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量子技術の可能性~人類の救世主かあるいは脅威か~(IISIA研究員レポート Vol.100)

今年(2022年)、ノーベル物理学賞として、「量子力学」の分野で「量子のもつれ」の研究者、アラン・アスペ教授、ジョン・クラウザー博士、アントン・ツァイリンガー教授の3人が選ばれた。「量子のもつれ」を証明するための研究は去る1970年から行われていた。彼らのこういった研究成果により、「量子のもつれ」の特性を用いて量子コンピューターや量子通信の開発が加速され、量子コンピューターへの注目がさらに集まっている(参考)。

量子コンピューティングとは、量子力学的な効果を用いて超並列・大規模情報処理を行う技術であり、現在の最速スパコンでも非現実的な時間を掛けないと解けない問題を短時間かつ超低消費電力で計算できるようになると期待されている。

また、量子コンピューティングには2つの方向性が模索されている。量子ゲート方式と呼ばれるデジタル型の量子コンピューティング及び量子アニーリングマシンに代表されるアナログ型の量子コンピューティングである。

(図表:計算の流れ)

(出典:NEC

「量子技術」において内閣府は「量子科学技術は、Society 5.0(サイバーフィジカル空間の融合)関連技術を横断的に強化するとともに、従来技術の限界に対し、悲連続的に課題を解決しうる重要な技術」であると規定している(参考)。

また、ある情報を量子に埋め込み、それを離れた場所にあるもう一方の量子に瞬時に伝えることができるという「量子テレポーション」の現象を今回のノーベル物理学賞を獲得したツァイリンガー教授が実験で示したが、前例条件なしの一般的な形で初めて成功させているのは実は我が国の研究者であることを念頭に置く必要がある(参考)。

加えて、英国勢の量子通信技術企業の数が15であるのに比べ、我が国の東芝は40もの知的財産権を有していることや、先駆的な技術開発を行っている富士通など、我が国は基礎研究面や応用・生産面で先駆的な「量子技術」を多数有している。量子コンピューターにおいても実は我が国の研究から生み出された技術が組み合わさっているのだ。(参考

一方で量子コンピューターの開発は、ブロックチェーンへの脅威になる可能性があることも示されている。ブロックチェーン関連の製品は金融及び製造からヘルスケアにわたり使われており、そのマーケットは1,500億ドル以上の価値があり、来る2025年までには世界の国内生産量の10パーセントはブロックチェーンに格納される可能性が高い。

(図表:ブロックチェーンの仕組み)

(出典:SBI FXトレード

ここで重要なのは、インターネット内の関係者であってもなくても簡単な計算によって台帳の整合性を確認することが出来るのである。ブロックチェーンのセキュリティは、“一方向”数学的関数に依存しており、従来のコンピューターで実行するのは簡単であるのに対し、逆算するのが困難であることから、台帳にブロックを追加するのにかなりの時間を費やすことになり、さらには個人がインターネットの管理を独占するのを防ぐことができる。一方で、量子コンピューターは10年以内にその一方向的関数の計算を可能にし、ブロックチェーンの暗号コードを解読できると言われている。そうした場合、広く普及した暗号資産は瞬時にして陳腐化してしまう(参考)。勿論ブロックチェーンを用いているセクターは機密情報の漏れなどが生じ、多大な被害が出ることになる。

他方で、2つの物理量を測定した場合に、それぞれの物理量の不確定性が同時にゼロにならないとするハイゼンベルクの不確定性原理によって量子の動きは予測不可能とも言える。また、量子力学に登場する確率は干渉性を持ち、加法性が成り立たない。また量子力学の確率は非局所的な相関を示す。更に、量子力学では物理量が演算子として表され、位置と運動量は非可換でそれらの間には不確定性関係が成り立つ。よって粒子軌道の概念は通用されない。

私たちが普段使っているノイマン型コンピューターは、決定論的なシステムになっていて、ある入力に対して、何が出力されるかが決まっている。それに対し量子コンピューターにおいては、完全に量子特有の重ね合わせを使って計算させるときは、確率的にしか答えを得られないのである。そして量子コンピューターで計算するということは、量子ビットの列が、どのように収束するのかを観測する、いわば実験であるということを前提として考えなければいけない(参考)。

科学技術は、これまでに私たち人類を繁栄させてきた一方で、研究開発に携わってきた科学技術者さえも、その科学技術が人類や他の生物に対し、予想することができなかった前例のない負の影響をもたらすという可能性は常に隣合わせということも念頭に入れておかなければならない。例えば、原子力発電からのトリチウム汚染水問題や、高速度通信がもたらす「空間の損傷」等も科学技術が人智を超える問題を作る原因となる例である。そして、量子コンピューターの開発もまた例外ではないのである。不確定性がある量子に作られたコンピューターの発展は我々人間の予測を超え、コントロールできなくなる可能性も出てくるのではないか。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
中野 陽子 記す

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