ダイエット研究の最前線~食事制限と体重減が無縁である「科学的根拠」とは ~(IISIA研究員レポート Vol.99) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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ダイエット研究の最前線~食事制限と体重減が無縁である「科学的根拠」とは ~(IISIA研究員レポート Vol.99)

適正な体重を維持し、健康不安を和らげることは多くの人にとって頭を痛める問題の一つであるだろう。BMI(Body Mass Index)として知られるボディー・マス指数は体重と身長から肥満度を表す体格指数であり、18.5未満は低体重、18.5〜25は普通、25以上は肥満と判定される。厚生労働省が実施した「令和元年 国民健康・栄養調査結果」によると、BMIの値が高い人ほど、男女ともに食生活を改善しようという意思があることを示していることからも、体重減少と食事の関係について大いに関心が寄せられていることがわかる(参考)。

(図表:BMI の状況別、食習慣改善の意思(20歳以上、男女別))

(出典:厚生労働省

しかしながら、多くの人々にとってカロリー計算に配慮しながら自らが食べたいものに対して制約を課すというプロセスは負担であり、そのような厳格な食事制限が体重減少への取り組みを挫折させてしまう原因でもあると考えられる。それゆえ、過度なダイエットせずに体重を減らすことができる方法について科学的に証明しようと研究が進められており、いくつかの研究成果が米欧勢の科学ジャーナルで報告されている。

朝食と運動が及ぼす脂肪の燃焼について検証しているのは、『British Journal of Nutrition誌』の論文“Breakfast and exercise contingently affect postprandial metabolism and energy balance in physically active males”である。朝の時間帯に運動を行う場合、朝食の有無に関わらず昼食後にはエネルギーがより多く消費されることが示された。さらに、朝食を抜いて運動をした場合は、事前に食事を食べた人よりも20パーセント多くの脂肪を燃やしたことが示された。こうした結果は脂肪の燃焼に対する長期的な結果を予測することはできないものの、体が絶食状態にある場合、炭水化物の代わりにエネルギーのために脂肪をより燃やすと考えられ、毎朝の食事前にわずか20分間運動することは、体重を減少させる上で大きな効果があるという(参考)。

また、睡眠とカロリー消費について検討しているのは、『Annals of Internal Medicine誌』に掲載された去る2010年の研究“Insufficient sleep undermines dietary efforts to reduce adiposity”である。現代社会で増え続ける短い睡眠時間を再現させるために実験で設けられた睡眠制限は5.5時間であった。このような睡眠不足が、過剰な脂肪を減少させるために行う低カロリー食の効果を損なうかどうかを調べたのがこの実験である。エネルギーの欠損値は、8.5時間の睡眠時間では一日最大920キロカロリーであるのに比較して、5.5時間の睡眠においては一日最大520キロカロリーであった。カロリー摂取量はほぼ同じであることから、この計算結果は5.5時間よりも8.5時間の睡眠における参加者のエネルギー消費が一日最大400キロカロリー多く減少したことを示している。つまり、睡眠時間が3時間増えただけで、被験者は一日400キロカロリーを燃焼することができるのである。それに加えて、一晩に8.5時間の睡眠をとった被験者は、一晩に5.5時間の睡眠をとった被験者に比べて脂肪が60パーセントになり、睡眠は代謝を高めるのに役立つこともわかった(参考)。

さらに、インド勢の研究者は多くの水を飲むことと体重減少の関係の証明を実験で試みた。『Journal of Clinical and Diagnostic Research誌』に掲載された去る2013年の研究“Effect of ‘Water Induced Thermogenesis’ on Body Weight, Body Mass Index and Body Composition of Overweight Subjects”では、BMIが25から29.9を示した18歳から23歳の女性50人に対して8週間の実験で朝食、昼食、夕食の30分前に500ミリリットルの水を飲むように指示した。その結果、体重の平均値は65.86キログラムから試験後には64.42キログラムとなり、体重を減少させる効果があるということが分かった。水を飲むことは交感神経を刺激し、代謝速度を増加させて毎日のエネルギー消費を後押しすると考えられているのであり、また、水は蓄積された脂肪をエネルギーに代謝するために不可欠であるとも見られている(参考)。

(図表:実験で示された体重減少)

(出典:National Library of Medicine

他方で、たんぱく質摂取量を増やすことは体重を減らすための効果的な方法の一つであると紹介するのは『American Journal of Clinical Nutrition誌』である。去る2008年の研究で、たんぱく質は一般に炭水化物または脂肪よりも満腹感を大きく増加させ、エネルギー摂取の減少を促進する可能性があり、また、熱発生の増加と関連してエネルギー消費を促進することにもつながるとされている(参考)。

上述したように、過度な食事制限を行う代わりに、日々の活動や習慣を見直したり、特定の食品を摂取したりという方法を使って、体の代謝を高めることで体重を減らすことができるということである。今次、米欧勢において進んでいるインフレがスタグフレーションや「デフレ縮小化」へと至り、賃金が大幅に下がるとも考えられる中、健康的な生活を送るためにより身近な視点で食習慣や生活習慣を見直す動きへとつながり、健康増進を図るための各種ビジネスも拡大していくのではないだろうか。さらには、肥満はメタボリックシンドロームや心血管疾患などを伴うものであることから公衆衛生上の主要な懸念事項として浮かび上がる中、各国勢における社会保障費の増大などに伴う財政状況の悪化を食い止めるために、肥満の改善が公的な政策課題として注目されていくことになるのではないだろうか。こうした状況の下、無理のない範囲で可能な体重減少、肥満の解消策がより一層注目されることになるだろう。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
倉持 正胤 記す

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