「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第2回 コミュニケーション能力~
他人事だと思っていた朝食に目玉焼きを出すホテル探しミッション(第1回コラム参照)に借り出されそうで微妙な心情の今日この頃。「目玉焼きが無ければ、炒り卵を食べればいいのに」とアントワネットよろしく返してみたいところですが、きっと冗談は通じないでしょう。目玉焼きも卵焼きも無くても、スクランブルエッグぐらいならフランスにもあるでしょうに。。。
と、どうでもいい前置きはさておき、前回グローバル人財には「コミュニケーション能力」が必須ということで締めくくらせて頂いたわけですが、今回はもう少しこの「コミュニケーション能力」について掘り下げていきたいと思います。
先日「髪の毛をピンクにしようかな~」と娘に言ったところ「恥ずかしいから止めて!!」と泣かれました(笑)。染めた後の髪の毛を見て「何だ、これがピンクなんだ。真っピンクにするのかと思った~」との意見。つまり、大人の女性が髪をピンクに染めると言ったときの「ピンク」は茶色にピンク味を入れるという意味で使うわけですが、子供は「ピンク」といったらそのままピンクの綿菓子みたいなものを思い起こすわけです。
分かりやすい事例として大人と子供のものの捉え方の違いを挙げたわけですが、大人同士でも一人一人育った環境は異なりますから、普通に日本人同士で会話をしていたとしてもこうした取り違いはよく起こることだと思います。これが、日本語で普通に会話をしていると「あ、そっちの○○ね」と大抵すぐに気付くのですが、外国語で会話をしていると、この「単語の意味」の取り違いに気付かないことが往々にして起こりえます。
では、この齟齬を防ぐにはどうすれば良いのか?
それには、何よりも会話をする際の洞察力が必要といえます。相手の言っていることと自分の理解していることに違いがないか、会話の隅々に気を配り、確認しつつ会話を進めていくための洞察力。それと同時に柔軟性。このプロジェクトはA→B→Cで動くといったような先入観があると、それ以外の動きは耳に入らなくなりますから、先入観を持たずにありとあらゆる可能性に対応できる柔軟性が必要不可欠です。これが自然に出来る人こそ「コミュニケーション能力がある」といえるのだと思います。
傍で聞いていると会話をしている当人同士がすれ違っていることに気付くのに、会話の当事者になっている時には気付かなかったといった経験が皆様にもあるのではないでしょうか。第三者の時には、当事者でないが故に観察力も増し、尚且つ冷静に会話を理解する立場でいることができるからでしょう。
「単語」一つとっても、広義で使用されたり狭義で使用されたりする例は多々あります。例えば、製造業でよく使用する「オフツール」品といった単語。日本では「オフツール」品といえば純粋な「オフツール」品に対してしか使用しない単語であるのに対し、欧州系メーカーでは「オフツール」品という単語を「オフツール・オフプロセス」品に対しても使用する傾向があります。これを知らず、かつ単純に「オフツール」は「オフツール」と頭から信じ込んで話を進めていると、欧州系「メーカー」と日系「サプライヤー」間或は日系「メーカー」と欧州「サプライヤー」間でプロジェクトを進めていく際に話のずれが生じる可能性もありえるわけです。
背景にある環境・文化が全く異なる外国人との間では同じ「単語」を全く同じ「意味」で使っているとは限らないことが「当然」ぐらいの前提で、ある意味懐疑的にコミュニケーションをとるぐらいの慎重な姿勢、一方でそれをおくびにも出さない態度で会話を進めていけるのが求められるべき「コミュニケーション能力」といえるのではないでしょうか。
このような意味で「コミュニケーション能力」=英語力ではないと前回書いたのであり、コミュニケーション能力を持つことのほうが重要といいたいのですが、勿論英語力が無くてよいという意味ではありません。
海外拠点との共通言語はどうしても英語にならざるを得ないわけであり、特に海外駐在に出る場合には、最低限仕事で意思疎通ができるレベルの外国語力が必要です。仕事をしながら外国語を修練していけばよい程度の甘い考えでは、はっきり申せばローカルから見れば迷惑以外の何者でもありません。本社側も、駐在に出す職員の英語レベルが低ければ、実際現地で仕事を始める前に3ヶ月でも半年でもまず英語力を上げることだけに専念させてから仕事を始めさせるほうが、結局は効率的に仕事を進めることができるという点を理解されたほうが宜しいと思います。仕事しながらの「形だけ」英語レッスンほど意味のないものはありません。
また、英語力が求められるのは何も海外拠点の駐在員だけではありません。本社の海外拠点との窓口に当たる部署の人間は、当然のことながら最低限英語で読み書きできる能力をつけるべきです。日本人同士のやり取りの際に英語を使用する必要は全くありませんが、海外拠点のローカルとは英語でのやり取りになるわけですから、英語を使用すると「対応が遅い」ではグローバル化の足枷となります。「グローバル化は海外拠点のみならず」、これを念頭に入れた上で世界を目指す必要があります。
次回は、海外に出た途端に忘れ去られがちになる「コンプライアンス」について書かせて頂きます。
【執筆者プロフィール】
川村 朋子(かわむらともこ)
元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。リ ヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得。主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問 題の現状」がある。