パンデミックの切り札としての「日光」?(IISIA研究員レポート Vol.36) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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パンデミックの切り札としての「日光」?(IISIA研究員レポート Vol.36)

一年前(2020年4月)、トランプ前米大統領が新型コロナウイルスの感染拡大に際して「たくさんの紫外線か、または強い光を体に当ててみたらどうだろう」との発言をしたのを覚えているだろうか(参考)。

米国土安全保障省のビル・ブライアン次官が新型コロナウイルスは湿気や熱にさらされるとはるかに速いペースで死滅する旨述べたことを受けた発言であった。

同大統領は当該発言と同時に「殺菌効果のある漂白剤や消毒剤の殺菌効果を身体内部に注入することはできないか」などと述べており、これに対して世界保健機構(WHO)が紫外線は皮膚の炎症を引き起こす可能性があり、漂白剤は有毒化学物質であり吸入で灰が損傷する恐れがあるなどと指摘した。他にも大学教授や医者などがこうした発言の危険性を指摘する事態となった。

 

(図表:ドナルド・トランプ)

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(出典:Wikipedia)

 

上述の発言は行き過ぎであるとしても、実は日光が新型コロナウイルスによる死亡リスクを低減する旨の研究結果が“The British Journal of Dermatology”に掲載された(参考)。

同研究では1日の平均紫外線量が100キロジュール/平方メートル増加すると新型コロナウイルスによる死亡リスク比(特定の人口集団が死亡する可能性と、他のすべての人口集団が死亡するリスクとの比)が米国勢では29パーセント、イタリア勢及びイギリス勢では32パーセント減少したと推定されている。

この死亡リスク減はなぜ起こるのだろうか。

そもそも日光は新型コロナウイルスに限らずインフルエンザウイルスや結核など他の感染症予防との関係でもその重要性が注目されてきた。従来これは免疫機能にかかわる「ビタミンD」の生成に日光がかかわるからであるという理解が主流であった(参考)。

ビタミンDは魚介類やキノコ類にも多く含まれるほかサプリメントなども存在するため、日光に当たらずとも経口摂取はある程度可能であった。

ところが今次研究においては日光の効果についてこれまでのビタミンDとは異なる意味で重要性が指摘されている。

同研究はUVB(タイプB紫外線)レヴェルが低く体内で有意なビタミンDレヴェルを生成できない地域で行われた。このため日光と死亡リスクの相関関係について(1)日光を浴びた皮膚から一酸化窒素が放出されることによりSARS-CoV-2ウイルスの複製能力が低下する可能性、(2)日光への曝露量の増加は心臓発作の減少や血圧の低下と関連しているとされ、これらの要因が新型コロナウイルスによる死亡リスクを低下させる可能性という2つの理由が示されている。

 

世界で年間を通して紫外線の照射量が高い国には例えばケニア勢(ナイロビ)、パナマ勢(パナマ)、タイ勢(バンコク)、スリランカ勢(コロンボ)、シンガポール勢(シンガポール)などがある。これらの国の死亡者数は(2021年)4月12日時点でケニア勢2348人、パナマ勢6163人、タイ勢97人、スリランカ勢598人、シンガポール勢30人であった。

そもそもの人口や統計の信頼性という問題はあるものの、確かに比較的死亡者数は少ないと言えよう。

 

日光の重要性や光の治療効果は古代より認識されていた。

古代エジプトでは日光浴が盛んにおこなわれ、古代ギリシアでは宝石などを通して色を付けた日光による日光療法が実践されていた(参考)。

(図表:Akhenaten, Nefertiti and their children)

アクナートン

(出典:Wikipedia)

しかしここで重視されていたのは「紫外線」ではなく「可視光線」であった。

こうした紫外線(及び赤外線)や可視光線といった太陽光のスペクトル分解は人間の視覚をもとにした分類であり、例えばある種の昆虫や鳥類は紫外線が黒く見えることで花の蜜のある場所を把握しているといわれる。このように生存に必要な部分の光が見えるように進化していると考えれば、人間にとって必要な光はいわゆる「可視光線」にあたる部分の光であるとも考えられる。

 

光の持つ効果にはいまだ明らかでない部分も多い。今後新型コロナウイルスをきっかけに日光の持つ意味が改めて明らかにされていくのか。また日光の効果が注目されることで、日照時間が長い、もしくは日光の照射量が多い地域に人口が集中するといった事態に進展していくのか。注視していきたい。

 

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

佐藤 奈桜 記す

 

 

前回のコラム:「感覚」のAI開発は可能か(IISIA研究員レポート Vol.34)

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