舞鶴。そして信頼の置けない国・ニッポン(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 74)
今、東京の拙宅でこのブログを書いている。嬉しいことに目の前では空中庭園で、早咲きの桜がもう咲いている。「春」がまたやってきた。人間の世に何が起きようとも、季節は巡る。そのことを今、あらためて実感している。
毎週土曜日は朝にBSで経済番組を見ることにしている。なぜならばこのタイミングで「御用学者」「御用アナリスト」の各位が何を語り、我が国における経済ナラティヴを演出しようとしているのかを把握するためだ。今朝(14日朝)は正直、たった50日余の審議で衆院を通過させてしまった政府予算案についての議論が行われるのかと期待していたのだが、件の番組ではそこでの騒動が「あたかも何事も無かったかの様に」言及すらされなかった。その代わり、「すわ、有事」とばかりにイラン戦争とそれによる原油・ガスへの影響についての「御用アナリスト」の各位による議論を繰り広げていた。
筆者は外務省にI種職員として勤務していた時代、イランを担当したことがない。しかし、イラン勢と北朝鮮勢はイスラエル勢とそれに加担する米国勢の一部からすれば「コインの裏表」の関係にあるととらえられている。そのせいだろう、当時の外務省の中では「テヘラン発極秘電」が筆者の属していた北東アジア課(朝鮮半島担当)にもしばしば回付されていた。そしてその時読んだ、数々の公電の「異様さ」を今でもよく覚えている。
「・・・が語るに・・・・。以上。」
基本的に我が国政府は「独自のインテリジェンス・ネットワーク」を持っていない。いや、あるにはあるが、端的に言うと本当の「御上」に連なっているそのネットワークは公的な世界には存在せず、プライヴェートな世界にある。したがってこの手の公電には通常、そこで流される本当のインテリジェンスが記載されることはない。この点、例えば件の「異能の人」がいろいろとかつての著作で書かれているようだが、基本的に「公電」に本当のことは書かないというのが作法になっているのだから致し方が無い(「情報公開」になった外交文書を精査している御仁たちがいらっしゃるが、残念ながらそれを読んでもある程度の「定性情報」しか分からないのはそのせいである)。しかし「テヘラン発公電」は全く違うのである。情報提供者についても明らかに記載が違う。また、文章そのものが極めて短い。1つがそうであるのではなく、「常にそう」なのである。直接の担当ではないが、北朝鮮班長としてこうしたテヘラン発の公電(当時は極秘でもレヴェルの高いものは紙の色が違った)を読みながら、それを執筆した担当官の極度に緊張した状況に思いを馳せていたものだ。
つまり、米国勢が基本的にこうした我が国の「公電」を読んでいる、そのことを前提にしたやりとりがそこでは繰り広げられていたというわけなのである。この点はさすがに我が国最大の国家機密の一つである(しかし、外務省員であれば必ず研修を受ける「公然たる秘密」だ)ので詳らかにすることは叶わないのであるが、イラン勢と敵対的な米国勢に読み取られてもそう簡単には分からない様な工夫がなされていたというわけなのである。事実、イラン勢についてはかの米中央情報局(CIA)も往々にして我が国当局に情報をしばしば依存することがあると当時は耳にしたものだ。勇ましい「インテリジェンス論」が語られる中では決して触れられることのなかった真実である。実はイラン勢、そして中東勢との関係で我が国は明らかに米国勢とは「異なる利益の代弁者」であるというわけなのだ。
話を元に戻す。このまま行くと明らかにイラン勢は米国勢、そしてイスラエル勢との戦乱の長期化を画策するはずだ。長期化すればするほど、内政上、不利になるのはトランプ米大統領、その人だからだ。しかしそうなると「ホルムズ海峡封鎖」が長引いてしまう。原油価格、そして天然ガス価格は明らかに跳ね上がり始めている。我が国では高市早苗総理大臣自身が衆議院予算委員会での答弁の中で「ガソリン補助金の再開」を語ったが、それでは明らかに足りないのである。石油については民間備蓄15日分、そして政府備蓄1か月分の放出に踏み切ったところである。しかし「そこから先」について皆目見当がつかないのだ。より長期化したらば、石油、さらには天然ガスをどこから追加的に調達するのかが重大な課題となる。正直、高市早苗・総理大臣にはお気の毒だが、「風邪を引いている場合ではない」のである。
