米国勢とヴェトナム勢の25年 - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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米国勢とヴェトナム勢の25年

12日(ホーチミン時間)、外交樹立25周年に当たるこの日、米国勢とヴェトナム勢の首脳が祝辞を交換した旨“喧伝”されている。この報道に着目したのには理由がある。11日の当研究所における研究員講演の終了後に1人の男性に声を掛けられたのである。男性はヴェトナム勢に20年以上居住し現地でコーディネーターを中心に幅広く事業を手掛けている敏腕経営者だ。その男性を仮にS氏とさせていただく。S氏はこう述べた。

「これからはヴェトナムに注目すべきだよ」
S氏のヴェトナム勢との最初の接点はカンボジア勢に渡航する際に直行便がなかった時代に経由地として降り立ったことから始まっているという。S氏はヴェトナム勢に関する思いを熱く語った。我が国との関連でも、ヴェトナム戦争時に米軍が散布した枯葉剤が投下された地区の土壌改良が進んでいるという。開発には我が国のゼネコンが関わっているとS氏は明かしてくれた。

(図表 1997年に元ヴェトナム大使がクリントン米大統領(当時)と面会)

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(出典:Viet Nam News.)

 話を戻せば、米国勢とヴェトナム勢の関係はこの25年良好な関係が続いている。1995年7月11日、クリントン米大統領(当時)は米国勢とヴェトナム勢の国交正常化を公式に発表した。それ以来、米国勢のヴェトナム勢への投資は進んでいく。そのメインプレーヤーは
米国勢の上院議員らであり、その上院議員らは故ジョン・マケイン上院議員と元米国上院議員のジョン・ケリー元国務長官の2人である。マケイン元上院議員はヴェトナム戦争にも従軍経験がありパイロットの任務中に撃墜され逮捕。その後解放され帰国したマケイン元上院議員は政治キャリアを積み重ねて行く。そして2000年と2008年には大統領候補に指名されている。

(図表 General Electric(GE)がタービンを供給するBạcLiêu洋上風力発電所)

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(出典:Viet Nam News.)

 ヴェトナム戦争に海軍兵として関わった元上院議員であるジョン・ケリー元国務長官もヴェトナム勢との関係構築に尽力したとされる。ケリー元国務長官は捕虜と行方不明事件に関する特別委員会の議長を務め、ヴェトナム勢に自ら渡航し数千の文書と画像を研究することによってヴェトナム勢における秘密刑務所に投獄された米兵の存在を明らかにした。
2013年からはケリー元国務長官が介入する形で米国勢のGEとヴェトナム企業が風力発電事業で提携している。
ヴェトナム勢はこの25年で米国勢との距離を縮め経済分野でもパートナーシップを築いてきている。国としての優先課題は経済開発、科学技術、米国勢市場へのアクセス、特に高度な技術開発分野だ。具体的には再生可能エネルギー、クリーンで持続可能なエネルギー、スマート・シティ開発、ハイテク農業、ハイテク産業などの開発において、ヴェトナム勢は米国勢との経済協力を推進していくとしている。また両国勢間の輸出入においてもヴェトナム勢は農業分野を中心に拡げていく方針を掲げている。とりわけ注目すべきはスマート・シティ開発である。ヴェトナム政府は2018年に「ASEANスマートシティ・ネットワーク(ASCN)」にハノイ、ホーチミン、ダナンの3都市が参画すると表明している。更にスマート・シティ開発に向けた指針を示すため首相決定では情報通信技術(ICT)を活用することで都市行政の効率的な管理、土地やエネルギーなど資源の効率的な活用、生活の質の向上、社会経済の発展を目指す方針だ。ヴェトナム政府は今後の活動計画として、2025年までに試験運用を開始し開発に関連する規格を定め2030年までにはスマート・シティ間の連携も目指す。
他方で、米中勢が香港勢・台湾勢を巡り“角逐”を激化させ一触即発の状態になっている中で留意すべきは弊研究所がこれまで分析を提示してきた(註:IISIAマンスリー・レポート2018年7月号所収「南北ヴェトナム勢の『統合』~計画経済と資本主義経済の狭間の計算~」)通り中国勢からヴェトナム勢への「簿外資産」の拠点の収納に関する動向である。今後ヴェトナム勢は中国勢、米国勢のどちらとの関係を重視していくのか。米中勢間においてヴェトナム勢を巡る“角逐”が新たに加わり、主に「スマート・シティ利権」を巡り激化することは間違いなさそうだ。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
羽富 宏文 記す

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