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「街場の会社の経理事務員」に国家財政運営は出来ない。(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 71)

昨日(21日)、徳島大学で行われた中四国の大学が合同で組織している団体「Peace & Science Innovation (PSI)」の学生アイデアコンテストに審査員として出席してきた。今回2回目のイヴェントであり(前回は岡山大学で実施)、事務局の皆さんと徳島大学側の受け入れ担当の先生方の努力により、大いに盛り上がる会合となった。「開発主義国家(developmental state)」として戦後復興を遂げ、未曾有の経済成長を享受してきた我が国は、その後、典型的な「経路依存性(path dependency)」に陥り、「昨日までのやり方をそのまま墨守していれば良い」という慣性の法則(inertia)にとらわれ続けている。そこからいよいよ目覚めるべき閾値の時(critical juncture)を超える時、最大のツールとして私たち日本勢が存分に使うことになるのが人工知能(AI)なのであり、それによって可能となる新しいガヴァナンス(AI-enabled governance)こそ、その後の、とりわけ人口5000万人以下の中小規模だが多数ある諸国勢において「モデル」となって模倣されることにより、結果として「日本の平和(Pax Japonica)」と呼ばれるべき時が到来する・・・これが、現在、筆者が執筆している国連大学AI叢書(Springer Nature編集部が編集担当。英語で刊行予定)のメインとなるべきテーゼだ。無論、空理空論で終わらせてはならないわけであって、今年(2026年)に入り、弊研究所におけるイノヴェーション・マネジメントの最前線に立ちつつ、他方で国際学術雑誌のレヴェルでのアカデミア上の研究をこの様にしながら、他方でその実装実験の現場としての地方、とりわけ中四国地方に積極的に出向く様にしている。まずは「良いか・悪いか」のべき論を述べるのではなくて、その前に「物事それ自体(die Sache an sich)」を粒さに観察するのが筆者の役割であると考えている。それもあって、徳島を訪問したわけであるが、春に確実に向かうことを感じさせる陽気の中、その前に行った三好市役所表敬訪問も含め、大いに実りのある往訪であったと感じている。

これから変わるのは「中心」ではなく、「周辺」からなのである。私たち日本勢の多くがそれについて全く気付いていない。確かに「地方創生」などと我が国において語られる様になって久しい。しかしそこで「地方創生」と題して語られ、取り組まれていることは(一部の例外はあるにせよ)結局のところ、高度経済成長において戦術として用いられた「列島改造計画」の延長線上において行われているに過ぎないのが実態だ。すなわち「地方がclaimし、中央が温情と政治的駆け引きの中で再分配をしてやる」「しかもその対象は形のあるもの=公共インフラや公共施設の建設が大半」なのである。正にこのことこそが我が国全体として戦後日本における「成功モデル」につき経路依存性(path dependency)が生じていることの紛れもない証拠なのであるが、そこでは未だにリフレーミングを誰も行っていないが故に、全くもって何らの根本的な問題提起もなされることなく、ただひたすら慣性の法則(inertia)で物事が進められているに過ぎないのである。

しかし「経路依存論」を語る歴史的制度主義者(historaical institutionalist)たちがこれまで何度となく述べてきたとおり、やがてそうした低位安定の時も必然的に終焉の時を迎えるのである。「これまで大丈夫だったし、今後も大丈夫だろう」と安易な「収穫逓増(increasing returns)」への安逸な気持ちを抱いている最中に「世界精神(der Weltgeist)」は劇的な変容を遂げ、やがては私たち日本勢全員に対して完全なるリフレーミングを強いることになるのである。つまり「運命の時(critical juncture)」の再度の到来なのであって、それが程なくして生じるということこそ、今、我が国のリーダーシップは真正面から論じ、物事を迅速に動かしていかなければならないのである。

そうした中で高市早苗政権はどうかというと、「真逆」の方向へ突き進み始めている。我が国の政府債務残高、すなわち「国の借金」が対GDP比で260%近い金額になっていることは我が国財務当局が相手をしながら審査を行う国際通貨基金(IMF)が認定したグローバルな側面での事実なのであるが、それをいきなり高市早苗政権は真正面から否定し始めたのである。曰く、こうだ:

―政府債務残高は「今すぐ支払わなければならない債務」というべき純金融債務と、「時間をかけて出費が生じていくに過ぎない債務」としての総債務に分けて考えるべきだ。そして後者ではなく、目下の課題は前者なのであって、その金額は対GDP比でたかだか110%程度に過ぎない。この値は米国勢等に比べても全くもって問題ではないレヴェルなのであって、まずはそのことを議論の出発点にすべきなのである。

―そして純金融債務残高を考えるにしても、大事なことは去る2022年より我が国はインフレ基調に転じているという事実である。つまり借金をしている側=政府の側はこのインフレによって事実上、得をするのであってそれが2026年度だけでも180兆円ほど生じる見込みである。日銀に対する返済・利払いを引いても、90兆円は残るはずなのであって、これを成長投資に用いることにより、実質GDP(既に上向き始めている)を引き上げることに成功すれば、我が国は見事にrebootし、政府債務残高問題はソフトランディングすることが出来る。

―なお、この様に述べると「長期金利が急騰し始めているのであって、利払いだけでも政府の負担は甚大だ」という議論があるが、これもまた事実誤認である。市中金利である長期金利をもって政府債務の利払いが行われてはいないのであって、それが故に「長期金利が急騰しているから政府の借金は雪だるま的に増える」という議論は正しくない。

