「グリーン市場」“加速”が意味するもの(IISIA研究員レポート Vol.37) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「グリーン市場」“加速”が意味するもの(IISIA研究員レポート Vol.37)

パンデミックによってESG(環境・社会・ガバナンス)のトレンドが加速している。

グリーン・ボンド、グリーン・ローン、スクーク(イスラム債券)、グリーン資産担保証券(ABS)などを含むグローバルなグリーン発行が継続的に増加しているという(参考)。

(図表:environmental finance)

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(出典:Wikipedia

昨年(2020年)の世界のグリーン・ボンド発行額は2,700億ドルを超えた(参考)。2015年から2020年にかけては累計で1,002兆ドルに達しているとの試算もある。

去る2006年にコフィ・アナン国連事務総長(当時)が国連責任投資原則(UNPRI)を提唱したことがきっかけだ。その翌年(2007年)に欧州投資銀行(EIB)がグリーン・ボンドの前身となる「気候変動への認知度を高める債券」(「Climate Awareness Bond」)を発行し、続いて2008年に世界銀行が「グリーン・ボンド」という名称で初めて発行した(参考)。

現在、世界各国がCOVID-19からの復興計画に環境プロジェクトを盛り込んでいる。そのためには莫大な額の新たな借金をする必要がある(参考)。

欧州中央銀行(ECB)はグリーン・ファイナンスにかなり力を入れている。欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は昨年(2020年)9月、コロナ対策のための約8,820億ドルの資金のうち、30パーセントをグリーン・ボンドで調達することを発表した(参考)。ドイツ政府も同月に65億ユーロ(約77億ドル)のグリーン・ボンドを発行したが、これが昨年(2020年)最大の発行額だった(参考)。

(図表:ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長)

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(出典:Wikipedia

世界経済フォーラム(通称:ダボス会議)もCOVID-19からの回復におけるグリーン・ファイナンスの重要性を“喧伝”する(参考)。

今年(2021年)1月、日米欧の中央銀行はESG(環境・社会・ガバナンス)重視の政策運営を加速すると発表した。欧州中央銀行(ECB)は金融緩和のための資産購入の対象に「グリーン資産」を加え、企業の環境投資を後押しするという(参考)。

世界のグリーン・ボンド市場は2023年までに2兆3,600億ドル規模になるとも言われている(参考)。

我が国においても東京都が個人と機関投資家向けに発行しているSDGs債券である環境債「東京グリーン・ボンド」は昨年(2020年)完売(200億円)し、累計で300億円となるなど人気だ。他の地方(長野県と神奈川県)でも発行するところが増えている(参考)。

しかし、100兆ドル以上と推定される世界の債券市場において2020年の「グリーン・ボンド」の発行額はその1パーセントに満たないのが実態だ。

およそ10年前まだグリーン・ボンドの市場規模が小さい時の最大の問題点は流動性の低さであった。流動性の高さを投資家が要求する中で、流動性の低い債券を選択させるために利子といった対価による動機付けが必要だ。

しかし、グリーン・ボンドの利率は低いものが多いのも特徴だ。今起こっていることは「気候変動」を中心とした環境問題が世界的に叫ばれる中で「グリーンであれば正しい」というトレンド、「盲目的な」志向が強められている感も否めない。

グリーン・ボンドの85パーセント程度しかその名に値しないとの警告もある。残りは、資金を環境に優しいプロジェクトに使用しても、他の場所でマイナスの影響を与える活動を行っている企業によって発行されている(参考)。

(図表:ロンドン)

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(出典:Wikipedia

現在のグリーン・ボンドの仕組みは、先進国市場のために設計されたものであり、それをそのまま新興市場に適用することはできないのが現状であるとの指摘もある。

先月(3月31日)ロンドンのインペリアル・カレッジ・ビジネススクールが発表した調査報告書によれば、新興国の債券のルールを決める際に先進国市場の基準が重視され過ぎており、環境面で最悪の状況にある新興市場は「トランジション(転換)」のための資金を最も必要としているにもかかわらず、必要な資金を集めることがますます困難になってきているというのだ(参考)。

一部の新興国ではグリーン・ボンドが販売されているものの、やはり主流は欧州勢である。しかし、欧州内でも「グリーン・プロジェクト」の要件については決まった定義がなく、また、アジア勢においては各国がさまざまな種類の債券に取り組んでいるため、さらに断片的な状況となっている(参考)。

今年(2021年)4月に2日間に渡って行われた気候変動サミットにおいてバイデン新米大統領は自国の温室効果ガスの排出量を2030年までに半減させる新たな目標を表明するとともに、途上国を支援するための資金を大幅に増やす方針を示し、米国が気候変動対策で世界をリードしていく姿勢を打ち出した(参考)。

「理念」を先行させる形で、いまだに混沌とするグリーン市場における今後の展開を注視したい。

グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst

二宮美樹 記す

前回のコラム:蠢く「南アジア」は何を目指しているのか

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