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AI(人工知能)は中国を救うのか?それとも罠か??(連載「パックス・ジャポニカへの道」)

20日、中国・北京で「未来論壇(Future Forum)」の設立総会が開かれた。中国が「アジア版のTEDを」と目論んで開催したものだ。主催者の一人である武紅(Cathy Wu)女史より「アジア版のTEDを開くことにしている。設立総会はまず中国の参加者たちを結集させるのが目的だが、最終的にはアジア全体をカヴァーするものにして行きたい。その際、技術大国・日本の協力は不可欠だ。是非顔を出して欲しい」と言われたので、北京まで脚を伸ばすことにした。

TEDといえば、米国の西海岸で始まった集まりだ。ここに来てTEDxという形で全世界に「ブランド」として急速に広まっている。本家本元のTEDはどちらかというと「アイデア」を話し合う場所だが、中国版のTEDを目指す「未来論壇(Future Forum)」では「技術」について話すのだとあらかじめ聞いていた。「将来世代のために中国、そしてアジアは技術を必要としている。見て下さい、この大気汚染のひどさを。これ一つとっても技術革新がどれほど必要とされているかが分かるはず」と昨年(2014年)12月、ランチを共にするために北京を訪問した私に熱くかたっていたCathy Wu女史の語り口が印象的だった。

 

Cathy_Wu

 

もっとも直前になってその情熱さから受けた期待感はものの見事に打ち砕かれた。事務局から送られてきたプログラムを見ると、設立総会の今回に語られるのは「人工知能(AI)」についてなのだという。しかも中国人の研究者以外には米国人の研究者が出て来るだけだ。「アジア版のTED」というのには程遠い。しかしそれでも「人工知能(AI)」そのもの、しかもその楽観的な第一人者として世界的に知られるRaymond Kurzweil(グーグル社)が登壇するとあったので東京から比べると格段に寒い北京に2泊3日の強行軍で向かうことにした。「2045年、感情を持つ人工知能(AI)が現れ、人類をも超える存在になる」という議論(”Singularity”)主張する人物だ。

 

Kurzweilの議論はこんな論旨であった。

●情報技術は必ず指数関数的に発展する。いわゆるムーアの法則はその一例に過ぎない。情報技術の価格パフォーマンス(price performance)は毎年2倍になっていく。つまり価格が下がる分、性能が良くならなければ製品を造り、売っている企業は成り立たなくなるため、技術革新にしのぎを削ることになるのである

●一方、生物の根幹を成している遺伝子は結局のところ、情報の塊である。そこで日進月歩を続ける情報技術をもってこれを解読していけば、遺伝子は倍々ゲームでその実態が明らかにされていくことになる。疾病は結局のところ遺伝子の作用によることを考えるならば、こうした急速度での遺伝子解読は病気治療の飛躍的な発展につながっていく。その結果、加齢のプロセスを反転させることが可能になってくるのである。ただし生物体の「死」を無くすことは出来ないのであって、それを先送りする(push back)は出来る

●また生物の脳は情報を司るモジュールに過ぎない。したがってこれも同じように情報技術によって解きほぐしていけば、その仕組みは解明されるはずのものである。3億とおりの認識パターンの中から一つを選び出すという人間の脳の働きを解明し、同じように作用する人工知能(AI)を創り出すのが今、研究の最前線で行われている

●人工知能(AI)というと映画「ターミネーター」のように、人類の敵が創り出されてしまうのではないかと危惧する向きが全世界において絶えない。しかし「事実」を述べるならば、実は人口知能(AI)が世界中で使われ始めて以来、人間社会で振るわれる暴力沙汰の数は指数関数的に減っている。なぜそうなのかといえば情報技術が発展することで、意志疎通の度合いが明らかに変わっているからだ。「暴力をふるうとこういう結末が待っている」ということが人々の間に加速度的に知れ渡るにつれ、そもそもそうした暴力を振るう人間が少なくなっているというわけだ

 

kurzweil2

 

要するに「人工知能(AI)を怖がることは一切必要無い。それは皆の寿命を延ばす便利なものなのであり、しかも暴力を減らすことで世の中を良くするものでもあるのだ。もっと世界全体がこれに取り組むべきだ」というわけなのだ。

