「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第18回 バカンス - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第18回 バカンス

 

欧州ではバカンスシーズンに入り始め少しずつ社内人口が減り始めています。かくいう私も4週間のバカンス中(笑)。法定休暇なので取得が義務なのです。と、大口を叩いているはいえ4週間は微妙に長い、と自覚しています…。

さて、このような状況で仕事が本当に回るのか不思議に思う方々も多いでしょう。今回は、こうした習慣を持つ欧州系企業、或いは在欧州グループ企業や支社等とのバカンス時の仕事の仕方について取り上げてみたいと思います。

まずは夏のバカンス。こちらは7-8月に大半の人が3-4週間の休暇を取り民族大移動を起こしますので、この時期に仕事を動かすのは非常に厳しい状況となります。特に7末を過ぎたら一か月は何も動かないと覚悟するしかありません。では、7末目途に仕事を動かせばいいのかというと、そう言い切れないところが問題なのです。日本であれば、休暇を取る際に上司や部下、同僚等に最低限の引継ぎをしますが、欧州では自分の案件を誰かに引き継ぎするなど稀で、担当者がいなければ誰もその案件を知らないという場合も多く、自分の休暇に合わせて要求を出してくることがよくあることに注意する必要があります。 例えば7月頭から3週間休みを取ろうと思っている担当者は、6月半ば位からすべてに片を付けてバカンスに立とうと6末までに無理難題を吹っかけてくるものの、簡単に回答が出せるものばかりではなく、かつ日本の本社に急ぎの回答をお願いしてもこちらの事情が理解されていなければ、何故そんなに急がされるのか理解してもらえず、間を取り持つ欧州支社が板挟みになるといった光景もよく見られます。こうした状況をできる限り回避するには、前広に取引先の関係部署担当者の休暇取得状況をリサーチする必要があります。夏休みといえば8月だと思い込んでいると、私のように7月に休暇を取る担当者に当たる案件を持つ方は痛い目を見ることもありえます(笑)。最近では、休暇中にメールを見てくれる欧州人も増えてはいますが、それを当てにすることはできないと割り切っておいたほうがよいでしょう。たまに、すっきり休暇に出たいのか、こじれまくっていた案件がバカンス前に急遽解決といったミラクルも起こることもあるのですが、やはりこれは滅多にない棚ボタです。

次に大きなバカンスが年末のクリスマス休暇。欧米人にはクリスマスが日本人にとってのお正月のようなものですから、新年はどうでも良く年初2日から始業しますが、クリスマスのある週初から2週間、或いはクリスマスの辺りから10日位と休暇を取る人が多くいます。1週間ぐらいしか休みを取らないとしてもクリスマスの前後で取るので、年末の30、31日に出社している人は結構いるものの、通常お正月がメインの日本側はこの時期休みに入っていますので、欧州側が動かない時期と日本側が動かない時期を合わせると2週間半ほど身動きが取れなくなってしまい、仕事上支障をきたすことがある点に注意が必要です。折角、欧州クライアントの要求に応えようと本来であれば年明けにしか対応できないであろうことを、W51迄に何とか対応することで誠意を見せているつもりが、W51では欧州は既に休暇に入ってしまっており努力が無駄の泡になってしまっているといったこともあり、バカンス時期には十分に注意する必要があります。

そして、最後に気を付けなければいけないのが休暇消化の時期です。例えばフランスでは、5月末までに前年度分の休暇を消化しなければならないことになっていることから、5月は皆休暇消化に躍起となっており、企業によっては夏休みと同レベルで事務所に人がいないといった光景も見受けられます。

フランスでは法定休暇が5週間、さらに週35時間労働制の導入により多くの企業で週35時間以上の労働時間分を有給休暇として与えることとなっておりそれが約2週間と、雇用者が計約7週間の年休を取得し且つ基本全部消化するわけですから、事務所に閑古鳥が鳴く状況が起きても不思議はありません。子供がいれば、子供たちは夏季休暇が8週間、秋休みが2週間、クリスマス休暇が2週間、冬休みが2週間、春休みが2週間と計16週間、親が自分の法定休暇を消化しても足りないだけの休みがありますので、親としても休暇を取らざるを得ないといった事情も窺えます。

日本と比べると法定休暇が格段に長いこともさることながら、一番の問題はやはり引き継ぎといった習慣がないところに起因するといえるでしょう。これまでも何度か述べていますが、欧米では自分の担当する業務という枠がしっかり固定されている場合が多く、そこからはみ出すことをちょっとお願いしてもそれは自分の仕事じゃないと断るだけでなく、どうにもその担当業務が出来ていないので手出しをしなければいけない状況が起きたとしても、手出しをするとへそを曲げるという厄介な人も多く、自分のテリトリーを守ることに必死となるばかりに、連携を取って仕事に穴をあけないようにという考えにまで及ばない人が多い気がします。ですので、そもそも自分の担当の仕事を自分の留守の間誰かに頼むということもしなければ、仮に頼んだとしても、頼まれた側も自分の仕事で忙しいのに他人の仕事まで面倒見きれないと、おそらく表面上引き受けたとしてもあくまで表面上でしかないので無意味となっているのが実情なのだと思います。

このような状況ですから、欧州と取引する際には、年に数度ブラックボックスの期間があると腹を括って、いかにその期間に重要事項の決定を回避するかがカギとなるといえるでしょう。

 

プロフィール

川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。

リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得。主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

 

 

 

 

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