「矛盾」を輸出する日本企業?:電通女子社員自殺事件と海外で暴発する企業 (IFIS株予報コラム) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「矛盾」を輸出する日本企業?:電通女子社員自殺事件と海外で暴発する企業 (IFIS株予報コラム)

今、我が国では電通(証券番号:4324)に入ったばかりの女性社員が過労を理由に自殺した事件でもちきりだ。実際には他の多くの企業現場でしばしば耳にする出来事であるにもかかわらず、あえて今回とりわけ騒ぎになっている背景には「うら若き女子社員による非業の死」ということ以上に、何かと節目にさしかかりつつある我が国において、戦前は「同盟通信」の一翼を担い、戦後はGHQによる占領統治の中、分割され、「電通」となり、本邦メディア界の帝王として君臨し続けてきた同社に本質的な転換点が訪れていることによっている。

 事実、マスメディア界、とりわけ「活字の世界」の凋落は著しく、例えば同じくGHQによる占領統治の中で方針を大きく変えたことで知られる朝日新聞では「社内極秘文書」が流出した。「3年間で500億円の減収が生じている可能性」がその中では露骨に指摘されており、大きな衝撃を呼んでいる。

 いわゆる左翼の経済学では、企業経営上の流れが滞り、問題が生じることを「矛盾」と呼んでいる。簡単に言うならば需給バランスが失調し、そのしわ寄せがどこかに生じることを指しているわけだが、これまでならば多くの場合において、より弱い立場にあるとされてきた就労者(「労働者」)の待遇を悪化させることでそれが解消されてきたという現実がある。したがってこれに対抗すべく「労働者よ、団結せよ」ということになるわけなのだ。

 だが、今や時代は変わった。太陽活動の激変が気候変動を呼び、それによって人体では免疫力が著しく低下し始める中、私たちは少しずつ経済活動、とりわけ消費を差し控え始めている。そのためグローバル経済は着実にデフレ縮小化に向かいつつあるわけだ。そこでこれに対する策としてインターネットが導入され、しかもソーシャル・メディアという形で私たち全員が「発信メディア」を持つに至ったのである。これを米欧では「エンパワーメント」と呼んでいる。

 そうである以上、先ほど述べたような伝統的な「矛盾の解決」はもはや達成されないというわけだ。なぜならば今やオーナーではなく、サラリーマン社長ばかりとなった大企業は株主といっても無数の個人投資家による株式保有を受け、「資本家」の陰が希薄であるのに対して、就労者(労働者)の側はツイッターやフェイスブックなどで時に強力な発信力を持つからだ。そのため、伝統的な「矛盾の解決」を図ろうとすると「ブラック企業だ」と非難され、全国民的な怨嗟の声が高まる中、大変なことになってしまいかねないのである。

 そうした中で実のところ「グローバル化」という美名の下に我が国大手企業が盛んに始めているのがこの意味での「矛盾」の輸出とでもいう現象なのである。我が国マスメディアは大手企業がイコール、広告主であり、かつ日経平均株価に対して重大な影響力を(株価算定の際に決定的である加重平均の上で)持っていることから、この問題について不思議と真正面から触れることがない。しかし、実際には需給バランスの不調を「過酷な労働環境の輸出」という形で対処している我が国の有名企業は多いのだ。そして現地では我が国世論が全くうかがい知らないところで怒りの声が高まるどころではなく、ついには「日本人を狙い撃ちにしたテロ」という形で実力行使による「矛盾の逆解決」が図られつつあるのだ。先般生じたバングラデッシュにおけるテロ事件の背景にもそうした事情があることは、(海外リスク・マネジメントのプロフェッショナルを別とすれば)不思議と我が国企業関係者で知られていない。

 そうした中で我が国の認定NPO法人であるヒューマンライツ・ナウは「ユニクロ」ブランドで知られるファーストリテイリング(証券番号:9983)がカンボジアにおける委託先工場で大量解雇を行い、現地で問題化していることを記者会見で明らかにした。中国においても問題が指摘されてきた同社だけに、今後の対応に注目が集まっている。

 かつて我が国では「産業廃棄物の違法投棄問題」が存在していたが、ある時からそのことについて語られなくなった。なぜならば隣国・中国が我が国の「産廃」を宝の山として買い始めたからである。つまり「産廃の輸出」によって我が国は産廃問題を事実上解決したというわけなのである。それと重なるロジックで、今度は「働く現場における矛盾」を大量輸出することで我が国企業は生き残りを図るのか。あるいはグローバル社会の側から手痛いしっぺ返しを受けることになるのか。目が離せない。

(*このコラムは20161016日にIFIS株予報コラムに掲載したものを転載したものです。同コラムはこちらからご覧ください

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