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2022年の回顧と2023年への展望 ~注目すべき6つのトレンドとは~ (IISIA研究員レポート Vol.103)

2022年という年を回顧すると、それは「国家中心の国際社会」を前提とした「古典的リアリズム」(モーゲンソー)への回帰とも形容できよう。その典型が2月に勃発した「ウクライナ戦争」である。モーゲンソーは「政治は客観的法則に支配されており、社会をよりよくするためには、その社会を動かす法則を理解すること」が重要だと説いたが、こうした客観的法則を支配する、いわゆる根源的階層の動きの顕現がみられたのも、2022年の特徴であった。7月には我が国で安倍晋三元総理大臣が「遭難」し、去る9月27日に執り行われた国葬には、各国勢の国家元首らが多数来日し、大規模な弔問外交が展開された。さらにそのわずか1週間前にあたる9月19日(GMT)にはエリザベス英女王の「国葬」も執り行われた。特に後者、エリザベス英女王の「逝去」は、根源的な階層のネットワークそのものの変転を意味している。

(図表:エリザベス英女王の国葬)

(出典:NBC

さらに、金融においては歴史的円安の加速、そしてこれらのイヴェントを新型コロナウイルスによる「今次パンデミック」が通奏低音の如く流れ、国内外情勢に揺さぶりをかけてくる、そんな一年であったが、これらは同時に、2023年から始まる世界史の大転換、いわば「グノーシス主義的転回」に向けた“プレリュード”とも言えるのではないか。

ここにいう「グノーシス主義的転回」とは、まさに「日本バブル」の再来とそれに続く「日本デフォルト」の発生、更に、そこから不死鳥の如く復活(resurrection)し、“パックス・ジャポニカ(Pax Japonica)”の時代が到来する、という弊研究所が描くシナリオの実現である。では、2022年の“プレリュード”に続いて、2023年に奏でられる“インターリュード”はいかなるトレンドとなるのか。以下6つのトレンドからこれを読み解いていく。

1.米欧勢の凋落

2022年の米中間選挙では、共和党による「レッド・ウェーブ」(赤い波)は起きずに、民主党が善戦するという結果となった。これを受け、共和党は来る2024年の大統領選に向けて戦略の練り直しを迫られてる。「トランプ頼み」ではもはや勝てないという中で、トランプ時代以降、“冷遇”されていた保守系シンクタンクがその役割を復活させられるかどうかがカギとなろう。

他方、より中長期的にみると、弊研究所では、来る2024年の米大統領選は武力を伴う形で「南北戦争」に匹敵する「内戦」が発生するとの分析ラインを展開してきた中で、米国勢の中でもそうした論調が“喧伝”され始めている点に注目したい(参考)。

さらには、「内戦」への突入を前に、米国勢としては、「世界の警察官」としての役割を漸次縮小させつつ、その役割を米国勢に匹敵する国力をもった他国勢に移譲することで、「グローバル共同ガヴァナンス」なる体制の構築に動くのでは、との分析ラインも展開している中で、事実、中国勢との間では、表向きは半導体規制などを巡り“角逐”が演じられているものの、裏では、例えば、「ウォール街の重鎮」ともいわれるジョン・ソーントン・元ゴールドマン・サックス共同会長が極秘に訪中し、「米中交流の非公式ルート」で対話を重ねているなど(参考)、その“潜象”が徐々に顕現しつつある。

他方で、「ウクライナ戦争」にて戦場を提供している欧州勢は、エネルギー危機を背景として凋落の一途を辿っている。まさにシュペングラーがその著書『西洋の没落(Der Untergang des Abendlandes)』で説いた潮流の再来である。ここでいう西洋(アーベントラント)とは、キリスト教による紐帯などにより欧州勢をして統合せんとするヨーロッパ諸民族を貫く政治理念を指す。

例えば、去る2022年12月にはドイツ勢において、極右勢力の「ライヒスビュルガー(帝国市民)」による「クーデター未遂計画」が明らかになり、世界に衝撃を与えたが、これは、単に第三帝国(ナチス勢)の復興ではなく、第二帝国(ドイツ帝国)への回帰を目指していたという点に、ドイツ社会、ひいては西洋(アーベントラント)の「闇」の部分を感じざるを得ない。

(図表:身柄を拘束される「主犯格」ハインリッヒ13世)

(出典:BBC

2.「中国問題」の処断

西洋が没落するとなると、それとのトレード・オフの関係で台頭するとみるべきはアジア勢の動向である。去る11月、APECにおいて中国勢の習近平国家主席が「アジア太平洋は誰の裏庭(バックヤード)でもない」と表明したが、「富の東漸」を前提とした新しい秩序が創られ始めることを踏まえると、同表明はそれなりの重みとインパクトがあるものと言える。

他方で、注視すべきは、やはり台湾有事、朝鮮半島情勢である。定量分析上、3月に我が国固有のリスク急上昇が看取されていることから、その要因としては東アジア勢における地政学リスクの“炸裂”という可能性も指摘されている。中国本土を4分割するという「中国問題」の処断が加速するかがカギとなる。

3.インド勢の台頭

インド勢を巡っては、去る11月のバリG20サミットにおいてロシア勢と米欧勢との間で議論のとりまとめのために奔走していたとの情報もあるように、その役割の帰趨が焦点となる。

特に2023年はG20議長国という立場を最大限利用してインド勢が新世界秩序への転換にあたり、どこまでの役割を果たすのか、同国勢は、世界最強のインテリジェンス機関を全世界に展開しているとの非公開情報がある点も踏まえつつ、注視すべきである。かつて、英国勢の自動車メーカー「ジャガー&ランドローバー」はインド・マネーで復活を遂げたが、同様の展開が他のセクターなどでも起きるのではないか。

