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想起されるべき「全体主義」との格闘とは。(クスノキ・プロジェクトへの招待 VoL.12)

インターン生の髙橋こころです。

弊研究所の社会貢献の一つである、次世代の人材育成を目的とするインターン生主導のクスノキ・プロジェクトの一環として「アントレプレナーシップ/グローバルリーダーシップ」の実践的な学びの機会とするべく、11月6日(木)7(金)の二日間にわたりにオーストリア・ウィーンで開催された「第17回ピーター・ドラッカー・フォーラム」に弊研究所のインターン生が参加しました。
(詳細についてはウィーン出張報告 – 外を整える日本と、内を見つめるヨーロッパ。(クスノキ・プロジェクトへの招待 VoL.10)を、また参加したインターン生へのインタビュー記事は「リーダーが答えを持つ時代」からの転換。(クスノキ・プロジェクトへの招待 VoL.11)をご参照ください)

11月26日(水)には、「2025年IISIA・ヨーロッパ出張報告会」を開催し、本出張に参加したインターン生の神野より、ゴールド会員の皆様に向けて報告を行いました。
本出張報告会は、弊研究所のインターン生が現地で見聞きした内容を元に、欧米のリーダーシップが将来の経営の在り方に語っていたことをお届けすることを目的として実施されました。

参加された会員様全員から「非常に満足」「満足」との評価をいただき、「これまでとは逆の企業経営の発想を聞くことができ、参考になった。」「AIが組織の在り方の転換に如何に役立てられるのか、その重要性を認識できた」との反響をいただきました。

出張報告会のアウトラインは概要以下の通りです:

  1. ピーター・ドラッカーとは何者であったか?思想の原点を辿る
  2. 不確実性の時代:上意下達型から「目的」を軸とした組織への転換
  3. 新たなリーダーシップ像:組織に駆動力を与える役割を担う存在
  4. AIの台頭に伴う企業の在り方の変化

本ブログでは、「ヨーロッパ出張報告会」を通して明らかにされた市民社会における民の重要性を中心テーマとして捉え、弊研究所独自の視点から振り返ってまいります。

さて、本年11月14日付のBBCのニュース記事によると、ドイツの連立政権は13日、兵力増強に向けた新たな兵役制度を導入する方針でまとまったと発表しました。新制度では、来年から18歳の男子全員が兵役を希望するかを問う質問票に回答し、2027年からは身体検査を受けることが義務付けられるというものです。こうした「再軍備」の動きはドイツに限らず、フランスも今月に入り同様の制度導入を明らかにしており、欧州全体が安全保障体制の再構築へと向かいつつあります。さらには、「再軍備」と並行して、右派ポピュリズムの台頭もみられます。右派ポピュリズムは、既成の権威や科学的知見への不信、地球温暖化への懐疑といった態度を特徴としています。こうした潮流はドイツのみならず欧州全域へと広がりつつあり、その姿は1930年代のヨーロッパにおいて資本主義・共産主義への幻滅が社会を覆い、全体主義が台頭していった過程を想起させます。

実のところ、こうした欧州勢の動きは、まさにドラッカー氏の思想を確立するに至った経緯と類似している状況であります。これについて読み解いていくために、まずはドラッカー氏の生い立ちについて触れていきたいと思います。

1939年、ドラッカー氏が30歳のとき、当時のヨーロッパは全体主義の脅威に包まれており、ドラッカー氏にとっての根源的な問いは、「全体主義はいかにしてうまれたのか」「なぜ大衆はそれに熱狂するのか」というものでした。ヨーロッパ社会が破綻に向かっていたことをドラッカー氏は、全体主義は避けられない必然だったことを論じました。彼は、全体主義を止められなかった最大の理由は「資本主義でも社会主義でもない、既存の体制の行き詰まりを乗り越えるための ”新しい社会システム” を誰も提示できなかった」ことである、と結論づけました。

つまり、ドラッカー氏の思索は「全体主義との格闘」から始まり、ナチスの台頭を目のあたりにし、市民社会・コミュニティが崩壊する過程を観察したという体験が、戦後の社会においては企業を中心として自由と平等の市民社会を作りだすことを構想し、それがドラッカー氏のかの有名な組織論やマネジメント論の根底となっていったのです。数ある「あり得べき共同体の形」の中から企業という在り方に注目した理由は、企業は資本主義社会において大多数の市民が必ず所属するコミュニティであるためでした。ドラッカー氏は、企業は経済活動の担い手であると同時に、人々が所属し、役割と居場所を得るコミュニティとしての機能を果たすべきであると考えました。そうした「個人が自分の位置・役割を持ち、自由になれる社会」の実現をする組織としての役割を果たすことのできる企業は如何にして生み出せるのか?についての思索の中で生まれたのが、「マネジメント」なのです。

