熱狂の仮想通貨-イーサリアムの死角-(IISIA研究員レポート Vol.28)
暗号通貨(仮想通貨)ビットコイン(BTC:Bitcoin)に続きイーサリアム(ETH:Ethereum)の価格が高騰している。
今月(2021年2月)2日に初めて1500ドル(約15万8000円)を突破してから2週間余りで2000ドル(約21万1670円)を突破した(18日朝)。
(図表:イーサリアム)
(出典:GMOコイン)
イーサリアムは去る2013年にウォータールー大学の学生であったヴィタリック・ブテリンにより構想され、2014年にプログラミング言語C++で実装されたクライアントがリリースされた。その後2015年に最初のβ版「Frontier」がリリースされた。
イーサリアムではイーサリアム・ネットワークと呼ばれるネットワーク上でスマート・コントラクト等の履行履歴をブロック・チェーンに記録する。イーサリアムはこの履行履歴の記述のための完全なプログラミング言語を持ち、ネットワーク参加者は内部通貨「Ether」を目当てに「マイニング(採掘)」と呼ばれるブロック・チェーンへの履行履歴の記録を行う。
この「マイニング」はビットコインでも行われているのであるが、これに関連して気になる情報がある。
先月(2021年1月)、ビットコインのマイニングにおいて中国勢、米国勢に次ぐ世界第3位のハッシュ・レート(処理速度)イラン勢が仮想通貨マイニング装置4万5000台を押収し、更にはマイニング施設を閉鎖するなどしたために世界的なビットコイン取引の混乱が“喧伝”されたのである(参考)。
そもそもイラン勢はビットコインを米国勢による経済制裁から免れる手段として活用してきた。去る2019年7月には仮想通貨のマイニングを合法産業とし昨年(2020年)11月には同国勢でマイニングされた仮想通貨を他国勢からの輸入代金の支払いのために交換することを可能とする法改正を行っていた(参考)。
しかし去る(2020年)12月ごろには同国勢において大規模な停電が相次ぎ、これがマイニングによって大量に電力を消費するためであるとの説明がなされた。
そして去る(2021年2月)18日(米東部時間)、米国勢の半導体メーカー大手NVIDIA社がイーサリアム専用のマイニングプロセッサーの発売を発表し、来月にも世界的に発売される旨、中国勢系メディアにより“喧伝”された(参考)。
当該プロセッサーはピーク・コア電圧と周波数が低いためマイニングの電力効率が向上され、さらにこれまでマイニングにおいて既存のゲーム用のグラフィック装置が使われていたことによる既存製品の供給不足を解消する狙いがあるとされる(参考)。
特にこのマイニング専用製品の需要が高いと考えられるのが中国勢である。
中国勢において仮想通貨は基本的に禁止されているものの世界で最も多くマイニングを担っているのも中国勢である。
しかし昨年(2020年)11月には中国勢当局による暗号資産に対する規制の強化によりマイナー(暗号資産の採掘者)がビットコインなどを人民元に交換できず電気料金が払えなくなっている旨“喧伝”された(参考)。更に今月(2021年2月)には中国勢においてイーサリアムのマイニングのためマイナーがゲーミングPCをまとめ買いしゲーマーと奪い合いになっている旨“喧伝”されていた(参考(1) (2))。
こうした状況に鑑みればNVIDIA社のマイニング専用製品は第一に中国勢のマイナー向けであるのではないか。そしてイラン勢におけるマイニングによる電力不足の“喧伝”やイーサリアムの高騰はこうしたマイニング専用商品の発売のためであったとも考えられる。
他方でイーサリアムは「イーサリアム2.0」と呼ばれる大型のアップデートを進めており、このアップデートにおけるアルゴリズムの移行によりマイニングは不要となり、したがってマイニング専用商品はすべて使われなくなる可能性がある。
仮想通貨を巡る更なる転換が中国勢を中心に起こっていくことになるのか。
引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
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