蠢く「南アジア」は何を目指しているのか (IISIA研究員レポート Vol.35)
インド勢とバングラデシュ勢が2022年までに「南アジア」の「歴史的成長」を後押しすると世界銀行が発表した(参考)。
昨年(2020年)に起こったコロナ・パンデミックの影響によって「南アジア」は推定成長率が5.4パーセントに縮小したが、今年(2021年)は7.2パーセントの成長が見込まれている。この歴史的な成長率を取り戻す鍵となるのがインド勢とバングラデシュ勢だというわけだ。
(図表:南アジア)
(出典:Wikipedia)
「南アジア」とはヒンドゥスターン平野(Indo-Gangetic Plain)とインド半島からなるアジアの小地域(subregion)を指す。バングラデシュ勢、インド勢、パキスタン勢、ブータン勢、ネパール勢、スリランカ勢などが含まれる。世界最古の文明のひとつであるインダス文明の本拠地であり、地球上で極めて人口密度の高い地域のひとつとなっている(参考)。
世界銀行はバングラデシュ勢を「過去10年間、世界で最も急速に成長している経済国」のひとつに挙げた(参考)。
10年前には想像もできなかった昨今のバングラデシュ勢の経済的成功の要因は「シェイク・ハシナ・ファクター」とも呼ばれている(参考)。
バングラデシュ首相を務めるシェイク・ハシナ(Sheikh Hasina)は「バングラデシュ独立の父」で初代大統領ムジブル・ラーマンの長女として生まれた。しかし、1975年に父ラーマン大統領と母、3人の弟がクーデタにより暗殺される。このときドイツ滞在中だった同氏は難を逃れた。そして英国およびインドで亡命生活を送る。同氏が亡命先の英国からバングラデシュに戻った1981年3月17日は「帰国の日」(Homecoming Day of Sheikh Hasina)として今でも毎年祝われるほどだ。
(図表:バングラデシュのシェイク・ハシナ首相)
(出典:Wikipedia)
インド勢の躍進ぶりは周知の事実だ。モディ印首相は今年(2021年)1月3日に過去数十年の間インド「外」から多国籍企業が入り成長してきたことに触れ「新たな10年はインド国内から多国籍企業をつくり、インド勢の影響力を世界に広げていく上で完璧なタイミングである」と述べた(参考)。
そんなインド勢を巡って最近の「南アジア」の動向が強い関心を呼んでいる。
今年(2021年)2月25日、インドとパキスタン両軍が2003年に締結したカシミール地方での停戦合意を順守するとの異例の共同声明を発表した。その背景にはアラブ首長国連邦(UAE)による仲介があった(参考)。そして、インドとパキスタンは大使の相互派遣も再開する協議を始め、関係正常化の可能性が出ている(参考)。
両国は1947年に英領インドから独立し、対立を続けてきたわけだが、このタイミングでの「大団円」は結果としてこの両国間の紛争が“演出”であったことを示唆しているともいえる。
他方でインド勢はパキスタン勢どころではない状況とも言われている。
現在、インド勢はミャンマー勢に対する外交政策上のジレンマに陥っているのである。
インド勢は近隣地域における中国の拡張に対抗するため、地政学的な意味で中国勢を意識した外交戦略に立っていた。その一環としてミャンマー国軍と緊密な協力関係を進め、ミャンマー勢における影響力を高めていたのである。
ところが今年(2021年)2月ミャンマー勢において起こった軍事クーデタを受け、外交政策上、再調整を余儀なくされている(参考)。
ミャンマー勢に対する国際社会、特に米欧勢からの批判が高まる中において、米国勢にも深く浸透してきたインド勢はその立ち位置において厳しい選択を迫られている(参考)。
最終的には「戦争経済」の需要創出を必要とする米欧勢が、その舞台として南アジア勢における不安定化および地政学リスクを拡大させる流れになっているようにも伺える。
実際には米欧勢は深層の部分において一体であり、過去において振り子のように第三国を揺さぶってきた歴史がある。
経済成長著しい南アジア勢における地政学リスクの“炸裂”という“演出”に注意が必要かもしれない。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す
前回のコラム: 未来の「潮目」を予測分析する
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