新型肺炎はこれだけの脅威性がある ~「パンデミック」はいつ…?~
新型肺炎の世界的な感染拡大は留まるところを知らない。一連の感染の根源地とされる中国湖北省武漢市では多数の人々が感染していると言われ、欧米の一部マスメディアは同市を「ゾンビランド」とすら呼称しているほどなのだ。中国政府は武漢市を事実上封鎖するなど、感染予防やウィルスの制圧に力を注いでいる。しかし国民的行事である春節(旧正月)に伴う大移動も始まり、更なる感染拡大が懸念されている。正に複数地域で感染症事例が確認されていく「エピデミック」が生じているという認識をすべきであって、春節、更にはその直後のビジネスの復帰を以て「パンデミック」になりうるとも警戒すべきなのである。
(図表1 新型ウィルスに罹患した人々が路上で死亡しているとされる現在の武漢市内)
(出典:The Sun)
この問題で考えるべきは、(1)どれくらいのスピードで拡散しているのか、(2)結局のところどの程度脅威なのか、(3)感染を予防するにはどうすべきなのか、(4)万が一感染を疑うべき事態となればどうすべきなのか、である。
27日午後0時段階では以下のとおりである。
- 国外発生状況:
中国:感染者2744名、死亡者80名
香港:感染者8名、死亡者0名
タイ:感染者8名、死亡者0名
マカオ:感染者6名、死亡者0名
米国:感染者5名、死亡者0名
オーストラリア:感染者5名、死亡者0名
シンガポール:感染者4名、死亡者0名
台湾:感染者4名、死亡者0名
マレーシア:感染者4名、死亡者0名
フランス:感染者3名、死亡者0名
韓国:感染者3名、死亡者0名
ベトナム:感染者2名、死亡者0名
ネパール:感染者1名、死亡者0名
- 国内発生状況:
確認されている感染者は4名
- 危険度:
中国湖北省全域:レベル3(渡航中止)
上記以外の地域:レベル1(要注意)
ではどの程度の拡散スピードと脅威度合いがあるのか。ビル&メリンダ・ゲイツ財団に所属し世界中の一流紙に疫学者であるメルヴィン・サニカス博士が今回この新型コロナウィルスの脅威度合いについて、疫学上、拡散スピードを表す基本再生産数(Basic reproduction number)及び脅威を表す致死率(Case fatality rate)を算出している。
基本再生産数(Basic reproduction number)は通常と書くが、ある感染症に罹患した患者1人が感染し得る人々がいる空間にいたとき、その全感染性期間において二次感染する人数の平均値をいい、この数値が高いほどその感染症は人に感染しやすいということとなる。今回の推計値に則れば、今回の新型コロナウィルスは、過少に言えば季節性インフルエンザと同程度の感染力を持ち、過剰に言えばかつて2003年に流行したSARSに匹敵する感染しやすさがあるということになる。
他方で致死率(Case fatality rate)とは、ある一定の時間を定めたときに特定の疾病に罹患した母集団の内、罹患からその時間が経つまでの期間に死亡した患者の割合を指す。新型コロナウィルスの致死率は4パーセントとなっており、これは百日咳と同程度ということになる。
(図表2 各感染症の基本再生産数及び致死率の一覧)
このように定量的に見ると、一見、今回のコロナウィルスが大したことが無いかのように思える。実際、世界保健機関(WHO)も新型コロナウィルスについて「国際的に注目される突発公共衛生事件」になるかどうかを判断する旨“喧伝”されているものの、本稿執筆時点(27日段階)で緊急事態宣言を行うかについて判断を延期し、各国政府も表立ってグローバルな人的移動(旅行・ビジネス)などに対する制限警告を出していない。しかし公的機関がこのような深刻な事態を認めればパニックが起こり得るため、情報を出さないことも考えられる。これはこれで意義があるとも言えるが、我々が自身や周囲の生命を守ることを最優先するのであれば、最悪のケースを想定するべきであるのは当然である。
差し迫った懸念は春節の大移動による更なる感染拡大である。この意味では今回の感染症拡大がSARSと同等、それ以上の規模になるとの想定をすべきなのは明らかである。
他方で最悪の場合という意味で言うならば、これは我が国が関係するとは必ずしも言えないが、グローバルで同時多発的にパンデミックが発生するリスクすら想定しなければならないというのが卑見である。なぜならばトランプ米大統領がダヴォス会議に出席する最中に突如としてアフリカ4か国への旅行を禁止する旨、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者に言及したからだ。
実は今回禁止国に追加された国の1つであるスーダンにおいて昨年末からエボラ出血熱が流行し始めているのだ。
最悪を考えるという当初の主旨から言えば、新型コロナウィルスの流行と同時多発的に別の感染症が流行することをも考えるべきなのである。そうなったときには医療物資が不足するという事態があり得るのであって、それが我々にとって最も想定し得る身近な憂慮事態である。
このコロナウィルスに如何なる予防措置を取るべきか。最も重要なのは手洗いであると言われている。予防措置で最も重要かつ基本的な目標はウィルスを体内に入れないということであるが、マスクは確かに意味がある場合もあるが、総合的に言うと不十分である。なぜならば、まず目からも感染し得るのであって空気感染は口からとは限らないからである。また確かに専用の空気フィルタの付いたマスクであれば効果もあるが、一般向けのマスクでは不十分なのだという。また24時間365日マスクを着け続けることも現実的ではないという事情がある。むしろウィルスを経口しないという観点では手洗いの方が効果的なのである。
いずれにせよ、このような中だからこそ、日々しっかりと栄養を摂る、充分な睡眠を取るといった基本的な免疫力を高める措置を読者各位がしっかりと取っているのかを試されているのである。今ならまだ間に合う。今すぐに生活習慣を改めるべきである。
グローバル・インテリジェンス・ユニット
リサーチャー 王 鵬程 記す