CBD(カンナビヂオール)が「市民権」を得る日 (IISIA研究員レポート Vol.31)
フランス勢において「大麻」(cannabis)入りワインが登場し、ちょっとした物議を醸している。
ボルドー在住で28歳の起業家ラファエル・ドゥ・パブロ(Raphaël De Pablo)が作った「Burdi W」というワインである。「大麻」由来のリラックス効果のある「CBD(カンナビヂオール)」が250mg含まれている(参考)。
ただし同国の法律では麻の繊維と種子の栽培と販売のみが認められており、植物の葉や花の採取は禁止されている。そのため現時点では完成品は「ワイン」としては法的には認められない。
しかし欧州勢(EU)における「大麻」を取り巻く法律は進化している。欧州連合司法裁判所(CJEU)は昨年(2020年)11月19日(ルクセンブルグ時間)「商品の自由な移動」の名の下にフランスにおける「CBD(カンナビヂオール)」の禁止は違法であるとの判決を下した(参考)。
(図表:麻の花冠)
(出典:Wikipedia)
「大麻」(cannabis)」とは麻の花冠、葉を乾燥または樹脂化、液体化させたものを指す(参考)。
「大麻」を構成する物質「カンナビノイド(cannabinoids)」の一種である「CBD(カンナビヂオール)」には神経作用はあっても毒性も多幸感もなく「ハイ」になることはない。しかし炎症や痛みを和らげる効果があるとされている。そのため「CBD(カンナビヂオール)」は向精神作用を伴わない新たな治療法として注目されているのだ。
昨年(2020年)のパンデミックの真っ只中の米国勢において「大麻」が記録的な売上を上げた(参考)。特に2018年に工業用麻(industrial hemp)を合法化する米国農業法案が可決されたことが大きい(参考)。世界の「CBD(カンナビヂオール)」オイルの市場規模は2027年までに240.8億ドルに達するとも予想されている(参考)。
米国勢だけに限らない。英オックスフォード大学も1236万ドルの医療用「CBD(カンナビヂオール)」の研究プログラムを開始することを発表した。
2019年に欧州勢(EU)の34の「CBD(カンナビヂオール)」のスタートアップ企業が受けた投資も記録的なレベルとなっている(計1億2850万ドル)。この旺盛な投資の原動力となっているのが「規制緩和」だ。同年にルクセンブルクが欧州勢(EU)で初めて「嗜好用大麻」を合法化する意向を表明したことで勢いを増した(参考)。
大麻や大麻を原料とした製品を製造・販売する企業はこの5年間でかなり人気が高まっているだけでなく、一部の投資家や起業家にとっては金鉱となっているのだ。
米国勢における「大麻」禁止の始まりは1930年の連邦麻薬局(Federal Bureau of Narcotics)設立である。ハーバート・フーヴァー米政権下で設立され、ハリー・J・アンスリンガー(Harry J. Anslinger)が初代長官となる。
この時期「大麻」の危険性と人種差別を煽るプロパガンダ、いわゆる「ヒステリー・キャンペーン」が米メディアで繰り広げられ、アンスリンガーはそれを利用して大麻(マリファナ)との全面戦争を展開した(参考)。
(図表:ハリー・J・アンスリンガー)
(出典:Wikipedia)
ところが近年に入り米国勢における「大麻」のトレンドが一転する。2014年に米コロラド州で従前から認められていた「医療用大麻」を越えて、「嗜好用」の大麻の販売制度がスタートする。これが他州にも広がった(参考)。
2017年には世界保健機関(WHO)が「CBD(カンナビヂオール)」は純粋であれば人や動物にとっても安全で、依存症や乱用を引き起こす可能性はないという報告書を発表した(参考)。
さらに米国立衛生研究所(NIH)は1,500mgの「CBD(カンナビヂオール)」を最大4週間、毎日口から摂取しても安全だとした(参考)。
「CBD(カンナビヂオール)」は免疫系に影響を与えることを示唆する研究も出ている。具体的には抗炎症作用があり「免疫抑制剤」(参考)や「免疫調整剤」(参考)として機能するというものだ。
特に今次パンデミックによって米国における「CBD(カンナビヂオール)」への期待は益々高まっている。
世界保健機関(WHO)はCOVID-19の重症患者に対してコルチコステロイド投与を推奨している(参考)。これに対して「CBD(カンナビヂオール)」はステロイドの天然の代替品として研究されており、副作用なしに同様の効果をもたらすと考えられているのだ(参考)。
それでも、その効用についてはまだ研究が十分とは言えないのが実態である。にもかかわらず、米国勢における「CBD(カンナビヂオール)」に対する一般評価は独り歩きしているように見える。今年(2021年)1月に米国人5千名の一般市民を対象にした調査では「免疫力」を高めるのに重要な食品として「CBD(カンナビヂオール)」が「ビタミンC」「ビタミンD」「プロバイオティクス」「亜鉛」などに続いて7位に挙がった。
(図表:健康食品)
(出典:Wikipedia)
そんな中、米投資家の間では「マリファナ界のファイザー」となり得るヴェンチャー企業が存在するとも言われている。大麻の葉を1枚も育てることなく、純度100%の「CBD(カンナビヂオール)」を大量生産できるという画期的な技術に特許が下りる可能性が高いという(参考)。
バイデン新米政権発足直後の今年(2021年)2月1日、民主党上院議員が年内に大麻改革法案の可決を目指すと発表した(参考)。この発言は「合法大麻」に対する国民の支持が高まっていることを受けてのものだ。昨年(2020年)11月に行われたギャラップ世論調査では過去最高となる米国人の68%が大麻合法化を支持したのだ(参考)。
「大麻」について第二次世界大戦後にその規制をリードしたのは米国勢である。しかし事もあろうにその米国が今、グローバル社会をリードする形で今度は「大麻合法化」に向けて動き始めている(参考)。このような動きが推し進められる背景には何があって、本当の目的は何なのか。
今次パンデミックでのコロナ・ワクチンを巡り、欧米、中国、そしてロシアの間におけるマーケット争奪戦が加速している。
「免疫力」という次のパンデミックに向けた切り札として「CBD(カンナビヂオール)」が市民権を一気に得る可能性も考えられる。
「CBD(カンナビヂオール)」を巡る世界規模の展開に引き続き注視したい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す
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IISIAマンスリー・レポート 2016年9月号
なぜ今「大麻合法化」なのか~太陽活動の激変、そして新たな利権の創造に向かう世界~