我が国における事業承継の実態(クスノキ・プロジェクトへの招待 Vol. 17)
インターン生の田頭優花です。
「事業承継が、いずれは考えなければならない課題として意識しながらも、日々の業務で後回しになっている」
「日本企業における事業承継問題は深刻だと語られることも多く、漠然とした危機感を抱いている」
そのような経営者の方は、決して少なくないのではないでしょうか。
全国・全業種約27万社を対象とした2025年の調査によると、後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下しました。7年連続で前年水準を下回っており、我が国全体として見ると、後継者不足は緩やかな改善傾向が続いているようにも見えます。しかし、企業規模別にその内訳を見てみると、状況は大きく異なります。大企業では後継者不在率が24.9%にとどまる一方で、中小企業では51.2%、なかでも小規模企業では57.3%と、全国・全業種平均を上回る水準にあります。改善幅を見ても、大企業が5.5ポイント改善しているのに対し、中小企業は3.7ポイント、小規模企業では2.9ポイントにとどまっています。つまり、中小企業ほど後継者対策が進みにくい構造が依然として残っているのが実態です。この差は、単なる経営者の意識の問題ではありません。
大企業における事業承継では、
- 人材要件の明確化
- 後継者候補の選出
- 後継者候補に対する計画的な育成
- 登用判断のための評価の実施
といったプロセスが構造化され、常に後継者候補のプールが意識的に整備されています。承継が経営システムの一部として設計されているのです。一方で、中小企業ではこうした構造的な仕組みが整えられておらず、事業承継が後回しになる傾向があるのではないかと考えられます。しかしながら、事業承継を先送りにすることには明確なリスクが伴うことが、数字で示されています。

2024年→2025年の後継者策定状況を見ると、2024年時点では後継者候補がいたにもかかわらず2025年に後継者不在となった「計画中止・取りやめ」は、経営者の年齢が高くなるほど比率が上昇し、80代以上では4.7%と全年代で最も高い水準となっています。高齢になってから承継を進めようとすると、途中で頓挫するリスクが格段に高まることが、データから明らかなのです。一方で、事業承継は必ずしも「リスクの削減」を意味するものではありません。中小企業を対象とした調査で、事業承継後の経過年数別に売上高成長率を見ると、興味深い傾向が見えてきます。承継1年後では、売上高成長率が概ね±0.15%の範囲に収まる企業が最も多く、全体としては横ばい傾向にあります。しかし、年数が経過するにつれて分布は大きく広がり、承継9年後には、成長率が-0.45%に低下する企業が増える一方で、0.75%以上の成長を遂げる企業も増加しています。
つまり、事業承継後、「成長する企業」と「成長しない企業」に二極化していく可能性があるということです。この差を分ける要因のひとつが、経営判断の質をどこまで引き継げているかだと考えられます。事業承継において、単に経営者の肩書や株式を引き継ぐだけでは不十分です。
後継者に承継すべき経営資源は、
- 「人」:後継者の選定、育成、経営権の引継ぎ等
- 「資産」:株式、事業用資産、資金等
- 「知的資産」:経営理念、営業秘密、特許、ノウハウ、顧客情報等
の3要素に大別されます。
このなかで、とりわけ重要なのが知的資産です。知的資産こそが会社の強みであり、価値の源泉といえます。ここでいう知的資産とは、単なる情報の集合ではありません。「なぜこの判断をしたのか」「何を最優先してきたのか」といった経営者の思考の順序や判断基準を含むものです。こうした知的資産を、現経営者自身が整理し、後継者に承継するための取り組みが、事業承継の成否、そしてその後の企業の成長を大きく左右します。
しかしながら、長年の経験から形成された思考を、構造的に分析し、他者に引き継ぐことは容易ではありません。
ここで活用できるのが、AIです。
とりわけ文書や会話を扱う言語AIは、事業承継における知的資産の承継を、現実的なものにする可能性を持っています。AIを用いると、過去の経営判断、会議録、業務マニュアル、取引先対応の履歴などを体系的に蓄積し、必要なときに引き出せる形にすることができます。
また、
・過去の経営判断で何を基準に選択してきたのか
・「これは譲れない」と考えてきた価値観は何か
といった、通常は言語化されない思考のプロセスを可視化することで、経験に依存していた知識を形式知化し、次世代に引き継ぐことが可能になります。
AIは、経営者に代わって意思決定を行う存在ではありません。しかし、経営者がどのように考え、どのような基準で判断してきたのかを可視化し、後継者がそれを踏まえて判断できる環境を整える道具にはなり得ます。これは、後継者にとっての不安を軽減するだけでなく、現経営者にとっても「自分がいなくなった後」を現実的に描くための基盤になります。事業承継は、準備を始めるタイミングによって、成否そのものが大きく分かれる経営課題です。改善しているように見える数字の裏側で、準備が進まない企業ほど、リスクが高まっているのです。一方で、事業承継は単なる守りの施策ではありません。自身の経営判断や思考を整理し、次世代に渡す過程そのものが、企業の強みを再定義し、成長の可能性を広げる契機にもなり得ます。だからこそ、事業承継を属人的な問題から構造的な経営課題へと捉え直し、AIという新しい道具を使いながら備えていくことが、これからの中小企業経営には求められています。
こうした問題意識のもと、弊研究所では「クスノキ・プロジェクト」を通じて、AIを活用した知識伝播・技能伝承の在り方を探求してきました。 事業承継に関心はあるものの、「何から手を付ければよいのか分からない」「AIがどのように役立つのか想像できない」「後継者に何を、どのように残すべきか整理できていない」といった悩みをお持ちの経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
そこで、3月に開催する第2回クスノキ・プロジェクト・ワークショップでは、AIを用いた事業承継の可能性を共有する場を用意しています。
第2回クスノキ・プロジェクト・ワークショップの募集は、1月31日(土)に開催する「2026年・年頭記念講演会」より開始します。
是非、御申込みください。
詳細とお申込みは今すぐこちらからどうぞ!(HPにジャンプします)
今回のブログでは、事業承継が「先送りできない経営課題」であることに言及しました。次回は、「事業承継がなぜ難航するのか」という点について、さらに踏み込んで紹介する予定です。
このブログが面白いと思って頂けますならば、インターンシップの励みになります。是非、ソーシャルメディア等で拡散して頂けると幸いです。
※当ブログの記述内容は弊研究所の公式見解ではなく、執筆者の個人的見解です。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所・インターン生 田頭優花拝