国防費の上昇圧力に直面するNATO~これから何が起こるのか~(IISIA研究員レポート Vol.97) – IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 – haradatakeo.com
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国防費の上昇圧力に直面するNATO~これから何が起こるのか~(IISIA研究員レポート Vol.97)

(出典:NATO公式サイト

 ウクライナ戦争の発生も契機となり、米欧勢において近年増加する傾向にある国防費の行方に注目が集まっている。去る2014年に米欧勢で構成する北大西洋条約機構(NATO)は加盟国に対して国防費を2パーセント以上の水準とすることを決定した。NATOが公表している最新の今年(2022年)のデータでこの基準を達成できたのは7か国のみ(クロアチア勢、エストニア勢、ギリシャ勢、ラトビア勢、リトアニア勢、ポーランド勢、英国勢、米国勢)であったが、去る2014年と比較して、トルコ勢、英国勢、米国勢を除く26か国が対GDP比で国防費が増加傾向を示している。高い伸びを記録した順に、ギリシャ勢(+1.53ポイント)、リトアニア勢(+1.47ポイント)、ラトビア勢(+1.16ポイント)、スロヴァキア勢(+1.01ポイント)、北マケドニア勢(+0.69ポイント)であり、全体のうち4か国が1ポイント以上の高い伸びとなったことになる(参考)。

他方で、ロシア勢によるウクライナ侵攻を受け、ドイツ勢、デンマーク勢などが相次いで国防費の引き上げ方針を打ち出している。欧州勢において、特にドイツ勢は、第二次世界大戦以来、欧州大陸への最初の軍事侵略の帰結として、国防費への支出をこれまでになく大幅に増やすことを明らかにしたことは国防費上昇傾向が目下いかに大きな課題であるのかを示している。ドイツ勢のショルツ首相は、ロシア勢によるウクライナ侵攻直後の今年(2022年)2月に行った演説で、国防費に1,000億ユーロを投入すると発表し、「私たちの自由と民主主義を守るために、私たちの国の安全保障にはるかに投資する必要があることは明らかです」と述べ、「今後、毎年、国内総生産(GDP)の2パーセント以上を防衛に投資する」と付け加えた(参考)。また、今年(2022年)、ドイツ南部エルマウで行われた先進7か国首脳会議(G7サミット)閉幕後、国防費に年平均で約700億~800億ユーロ(約10兆~11兆円)を費やす方針を発表し、ドイツ勢の安全保障へのアプローチに大きな変革を起こすと見られている(参考)。さらに、欧州勢の中部と東部の大部分では対GDP比のパーセンテージ目標を達成するために競い合っているともいえる状況にあり、すでに2パーセント目標を達成しているポーランドは支出を3パーセントに増やす法律を可決した。

一方で国防費の増加傾向に対しては、常にいわゆる「戦争経済」を維持する形で利権の確保が行われているのではないかとの疑念の目も向けられてきたといえよう。既に、エルブリッジ・コルビー元米国防副次官補は、我が国の大手メディアによるインタヴューにおいて、我が国に対して直ちに防衛費を現在の3倍程度に引き上げるべきだと要求している(参考)。その理由は表向き中国勢の脅威に対処するためにはその程度の防衛費が必要ではないかとのことであるが、米国勢にとって我が国も「戦争経済」のためのパートナー国であり続けてきたことも改めて認識しておかなければならないだろう。

(図表:エルブリッジ・コルビー元米国防副次官補)

(出典:U.S. Department of Defence

 さらには、こうした状況の下、NATOが提起する国防費に対して2パーセント増という目標を進めることは、果たして妥当性があるのかといった様々な批判的な議論も考えて行く必要があるだろう。第一に、地理的な観点からの懸念として、旧「東側ブロック」のみが先行しているという実態がある。先述したとおり、NATOが公表している最新の今年(2022年)のデータでこの基準を達成できたのは7か国のみ(クロアチア勢、エストニア勢、ギリシャ勢、ラトビア勢、リトアニア勢、ポーランド勢、英国勢、米国勢)であった。ロシア勢による脅威に対してより真剣に対処しなければならない状況に置かれた旧「東側ブロック」に加えて、旧西側の欧州諸国勢もこの基準を実現することなくして、NATOが目指す集団防衛は機能しないとも考えられる。

第二に、経済的な観点からの懸念として、加速するインフレの下で、2パーセント増という誓約が実際の防衛支出に具体化されるかである。今年(2022年)6月、インフレ率がユーロ圏全体で8.6パーセントと過去最高値を示したことを踏まえ、ブリュッセル自由大学のダニエル・フィオット教授は、「発表された支出増加はインフレでどのように食いつぶされるのか、我々はまだ実態をつかんでいない」と指摘し、インフレが加速する状況において、数字的な国防費の増大が真に防衛力の強化につながるのかという懸念に言及した(参考)。

第三に、財政的な観点からの懸念もある。米系シンクタンクである戦略国際問題研究所のキャスリーン・J・マッキニスとダニエル・ファタは、2パーセント増という誓約が各国勢の国防省が財務大臣によって課せられた予算削減をかわしたい口実になっているのではないかとの指摘している。

(図表:NATO加盟国の国防費対GDP比)

(出典:外務省

 上述したように、2パーセント目標というルールが、NATOの集団防衛という機能を維持させることに貢献し、国防費という利権の確保に留まるものではない有効な投資となるのかが問われていると言えるだろう。フィオット教授は、この2パーセント・ルールへのいかなる改正も「欧州における防衛投資の有効性について考える機会」になると述べたように、2パーセント・ルールの有効性が明らかになるなら、NATO、さらには、世界において「国防費の数値目標・ガイドライン」の価値がより重要視されていく可能性はあると言えるだろう。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
倉持 正胤 記す

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