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起業への壁(コーポレート・プランニング・グループの”Pax Japonica” ブログ(Vol. 7))

我が国における起業は30年前と比較して容易になったのだろうか。なぜ今も起業家は増えないのか。

「ピッチ(起業家たちのプレゼンテーション)イベント」は国内で多数実施されており、先月も都内で開催されていた。初めて参加したこちらのピッチイベントでは、北海道の起業家6組がピッチを行っていた。出場した6組の事業内容を振り返ってみると、6組全てが、それぞれ独自に開発したアプリを活用してビジネスを拡大させていくことを目標にしていたため、今後の起業を考える際にプログラミングを学ぶことは必須なのだろうと感じた。同時に、アプリを使った事業では起業に伴って毎月高額の家賃を支払ってオフィスを構えることは不要であり、場所を問わず、地方においても十分にビジネスチャンスがあると改めて実感した。起業の際に発生する費用を削減し、都市部でなくても仕事ができることは大きなプラスである。この部分だけ考えると、新しいアイデアとITスキルがあれば起業への初めの壁は30年前と比較すると低いように見えた。しかし、我が国では依然として起業が少なく、ユニコーン企業は2021年時点で4社のみである(参照)。

(参照:内閣官房HPより)

起業家が少ないことの理由には高い心配意識と知識不足がある。我が国政府も起業する若者が少ない状況に徐々に危機感を持ち始め、優勝者に賞金を授与するようなピッチイベントを実施したり、投資家を募るためのエンジェル税制を実施することで、起業を促す取り組みを始めている。しかし、これにも問題が散見される。賞金が授与されるピッチイベントでは、本気で起業を考えているわけではなく、その賞金目当てに参加する詐欺師の存在も見受けられる(参照)。エンジェル税制に関しては1997年から開始され、投資家に対する税金の優遇措置が魅力的に聞こえるものの、対象が個人投資家であり、手続きが複雑で手間がかかることからこの制度を上手に活用するのは初めて投資する場合には容易ではない。エンジェル税制が30年程前から始まっていることに対する起業家、投資家の少なさはこの制度が活用されていないことを浮き彫りにしている。

今回参加したイベントでは、6組のピッチに対して審査員3人が最優秀賞と優秀賞を決めるもので、賞金が出るものではなかったが、参加者は全員起業に対して意欲が高く、6組中3組が学生だったのが印象的だった。しかし学生の場合は、残念ながら需要に対する調査や事業の発展性に欠ける点が多く見られた。社会人の参加者でも今後の事業の進め方に関してや見込まれる利益に関しての説明に乏しく、依然として実際にベンチャーキャピタリストに対して魅力的な段階には至っていなかった。ベンチャーキャピタリストに対してアピールしていくためには事業内容以外に、MRR(月間継続課金売上高)やARR(年間継続課金売上高)をどのように引き上げていくのかについても語ること求められている(参照)のだが、それを意識している起業家は少ないのではないだろうか。

<都内で行われたピッチイベント>

(参照:筆者撮影)

米国ではアントレプレナーシップ教育を小学生低学年頃から積極的に実施しているが、我が国ではこのアントレプレナーシップ教育が実施されていない現状である。我が国で起業家が少ないと考えられる理由の一つとして学校教育が挙げられているが、現在の義務教育の過程で新しくアントレプレナーシップを履修必須教科に追加することは難しい。弊研究所内で数か月前から始まったエフェクチュエーションでは案を出すところまでは未経験者でも容易にできた。しかしその後、この案をどのようにビジネスとして展開していくかを考える段階に入ると急に起業への壁に掛けようとした足が滑り落ちてしまった。所員の中でアントレプレナーシップ教育を受けた者はほとんどいないことから、自ら本気で起業を目指さない限りは知識が頭に入っていないのである。

逆に自分が投資する側だとして考えると、ピッチイベントでプレゼンをしていた参加者の「起業したい」という強い意欲は輝いていたが、この熱意とビジネスの成功は別物であることを念頭に置かなければならない。起業家が投資家にアピールする際にどの点に留意して将来成長する企業を見分けることができるのか。そう考えた中、先月発売された山本敏行氏の著書『エンジェル投資家 実践バイブル』を手に取ったところ、見分け方のヒントが記載されていることを見つけた。この本の中でChatwork創業者の山本氏は70社に投資した経験をまとめている。初めてエフェクチュエーションを行った時に若干の知識が無いと前に進むのが難しかったのと同様に、エンジェル投資家にも障害はあるだろう。個人の見解ではあるが、投資に失敗しないためにも投資家として学ぶべきことがあるのも確かである。

起業家が増えない我が国には投資家も少ない。制度の改革は難しいが、大学においては経営学部の学生のみがアントレプレナーシップを学ぶのではなく、他の学部の学生も理系文系を問わずに学ぶ機会を設けることだけでも20代でも起業への壁に足を掛けることはできるように思う。今年は弊研究所代表が大学にて経営学部の学生以外にアントレプレナーシップの講義を行う。アントレプレナーシップを学ぶことは学生にとって起業に対するリスクフリーな環境を整え、社会実装を促進する。起業家を増やすことでPax Japonica実現にも寄与するだろう。

社会貢献事業担当 近藤由貴 拝

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