(図表:自らジャガーを運転するエリザベス女王)

(出典:BAZAAR

4.マーケットの変転

去る12月20日に日本銀行が事実上の利上げに踏み切ったこともあり、2022年の秋にみられた「歴史的円安」は今後の「歴史的円高」へ向けた序章であったと後に回顧されるのかもしれない。「高金利国の通貨は買われる」との原理原則により、今後一層円高への転換が促される中で、一般的には「株安に導かれる」との言説(ナラティブ)が“流布”されている。

しかし、ここで2022年を通じて“越境する投資主体”らが我が国に相次いで来日していたことを改めて想起いただきたい。今後、通貨のみならず、株も日本だという流れが確定的となれば、「円高かつ株高」という平成バブル期の状況が再来することとなる。「株高」は達成できても、同時に「円高」を達成できなかったところに、アベノミクスの限界があったとも指摘される中、岸田政権が「資本の流入」を大幅に促す措置を講ずることで、これを実現できるか否かがカギとなろう。

5.通貨秩序の変転

また、株式市場以外においては、仮想通貨、とりわけビットコインの帰趨が焦点となる。ビットコインに関しては、「ハッシュレート」「ドミナンス」「半減期サイクル」という3つのサインをみることで、ある程度、相場を読むことができるともされているが、2024年は4年に1度の半減期がやってくるので、次なる暴騰局面は2年後の2025年になるとの見立てもある。

他方、我が国においても他国勢同様、ステーブルコインの国内流通が解禁されたり、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入に向けた動きが活発化している。これまで民間が発行主体で価値が不安定であった仮想通貨には手を出さなかった層も、中央銀行が発行主体となることで“安心・安全”をうたうCBDCであれば参入してみようという動きも少なからず起こるであろう。

しかし、中央銀行が発行主体となっているからといって、その価値が100パーセント保証されているということは全くもって幻想に過ぎないということを改めて想起すべきである。特に国家債務不履行(デフォルト)局面となった場合のデフォルト・リスクである。

最終的にこれらデジタル通貨に寄せられた大量の緩和マネーが「不胎化」政策により一気にその大規模な消失が“演出”されるか否か、また、それの向こう側で構築される、グローバル社会全体を包摂するような新たな金融秩序が構築されるか否か、という点がカギとなる。

6.エネルギー秩序の変転

「金融秩序」が変転する際には、相前後して「エネルギー秩序」の変転も起きるという歴史の法則を踏まえなければならない。去る1912年、ロスチャイルドの「代理人」とも言われた英国勢のウィンストン・チャーチル海軍大臣は、英国海軍の戦艦群に使用する燃料を石炭から石油に転換し、その後、大蔵大臣時代には1925年に金本位制に復帰(金解禁)していることからも、「金融とエネルギーは同時に変転する」という点がカギとなろう。

そうしてみると、いずれのデジタル通貨もブロックチェーンを利用した仕組みであるという点では、膨大なエネルギー消費を必要とし、石炭への「回帰」まで招いてしまっているという負の側面が指摘されている。中には、「環境に優しい持続可能な仮想通貨」なるものも“喧伝”されつつあるが(参考)、ブロックチェーンを基盤としている限り、その効果は限定的であろう。

そうした中、ドイツ勢においては、これまで「脱炭素化」の決め手とされてきた水素エネルギーの利用が、気候に対して悪影響を与える可能性があるとの報告が発表された(参考)。水素が大気中に散布された際の温室効果は二酸化炭素以上であるというのだ。

水素エネルギーを積極的に進めてきた欧州勢としては、今後、大規模な方向転換も求められることになりうる。そうすると、課題となるのは、「ポスト・水素エネルギー」である。

米国勢では核融合を巡り「歴史的成果」を達成したと“喧伝”されているが、やはりそこにも“落とし穴”はある。プリンストン大学のEgemen Kolemen助教は、「核分裂反応とは違うものの、核融合反応もやはり核反応であるから、少量ではあっても核のごみが生じることは避けられない」と指摘しているように(参考)、持続可能なエネルギー源という意味では、必ずしも「ポスト・水素エネルギー」とは言えないのである。

核融合は「小さな太陽」とも形容されるが、やはり、太陽そのもののエネルギーを効率よく取り出すということが、シンプルでかつ現実的な解ではないだろうか。とは言っても、現在、その廃棄問題が“喧伝”されているように、太陽光パネルをただ闇雲に増設する、というのではなく、先端技術の実装によるスマートな解決策である。「量子ドット技術」により、可視光線の両側にある帯域(遠赤外線、近紫外線)も活用することで夜間でも発電を可能とすることにより、現在の8倍の発電量を確保できるというが、こうした「本質的な議論」に立ち返ることでもたらされるイノヴェーションの創出が今後はカギとなる。

かつて、ニュートンは主著『プリンキピア』の巻末で”Hypotheses non fingo”(「私は仮説を作らない」)との宣言を付している。「万有引力の法則」を提示するにあたっても、なぜ引力は発生するのか、という原因については、「神の意志」の顕現であって、仮説を立てる必要はないとし、いわばその力学的な説明を放棄したのである。晩年、ニュートンはオカルト研究に没頭したことでも知られているが、あるいはニュートンはこの「神の意志」の立証を試みていたのかもしれない。

「先端技術の社会実装を通じた課題の解決」、弊研究所が掲げるヴィジョンである“パックス・ジャポニカ”の中核をなす定義であるが、まさに2023年は、いわばニュートンが説明を放棄した「本質的な議論」に関して、その立証に向けたプロセスが駆動するための第一歩となる年となるのではないか。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
原田 大靖 記す

*本コラム内にある見解は、弊研究所の一致した見解ではなく、執筆者個人の見解を示すものである。

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