「リーダーが答えを持つ時代」からの転換。(クスノキ・プロジェクトへの招待 VoL.11)
インターン生の髙橋こころです。
肌に触れる風がだんだんと冷たくなり、晩秋の訪れを感じる季節となりました。私は群馬県で生まれ育ち、毎朝、季節によって姿を変える赤城山を眺めながら登下校をしていました。今の時期になると山々が紅葉し、まるで衣替えをしたように色づきます。昔から自然の景色に癒やされながら散歩をすることが好きで、東京に上京してからも川沿いを歩き、植物や空気の変化を感じることでどこか安心した気持ちになります。
さて、本年11月26日(水)14:00より、ゴールド会員の皆様を対象にヨーロッパ出張報告会を開催いたします。出張報告会に先立ち、本ブログでは「第17回グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラム」(以下、ドラッカー・フォーラム)に参加したインターン生・神野に、参加後のインタビューを行いました。
インタビューを行う中で、私は現地へ行ったわけではありませんが、非常に多くの気づきを得る時間となりました。あらゆる情報が山積する現代において、どの情報を拾い、それをどのように自身へ落とし込み、利用・活用していくのかは高度な技術だと感じています。わずか数十分のインタビューでしたが、新たな気づきを得ると同時に、自分自身と向き合う機会にもなりました。出張報告会にご参加されるゴールド会員様にとっても、意義深い時間になると期待しております。
本年度のドラッカー・フォーラムは「Next Era Leadership All Hands on Deck(全員参加、総力結集)」をテーマに議論が行われました。これからの社会・組織・企業の展望だけでなく、ピーター・ドラッカー氏が常に私たちに問い続けてきた「人間という存在そのものの意義と役割」も、議論の中心に据えられていたことが分かりました。
ドラッカー氏の知識や知恵を過去の記憶として片づけるのではなく、AIの台頭によって労働環境が激変し、労働者のアイデンティティが転換点を迎える今だからこそ、その思想に立ち返ることで見えてくるものがあるのではないかと考えます。
Q1:ドラッカー・フォーラムに参加した時の現場の雰囲気や自身の率直な気持ちを聞かせてください。
会場に入ったとき、まず感じたのは日本人参加者の少なさでした。例年よりは増えたそうですが、300名ほどの参加者のうち、日本人は10名ほどだったのではないでしょうか。そして会議全体を通じて、日本と欧州の間にある価値観の違いを強く実感しました。
先週のブログでも触れましたが、同じ「人を中心に据えた経営」を議論していても、日本では「働きやすい環境づくり」など外側の整備に意識が向きがちです。一方で欧州では、「人はどのように自己の意義を見出すのか」という内面的な問いに重点が置かれていました。
AIに関する議論でも違いは明確でした。日本では導入事例や活用方法といった“実務的な側面”が中心になるのに対し、欧州では「人間性とは何か」「AIといかに向き合うべきか」という、本質的で哲学的な問いが議論の根幹を成していました
こうしたテーマ設定そのものが、人間らしさを軸に経営の本質を問い続けたドラッカーの姿勢を色濃く反映していると、改めて感じました。
Q2:今回の会議で一番印象深かったことは何ですか?
最も印象的だったのは、従来型の「指揮統制型」組織からどのように転換するかが、欧米のリーダーシップ論における最大の関心事であると理解できた点です。産業革命以来続いてきた「トップが方針を決め、従業員がそれを実行する」という構造を、いかに再構築するかが多くのセッションで取り上げられていました。
とりわけ、ドラッカー・フォーラムのシニアアドバイザーであるMichele Zanini氏は会議冒頭で「不確実性の時代には、リーダーが答えを持つことを前提としたマネジメントはもはや機能しない」と指摘していました。この言葉は、会議全体の方向性を象徴していたように思います。
Q3:従来型の組織構造からの転換という課題意識のもと、これからの時代に求められるリーダーシップ像とはどのようなものだと感じましたか。
重要なのは「変化に強い組織」をどう構築し、どのように駆動させていくかだと語っていました。そのためには、意思決定権の分散や、挑戦を歓迎する企業文化の醸成など、従来の指揮統制型とは異なる仕組みづくりが必要だと繰り返し語られていました。
しかし、この議論は日本にそのまま当てはめられるかというと、日本は縦割りの文化が根強いと言われるほどですから、必ずしもそうではないと思います。登壇者の中には「官僚制が破綻しているとは必ずしも思わない」と論じる学者の方もいました。そうした世界での議論の潮流を見つつ、取捨選択して日本も取り入れていくのが良いのではないかと感じました。
Q4:では、日本はどのように落としどころを見つけていけばよいと感じましたか?
今回の議論の背景には、「AIによって個人の能力が拡張される」という、労働環境の大きな変化が前提としてありました。社会の複雑性が増す中、リーダーだけが全ての決断を下すことは現実的ではありません。しかしAIを活用すれば、現場の個々人が迅速かつ合理的に最適解を導き出せるようになるということが、期待と共に語られていました。
組織の構造がいかなる形であったとしても、AIリテラシーは業務効率の向上を通じ、競争力の源泉となるでしょう。その意味で、世の中の潮流がどう変わるにせよ、個人がいち早くAI活用を出来るようになることの重要性は変わらないと感じました。
そしてそれは今まさに弊研究所が行っているクスノキ・プロジェクトを通じて推進しようとしていることであり、その意義を再確認しました。
以上のインタビューを通じて見えてきたのは、不確実性の高い時代において、もはやリーダーが唯一の正解を示すことは不可能であり、むしろチームや個々人が状況に応じてリーダーシップを発揮することが不可欠になっているという点でした。そうした認識のもとで、AI活用を巡る議論が展開されていたことも分かりました。
これは、ピーター・ドラッカー氏が生涯をかけて向き合ってきたテーマにも重なります。氏の最大の関心事は、「社会的存在としての人間の自由と平等」をいかに実現するか、そのために社会・組織・企業はどうあるべきか、そして一人ひとりの人間はどのように役割を果たすべきか、という根源的な問いでした。組織の最大の資産は人材である、という氏の考え方は時代を超えて受け継がれ、米欧のリーダーシップたちは今、新たな企業組織の原理に基づく未来を構築しようとしています。
結びに、本ブログではドラッカー・フォーラムに参加した学生インターンの神野へのインタビューを通じ、出張報告会に先立って会議の核となった論点をお伝えいたしました。ドラッカー氏の思想を現代にどう生かし、新しい価値を創造していくのかに関して、皆様とともに、今後も学びを深めてまいります。
来年3月に開催する、ゴールド会員様限定のクスノキ・プロジェクトのイヴェントは、1月31日(土)に開催する「2026年・年頭記念講演会」から募集開始します。是非、御申し込み下さい。
詳細とお申込みは今すぐこちらからどうぞ!(HPにジャンプします)
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※当ブログの記述内容は弊研究所の公式見解ではなく、執筆者の個人的見解です。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所・インターン生 髙橋こころ拝