こうした議論を、財務省が述べるわけもないと思い、少々、deep throats経由で調べてみると正にそうであった。側聞するに、現在、首相官邸で総理大臣秘書官を財務省も出しているが、同秘書官は総理執務室に入ることも許されず、指示は何と、高市早苗総理大臣から電話をされた片山さつき財務大臣から受ける電話連絡で受けるといった呆れた状況に(可哀そうに)置かれているのだという。それでは、上記の様な何とも珍妙な議論を誰が述べているのかというと、いわゆる「民間アナリスト」であり、高市早苗総理大臣の「経済ブレーン」と称するお歴々が垂れ流しているのである。そしてそれを大手メディアたちは例によって例の如く多くの場合、「大本営発表」よろしく垂れ流し、「大丈夫だ、大丈夫だ」と連呼している。

このブログをお読みなられている多くの読者の皆様が経営リーダーであると思うので、上記の「議論」が全くもって笑止であることは先刻ご承知ではないかと拝察する。これはいわば、「町場の中小企業会計」の話を国家にあてはめたに過ぎないのである、要するに。すなわちB/Sでは長期債務がかなりあったとしても、P/Lで現金が廻っていれば、市中の金融機関は運転資金を出すのである。これが正に上記でいう「純金融債務」の議論に他ならない。しかし、なぜそんなことを銀行員たちが許すのかというと、所詮は2年もすれば異動になる中、自分の担当する借り手が破綻してしまったらば銀行員自身の成績評価に×がついてしまうからなのである。その結果、ゾンビ企業が我が国には大量に出来ているわけであるが、そこに「決定的な瞬間(critical juncture)」が訪れないのかというと全くそうではないのである。固定金利で金銭消費貸借がこの段階では行われることはまずなく、変動金利へと契約が変えられているのがほとんどだ。そしてその前提としては「長期金利が上がらない」というロジックが語られるのが常なのであるが、それが上昇し始めているのが今の現実なのである。すると、利払いだけできつくなるゾンビ企業たちは、ただでさえ乏しい成長のための投資を渋るに様になり、イノヴェーション、すなわち新たな付加価値の創出によるrebootの可能性を自ら削いでいく。結果、長期債務の支払いは当然のことながら出来ないということになり、最後は「御臨終です」と、マーケットにおける論理に基づき、市中の金融機関から言われるに過ぎないのである。

高市早苗政権の側は、こうした形で「街場の経理事務員のノリで国家の財政運営をするな」というと、きっとこう再反論してくるだろう。「17も成長分野を特定し、これに対して優先的に投資することにしている。だから必ず復活する」と。しかしこれら17の分野は結局のところ、中長期的な成長をもたらす分野に過ぎないか、あるいは安全保障投資なのであって、すぐさま利益を生む手合いのものでないものばかりなのである。唯一あるとすれば「防衛関連」への投資なのであるが、それですらその様な「仕込み」がなされていることを国民には明確な説明すらなされていないのが実態なのだ。同時に、「総債務」の本丸である社会保障費についてはこれを「事実上支払わない」報告へと議論を進めるべく、御墨付を得るためだけの「国民会議」が招集され、給付金税額控除という「毒饅頭」におびき寄せられた野党各党がそこに集まり、ハンコを押そうとしているのである。しかし、こうした状況を米欧勢を中心としたマーケットの”猛者”たちが見過ごすわけもないのである。そうした状況、努力が見られれば見られるほど、段階的に我が国の長期金利は上昇に次ぐ、上昇を重ねていく。そして最初の「閾値」である2.5%強を超える中、我が国の市中経済が地方の現場から崩壊していくことになる。他方で、防衛分野で新参者の我が国が売れるわけもないのであって、にわか作りの「インテリジェンスごっこ機関」は所詮、防衛マーケットでは競合相手である米英勢からの「情報」に依存するのは目に見えているわけだから、結果として「そんなに防衛装備品(要するに兵器)を日本は売りたいのであれば、まずもって自分で買って、使えば良いだろう」ということになってくる。「高市一強」はそうした中で、「目の上のたんこぶ」である日本国憲法の基本原理である「平和主義」を取り除くべく、憲法改正へと動くのは必然といえば必然なのかもしれない。さらに、時間稼ぎをするため、「本気でやっているのだから、複数年度にまたいだ財政の枠を創出する」と喧伝し、憲法の根本的な原理を知らない私たち市井の者たちを煙に巻こうとする。しかしこれこそ立憲主義の根本である「財政民主主義」を真正面から否定する天下の蛮行なのである。これに対して御用メディアたちは一切批判を述べることなく、また本来ならば「それはさすがに憲政の常道に外れます」とストップをかけるべき官僚たちもまた、人事権を内閣人事局に握られているため、何も出来ないのである。そしてひたすら「この誤った方向」へと我が国はここから突っ走ることになり、「破綻の時」を迎えることになる・・・。

端的に言おう。この半年、そして2027年、さらには2030年くらいまでの間、このプロセスは怒涛の如く進むことになる。しかし諦めることなかれ。問題は「その次」なのである。中四国に漂う心地よい安逸の中だからこそ、今漲る何かを脳裏に感じている自分がいる。我が国ニッポンの「次の次」。それこそが、本当の焦点であり、我らが創り上げるべき本当の未来なのだ。

(*弊研究所では引き続き、こうした「次の次」の時代を共に創造するメンバーを募集しています。こちらこちらの記事をご覧頂き、是非ご関心のある方は「Pax Japonicaに対するご自身の想い」を400~600字以内でまとめた上でメール(recruit●haradatakeo.com(●は@です))までご連絡下さい。皆様のご応募をお待ちしております。)

2026年2月22日 呉の美しい港を臨みつつ

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト

原田 武夫記す