「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~序 海外に飛び立つということ~
会員様向けデイリーレポートにて特別コラム「フランス・メディアで“世界の潮目”を探る」を執筆しております川村です。
こちらのIISIA公式HPブログでは、グローバル化を目指し海外に進出している日本企業内で起こる様々な問題点について、日本の本社にはなかなか届きにくいと思われるローカル視点で考察し、これからの日本を担っていくグローバル人材育成に関わる読者の皆様の気付きになればとの思いで執筆させていただきます。但し、此方は一風変わった「フランス勢」ですので、海外拠点全てに通ずる問題の場合もあれば、フランス特異の問題も含まれてくることになる点御留意ください。
今回は、あまりにも大前提過ぎるのではと首をかしげる向きもあるかと思いますが、序章として『海外に飛び立つということ』とのテーマで、まずは海外に出てゆく一人一人が自覚すべき点、そして海外で仕事をしていくにあたり重要となる点について語っていきます。
本社上層部の海外出張対応時に様々な注意点を本社が送付するのは各社同じだと思いますが、最近聞き及んだ事例では、注意点が事細かに羅列され更に「ホテルの朝食には目玉焼きを所望」というお達しが届いたということがありました。また、日本から来た駐在員からの初めての質問事項が、現在取り組んでいるプロジェクト等業務の話ではなく「女性と一緒にお酒を飲めるお店を知っているか」だったんだが、彼は何を考えているんだ!?とフランス人の同僚が目を丸くするといった事例も未だに耳にします。
何を言いたいのかと申しますと『海外は日本ではありません』という当然至極のことです。
多くの読者の方が御存知の通り、安全も水もただ当然で手に入り、サービスも細やかに行き届く国は日本以外にありません。日本と同じように生活し仕事していくことを海外で求めるのは無い物ねだりでしかないことを、海外に一歩足を踏み出す前に理解する必要があると思います。
フランスに在住すると先進国の定義について自問自答したくなるような驚くべきことが普通に起こります。送ったものが届かない、予約をしてコンファメーションまで受領しているのに予約されていない、支払ったはずの請求書の催促状が届く等々、些細なことを気にしていたら真面目な日本人は気が狂います。公的手続きを行うのでさえ対応する相手が違えば言ってることが180度変わるのが常。権利は要求するが義務は遂行しないのがフランスの一般常識とでも思っていないと生活も仕事もできません。
こんな国(ばかりではないでしょうが)に飛び出してくるのですから、日本の古き良き習慣を全てそのまま持ち込むという姿勢では事がスムーズに進むはずがありません。一方、「郷に入っては郷に従え」とその国のやり方全てを模倣するのが、日本企業にベストな方法ではないのはいうまでもないでしょう。明治維新以来、外国から入ってくる新たな文化・事物を日本古来の文化・事物と融合してまた異なる優れた物を作りだしてきた日本人の秀でた面を、海外進出する際に応用することこそ求められる姿であると感じます。
アウトプットの形では、勿論、進出している国に見合った「モノ」なり「サービス」を提供することを忘れる企業はないでしょうが、その地に進出し重要な窓口となる企業の「海外拠点」のあり方が果たして日本と相手国の文化を上手く融合した理想の形になっているかは疑問が残るところです。
では、この理想を現実にするにはどうすれば良いのか?これにはコミュニケーションをとる以外方法がありません。確かに一から十まですべて口に出して説明するのは面倒です。しかし、何度でも理解の齟齬が起きていないかを確認していく作業を積み重ねていかなければ、従業員全員が同じ「母国語」を使用しない海外拠点では「理解の相違」が延いては「思考の相違」につながりやすく、国内本・支店より社内の軋轢が生まれる可能性が高くなります。特に英語圏でない国では、両サイドともが母国語でない「英語」でコミュニケーションをとるわけですから、こうした状況が生まれやすい素地がある点に注意が必要です。一度でも日本人VS現地職員という壁が立ちはだかれば、並大抵の努力ではこれを解消するのは難しいことでしょう。こうした状況が生じる前に、生じさせない努力が何よりも必要なのです。同じ言語を使用していてさえ、話が上手く伝わらないといった状況は往々にして起こりうるのですから、海外拠点でのコミュニケーションの重要性は国内の比ではありません。
こうした意味でも、社内言語を英語にすることを企業のグローバル化と穿違えている企業ははっきりいってナンセンスとしか思えないのです。「言語」はあくまでコミュニケーションの手段です。本来手段はできる限り容易いものであるべきで、それを放棄してまで得られる利点がどの程度のものなのか疑問です。勿論言語スキルがあるに越したことはないのですが。
というわけで、グローバル人財に欠かせないものの第一要素は「コミュニケーション能力」であり、それが=英語力ではないとの持論で序章を締め括らせて頂きたいと思います。
【執筆者プロフィール】
川村 朋子(かわむらともこ)
元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得。主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。