そして御用アナリストの方々曰く、「安定的な調達を石油・天然ガスの両方について今から図るのであればロシア勢しかいない」というのである。現状、確かにそれが選択肢であることは否めない。天然ガスをとってみると、一方ではアラスカからの調達、他方ではアフリカ東海岸、とりわけモザンビークからの調達について声掛けが我が国関係者に対して行われてきたことは事実だ。とりわけ前者は、筆者もある時期、関わったことがある。資源エネルギー庁にもこの関連で話し合いに出向いたほどだ。「アラスカから砕氷船で液化天然ガス(LNG)を京都・舞鶴港まで輸送する。そして同地で中型LNGタンカーに詰め替え、これを中国・揚子江地域の二級都市に対して供給しつつ、他方で我が国の関西地域におけるガス供給も行い、産業振興を行う。」この目的のためだけに、法人登記すらしたくらいだ。カタール勢から資金を預かっているファンドと当時は交渉をした。しかし結果的には当時、うまく行かなかった。
そしてその時、筆者は台湾勢において有力政党政治家たちが顧問として迎えている「画数判断の大家」にいかがしたものか、と相談したのだ。するとこう言われた。
「あなたの人生の中で2回、この続きがある。1回目は話こそ盛り上がるが、結果的に実現しない。しかし2回目は相当な確率でやるべきという波が押し寄せて来る。その時、おやりなさい。それがあなたの役割だ」
京都・舞鶴にアラスカから液化天然ガス(LNG)を持ってきて詰め替える、ということになると、そこで必ず現物としてのLNGを一定量貯蔵することになる。するとこれに引っ掛ける形で先物商品が形成されるなど、なかなか面白い展開となるのだ。「舞鶴スポット価格」が形成されれば、これだけの量の化石燃料を消費しておきながら、その価格形成には全く手も足も出ない我が国の立場が全くもって変わる。我が国では砕氷船タンカーが操業可能な港はそうたくさんない。かつ、工業地帯をそれなりの大きさで後背地(hinterland)に持つとなると、実のところ「舞鶴」に絞られてくるのだ。同港はかつて、大日本帝国海軍の並み居る艦船が停泊していたことで知られる。新生ニッポンの産声が聞こえるにはふさわしい土地だ、と筆者はその時、思っていたものだ。
ただし「舞鶴」には当時、対立候補がいた。「北九州」である。しかし、この時、北九州勢はまだ関係の良かったロシア勢と手を結ぶ内諾をしたと報じられていた(その後、2021年に実際の受け入れが行われた。)。ロシア勢は「ウクライナ戦争」の言わずと知れた当事国である。我が国はロシア勢における天然ガス採掘プロジェクトから完全に撤退したわけではないが、その帰趨は米国勢の胸先三寸にかかっていると言ってよい。本日拝見した番組の中で御用アナリストの方々曰く、「米国は石油にせよ、天然ガスにせよ、自国における需要を満たすために第一義的には用いるであろうから、あてにはならない。安定供給となるとやはりロシアだろう」とのことであった。この言葉を聞いて、筆者は正直、仰天した。あれだけマスメディアの中で御仁が連呼していた「日米同盟」とは何であったのだろうか?と。そしてまたあれだけ「プーチン悪人説」を無条件で垂れ流してきた我が国のマスメディアは何をもってこの自己の変節ぶりを釈明するのだろうか、と。
今日の件の番組を見て、あの頃、京都や舞鶴の関係者を探訪しつつ、映画「原子力戦争」において描かれた様な、えも言えぬ「魑魅魍魎」とでもいうべき現地利権を肌に感じていたことを懐かしく思い出した。そして同時に思ったのは、柳の枝葉の様に、風が吹けば何も抗さずに右へ左へといとも簡単になびく我が国は、グローバル社会を仕切るリーダーシップの目には実に「鼻持ちならない存在」として映っているだろうということであった。筆者は米国勢と無条件・無思考で組もうと思う者ではない。しかし、「同盟(alliance)」というのであればこうした時だからこそ、まずもって表向き「頼るべきは米国勢」といったnarrativeを喧伝することこそ、我が国のリーダーシップが行うべきことなのではないだろうか(無論、under the tableではロシア勢と握る。この「二枚舌」をいかに巧みにこなすのかが、我が国の外交力・インテリジェンス力ということになってくる)。
我が国はおそらく今回も「うまくは乗り切れないだろう」。しかし、台北の今は亡き先生曰く「二度目のチャンスで成就する」はずだ。その時、のために、今は静かに一つ一つの出来事を丹念に見つめていくこととしたい。来るべき「その時」のために。
2026年3月14日 東京の寓居にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す
(*弊研究所では引き続き、こうした「次の次」の時代を共に創造するメンバーを募集しています。こちらとこちらの記事をご覧頂き、是非ご関心のある方は「Pax Japonicaに対するご自身の想い」を400~600字以内でまとめた上でメール(recruit●haradatakeo.com(●は@です))までご連絡下さい。皆様のご応募をお待ちしております。)