それ以外に米中から参加していたインターネット関連企業の幹部や学術研究機関の専門家も口をそろえて「今こそ人工知能(AI)開発だ」とこんな風に叫んでいたのが非常に印象深い:

●「人工知能(AI)」のベースには「製品」「ユーザー」「データ」という3つの連なりで、これまでとじきっていなかった「集まったユーザーのデータを製品開発にどのように活かすか」という課題がある。これまではどんなにデータが溜ってもこのミッシング・リンクがとじられることはなかったが、これを可能にしたのがディープ・ラーニングである

●しかもこれまでは画像データに関するディープ・ラーニングが主戦場であったが、今後はむしろ音声情報こそが人工知能(AI)開発の主たる研究対象になりつつある。なぜならば音声情報こそ、人間が年齢を問わず用いているものだからであり、この分野で用いられているのがディープ・スピーチという概念だ。各社共にこれを開発し始めたばかりだが、音声で完全に操作できる自動車の開発など、その応用可能性の広さに期待が持たれている

●人工知能(AI)が行うのは予測(prediction)である。それは人類社会を破壊するものではなく、むしろその労働を代行するという意味で便利なものであり続ける

●更に進んで人工総合知能(AGI)の研究も進められている。これはこれまでの人工知能(AI)開発が個別の機能・分野についての研究であったのに対し、人間の頭脳のように総合的な判断が出来るようなものを創り出すことを目的としている。そして複数の人工知能(AI)をクラウド化していくという方向性でその開発は進められている

 

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このように「今こそ人工知能(AI)を!」と熱弁を振るう者たちの声を聴きながら、私は巨大な疑念を胸に抱かざるを得なかった。なぜならば人口、そして人財(human resource)の多さこそ中国の強みであるのにもかかわらず、それを代替するための人工知能(AI)を盛大に開発しようというのはある意味、自殺行為のように思えてならないからだ。

もっといえばやや皮肉のように聞こえるかもしれないが、これこそが究極の大気汚染対策でもあるのかもしれないのである。なぜならば「高級ホテルの部屋に入っても石炭の煤煙を24時間吸い込むことになる」のが実態である現代中国の、とりわけ都市部の生活環境の悪さは筆舌に尽くしがたいものがある。ある華僑ハイレヴェルの知人などは「北京に滞在できるのは2泊が限度。まだマシな上海にでも抜けない限り、頭痛がしてくる」と言っていたくらいだ。だがこの問題は文字どおり「目に見える問題」であるにもかかわらず、この国では真正面から我が国における1970年代初頭の「公害国会」といった実効的な取り組みは見られないままなのである。そして今、自然(じねん)を元に戻すどころか、それはそのままにし、サイバー空間における「人減らし」を大車輪で始めつつあるのだ。煤煙のメガロポリス・北京では数年後、もはや生命体としての人間は暮らしておらず、人工知能(AI)だけが生息することになるのやもしれない。

同じような顔かたち、そして「同じアジアだ」といっても強烈な違和感を感じた私は、会合後のレセプションとディナーは省略して会場を後にした。中国でITは「女性の地位向上のためのツール」となっているようであり、会場には目を輝かせた若い女子学生やビジネス・ウーマンたちが大勢いた。しかしそこでの議論の先に待っているのが他ならぬ「人間の淘汰」であり、今や経済大国となった中国の最大の武器である人口の多さを低減させる罠としての人工知能(AI)による支配であるなどとその中の誰が気付いていたであろうか。

「中国はこのままではアジアの盟主にはならず、自然(じねん)との合一を旨とする我が国へとアジアは自ずからなびき、やがては満身創痍となる中国すら私たちの日本を頼ることになる」

帰りに乗り込んだ全日空機の中でそう想ってやまない北京出張であった。そしてまた、結局は自然(じねん)と合一になるのではなく、むしろそれを力で相も変わらず抑えつけようとする米欧や中国といった大陸の諸勢力が最終的にたどり着いたこの「人工知能(AI)」という名の妖怪をどのように処していくかこそ、間もなく訪れる「パックス・ジャポニカ(Pax Japonica)」に向けた本当の、人類史的な課題であると痛感した次第である。

 

2014年1月25日 東京・仙石山にて

原田 武夫記す

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