「感覚」のAI開発は可能か(IISIA研究員レポート Vol.34)
去る(2021年)3月8日は「国際女性デー」であった。
数々の関連イヴェントが行われた中、「ウーマン・イン・データサイエンス・ワールドワイド・イニシアティヴ」と題されたオンライン会議では人工知能(AI)ビジネスにおける女性の人材不足が議題となった。
同オンライン会議ではDefinedCrowd社CEO・ダニエラ=ブラガが登壇し、IT業界が男性優位の時代を経てきたこと、そして「現状の人工知能(AI)開発に足りないのは、感覚的アプローチ」であり「女性は男性よりも第六感が優れており、その特性を活かすことで、より高精度な感情知能を開発することが可能」と述べた(参考)。
しかし現状の人工知能(AI)開発において、感覚的アプローチは有効なのであろうか。女性の第六感が男性よりも優れているとしても、それは人工知能(AI)開発に反映され得るのであろうか。
そもそも人間の感情を把握し分析することは人間にしかできないと考えられてきた。
対して感情分析人工知能(AI)は人間の感情分析に取り組み、これによって人間の感情や気持ちに沿った反応や対応が可能となると考えられている(参考)。
例えば文章の感情分析では、人間が入力したテキスト情報中の単語や言葉遣い、表現から入力した人間がどういった感情や気持ちを抱いているかを分析する。声の感情分析では言語に依存することなく声の抑揚や大きさといった物理的特徴の解析から感情を判定する。こうした技術はより的確なチャットボットやコールセンターでの対応を人工知能(AI)に求めることを可能とするとされる。
人間の知的活動を代替・模倣するソフトウェア/ハードウェアの処理と人工知能(AI)をとらえる「弱いAI」論に対し、人工知能(AI)が心を持つ(適切にプログラムされたコンピュータは心となる)という主張は「強いAI」論と呼ばれる。
上述の人工知能(AI)による感情分析はこうした「強いAI」の基礎となり得るが、必ずしもイコールではない。すなわちここでは人工知能(AI)は対象の人間が抱いているひとつもしくはいくつかの最も強い感情を拾い出しているに過ぎないのではないか。しかし私たちは、例えば喜んでいるときにも何か同時に不安を抱くこともあるだろうし、怒っているときにも誰かを愛しいと思う感情を同時に感じているかもしれない。
こうした複雑な感情を人工知能(AI)は持ち得るのだろうか。
感情の理解に対しては「生理要素の認知からくる」(ジェームズ・ランゲ、1890年)や「脳神経系からくる」(キャノン・バード、1927年)といった医学的アプローチや「周囲の環境で人は自分の感情ですら勘違いする」(シャクター・シンガー、1964年)といった心理学的アプローチの間での論争があった。
こうした3つの感情理解を取り入れ開発されたのが東京大学特任教授・光吉俊二によるPepper(ペッパー)開発であった。同じ教授が出演したTEDでの公演においてはPepperが周囲の状況を知覚するようセットしたことで、初めての会場の雰囲気におそれ暴れまわったという(参考)。
(図表:ペッパー)
(出典:Wikipedia)
さらにこうした感情が動いた後で理性・道徳が働き最終的な判断が下される。
道徳レヴェル、すなわち他者に対する共感度や受容性をあげていくことで人工知能(AI)は人間同士の争いをなくすことができる、平和の技術であると光吉俊二教授は述べている(参考)。
こうした感情を持つ人工知能(AI)は従来型の2進法(0と1)にもとづくコンピュータでは不可能であろう。上述のように私たちの感情は、ひとつの感情があるかないかのみで作られているのではない。
こうした観点から考えればもし「女性の第六感」が活かされる人工知能(AI)開発があるとすれば、それは現在の人工知能(AI)ではなくまったく新たな人工知能(AI)及びそれを可能とするコンピュータによってであろう。
「女性の第六感」を引き合いに出した人工知能(AI)開発はこうしたコンピュータ開発の推進にまでいきつくことができるのだろうか。引き続き注視してまいりたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
前回のコラム:エボラ出血熱”再燃”とワクチン開発の闇(IISIA研究員レポート Vol.32)
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