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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第23回 利益供与

随分とご無沙汰している間にフランスも完全に秋となりました。今夏は残暑が続き、9月の終わりまで20度以上の日々が続いていたのですが、いきなり最低気温5度前後の日々に突き落とされもうヒートテックなしには過ごせません(笑)。日も段々と短くなってきて、もう冬も間近です。昨年は暖冬でしたが今年はどうでしょうか…。

さて、今回は利益供与についてお話してみたいと思います。

「利益供与」という言葉は、会社法第120条において「株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し財産上の利益の供与をしてはならない」[1]と規定されており、そもそもは株主総会での総会屋対策を取り締まる意味で使われてきていますが、今回は、グローバル進出する日本企業の課題としての「利益供与」ですので、「本社」と「海外拠点」との間で生じる「利益供与」問題について取り上げたいと思います。

分かりやすい事例では、海外拠点を立ち上げる際の本社からの支援についてです。新拠点立ち上げ時には業務量と比して現地法人に限られた数の人材しかいないのが通常であり、それを補うために本社から出張或いは一定期間の出向といった形で人材を派遣することも多いと思います。しかし、これに関わる人件費や旅費といった様々な費用を本社が負担した場合には、「子会社」に対する利益供与と見做されてしまいます。何故なら、新たに設立される「子会社」は現地での「売上げ獲得」に向けて設立準備を整えているわけで、その過程において本社から便宜を得ているために、この便宜は経済的な便益と見做されるからです。経済的な便益を受けたからには対価を払うのが当然なのですが、特に新拠点の立ち上げ時などには、その拠点で利益がすぐに出ることは少なく、本社側で費用を負担したままにしてしまうといったケースがよく見受けられます。

この海外拠点立ち上げの際の支援が「利益供与」と見做される点については、多くの企業において海外展開がなされている現在、情報が十分に提供され始めてきた感がありますが、コンサルなどを適宜利用できる大企業では対応が出来ていても企業規模が小さい場合にはなかなか対応が進んでおらず、税務署から指摘を受けて初めてこうした便宜が「利益供与」に当たることを知るといったケースも少なくないようです。

一方で、上記のような海外拠点立ち上げの際の支援出張は「利益供与」と見做されることが確実になっているからまだ分かりやすいのですが、本社からの支援出張にも様々な目的があり、海外拠点に展開している駐在員や現地職員の業務によっても、本社が出張旅費を負担した場合には「利益供与」に分類されてしまう出張と、そうではなく本社が出張旅費を負担しても問題はない場合の出張とに大別される点、注意が必要です。例えば、ある製品の専門家が海外拠点におらず、ビジネスも獲得していない場合には、本社の製品のプロモートということで本社が出張費を負担して出張者がくることに問題はありません。反対に、関係者が海外拠点にいる場合には、たとえ国際展示会等の説明員として日本から出張者を派遣するにしても、広義では海外拠点のプロモート支援と見做すことができることから、海外拠点側が出張費を負担しなければいけないことになります。「利益供与」と見做されるかどうかは、その行為が海外拠点の売上、すなわち利益の計上に繫がるかどうかがポイントであり、都度そこをきちんと見極めて出張対応が「利益供与」に当たらないかどうかを確認していかないと、海外拠点の設立から年月が経っていても税務署の指摘を受けてしまうという事態が起こりえます。

移転価格税制は、取引価格の操作等を通じて海外に所得を移転することを防ぐために作成されているものであり、一般には、本社が海外拠点の子会社を通じて物を販売する場合の取引価格設定を適正に行い、グループ間の所得配分が適切となるよう対応を求めるものです。しかし、直接的な物の販売の場合のみならず、上記に挙げた出張等の支援についても、移転価格税制に基づいて適正な対価設定を行っていかないと、「利益供与」と見做され課税対象になってしまうというリスクが潜んでいることを認識する必要があります。

国際税務は専門外ですので、実際に見聞きした事例について海外拠点において起こりうるリスクとして注意を促すことしかできないのですが、国際税務への対応は非常に複雑であり、所得移転を行う気など毛頭なかったのに移転価格課税を受けてしまったなどという事態を引き起こさないためにも、海外展開を図る際には専門家の意見を取り入れて十分な対応を心掛けていくことが肝心です。

 

プロフィール

川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。     現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。

リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得       主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

[1] https://ja.wikibooks.org/wiki/%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E6%B3%95%E7%AC%AC120%E6%9D%A1

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