた今次「台山原発事故」は、チェルノブイリ原発事故とフラクタルな現象を中国勢において引き起こすためのものであるとすれば、「中国バブル崩壊」はこうしたマーケット以外の要因もトリガーとしてあり得るのではないだろうか。

最後に、中国勢の原発をめぐっては英国勢でも分裂が生じていることが報じられており、今後の展開を左右しかねない。すなわち、中国国営電力会社である中国広核集団が英サフォーク州のサイズウェルC原子力発電所建設への関与を検討している件について、一部の議員が、中国勢が国家の重要インフラにおいて役割を担うべきではないと反対を表明しているのである。他方で、ジョンソン英首相は、元バンク・オブ・アメリカ(BofA)幹部で首相補佐官のダン・ローゼンフィールドの影響もあって中国勢の投資に柔軟化しており、同原発建設をめぐる動きが今後の展開の指標の一つとなるのではないか(参考)。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

原田 大靖 記す

 

前回のコラム:「戦国時代」に突入したインフラ支援 (IISIA研究員レポート Vol.49)

 

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