以上のようなドラッカー氏の抱いた”根源的な問い”を踏まえたうえで、今回「Next Era Leadership: All hands on Deck(全員参加、総力結集)」のテーマのもとに行われたドラッカー・フォーラムの議論を眺めると、次のような明確なメッセージがあったのではないか整理されます:

世界の不確実性が高まる中、トップが決めた目標を着々と実行する上意下達型の組織から、より変化に強い組織への転換が求められる。それはすなわち、現場が主体性をもって動く組織であり、リーダーシップは如何にそうした組織を構築するか?が重要となる。その際にカギとなるのは「目的」を通じた「共感」を呼ぶことである。とりわけ、AIの台頭により労働者の存在意義が危機に直面することが喧伝される中、労働者が目的への貢献を通じ自己効力感を感じることができるような、ヒトとAIとの共存の在り方を考えるべきである。

ドラッカーが「人と人との交わりが積み重なって成立するのが人間社会であり、その最小構成要素としての人の内面の変化は、社会全体に大きな影響を与えるのだ」という視点に基づいて、全体主義を「既存の秩序への絶望に由来する、一切の事物の否定」であると分析したように、今回のフォーラムも労働者の心理や自己肯定感の在り様が強く念頭に置かれていました。そこでは、AIにまつわるディストピア的発想が、大衆を再度絶望に落とし込み、強烈な反動を巻き起こすことへの危機感さえ感じられました。

他方では、冒頭で述べたように、現在のヨーロッパには、戦火拡大の脅威から上意下達型の原理の典型である軍隊の拡張に走り、また右派ポピュリズムの台頭にみられるように、既存の秩序を破壊する強いリーダーを欲しているという厳然たる現実が存在します。これを踏まえた時、今回のフォーラムで提示された理想は、果たして現実に落とし込むことが可能なのだろうか?という疑問が生じます。理想をユートピアで終わらせず、現実に変えるためには「実行力」が問われるでしょう。

その際重要となるのが、本ブログの冒頭で挙げたキーワードである「民の力の重要性」をこれからのグローバル・アジェンダとしてひとり一人が自覚していくことではないでしょうか。

昨今、グローバリゼーションにより社会課題が国家横断的となる一方で、各国政府は自国第一主義に傾いています。さらに価値観の多様化が進む中、行政が前提とする平等の原理では個別のニーズに対応しきれず、また企業は営利の原理に基づくことから、社会課題のすべてを担う事は難しいという実状があります。だからこそ、草の根レベルでの民の力が現代社会において非常に重要なアクターとなっているのです。こうした時代の到来を早くも1990年に見越して、ドラッカー氏が非営利組織(NPO)の重要性を晩年に説いていたことは既に過去のブログでもお話しさせていただきました。

(参考:Global Peter Drucker Forumを前に。ピーター・ドラッカーの経営学は現代日本への処方箋であるか?(クスノキ・プロジェクトへの招待 VoL.9)

 

結びに、弊研究所は、こうした市民社会から巻き起こる活動の先駆けとなるべく、社会貢献事業の一つとしてクスノキ・プロジェクトを実施し、来るべきAI時代を見据えたAIリテラシーの獲得と、自発的な協同学習の場を提供しております。会員様、ひとり一人が社会課題に対して抱いている想いを、AIの支えにより形式知として継承していき、弊研究所のミッションである人々に希望と未来を与えるという意味の”Giving the People Hope and Future”を実現すべく、クスノキ・プロジェクトを引き続きアップデートしてまいります。

来年3月に開催する、ゴールド会員様限定のクスノキ・プロジェクトのイヴェントは、1月31日(土)に開催する「2026年・年頭記念講演会」から募集開始します。

是非、御申し込み下さい。

詳細とお申込みは今すぐこちらからどうぞ!(HPにジャンプします)

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※当ブログの記述内容は弊研究所の公式見解ではなく、執筆者の個人的見解です。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所・インターン生 髙橋こころ拝