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事業承継が難航する理由―そして、次の一手(クスノキ・プロジェクトへの招待 Vol. 18)

はじめまして。この度、新体制クスノキ・プロジェクトに参画させていただくことになりました、IISIAインターン生の中村友南です。

――人生で培った、知恵・技・想いを、誰かに託していく――

その大切な一歩となるこの取り組みに関わらせていただけることを、大変光栄に思います。本プロジェクトの一助となれるよう精一杯努めてまいります。

さて、前回ブログ(Vol. 17)でも取り上げましたように、事業承継はいまや多くの経営者にとって避けられない課題です。経営トップの交代というイメージが強い事業承継ですが、実際には現場の業務や人のつながり、役割の引き継ぎなど、草の根レヴェルにまで及ぶ身近なものでもあります。このブログを目に留めてくださっているあなたも、そうした悩みを抱える一人かもしれません。

本稿では、前回から一歩踏み込み、なぜ事業承継がこれほどまでに難航しているのか、現場に蓄積された知識や判断、役割がどのように引き継がれていないのかという観点から整理していきます。

『中小企業白書2024』では、後継者がすでに決まっている企業においても、「後継者の経営能力」や「相続税・贈与税の問題」などを課題として挙げるケースが多く見られます。これは事業承継が難航する原因が、単に「後継者不在の問題」のみならず、経営判断やノウハウ、責任の所在といった経営の中身をどのように引き継ぐかという構造的な問題に及んでいることを示しています。

(出典:2024年版 中小企業白書)

 

前回ブログ(Vol.17)で触れた通り、事業承継で引き継ぐべき経営資源は、「人」「資産」「知的資産」の三つに整理できます。なかでも知的資産は、マニュアルや数値では表しきれない、経験に裏打ちされた判断や工夫の積み重ねであり、非常に重要なものです。まさに、事業承継をここまで難航させてしまう理由の大きな原因こそが、この知的資産なのです。

多くの中小企業では、この知的資産が、特定の人の中に蓄積されたままになっています。

たとえば、

  • この取引先との付き合い方は、社長に聞かないと分からない
  • この場面でどう判断するかは、経験がなければ難しい

といった状況に心当たりのある方も少なくないのではないでしょうか。

こうした判断や対応は、業務マニュアルに明確に書かれているものではありません。日々の仕事の中で自然と身につき、周囲も「見て覚える」「察する」ことで共有されてきた、いわゆる 属人化暗黙知 です。

こうした属人化や暗黙知は、長年の積み重ねによって培われ、これまで会社を支えてきた大切な強みでもあります。しかし同時に、それらが個人の中に留まったままである場合、事業承継の場面では大きな壁となり得ます。というのも、これらの判断や知恵がデータとして蓄積されていないからです。どのような場面で、誰が、どのような判断を下し、その結果どうなったのか。こうした履歴が残されていないため、後を継ぐ側は「何を、どのように引き継げばよいのか」を把握すること自体が難しくなってしまいます。このようなデータ不足は、属人化・暗黙知をさらに見えにくいものとし、事業承継を一層困難にしているのです。

 

ここまで見てきた課題には、一つの共通点があります。

それは、経営や現場に蓄積された知的資産が、視える形になっていないということです。属人化や暗黙知、データ不足はいずれも、知識や判断の背景が個人の中に留まり、第三者から把握できない状態を生み出しています。そして、必要となるのが、日々の業務や判断の積み重ねを継続的に記録し、関係性や傾向として捉えることができる仕組みです。

AIの活用は、まさにこの「視える化」を現実的に可能にする手段の一つです。日々の業務や判断の履歴を自動的に蓄積し、後から振り返れる形で整理することが可能になるのです。たとえば、「どのような条件のときに、どの取引先を優先したのか」「過去に似た状況では、どのような対応が取られ、どのような結果につながったのか」といった情報を、必要なときに参照できるようになります。
これにより、これまで特定の人の中にしかなかった判断の背景や考え方を、組織として共有することができるようになります。

もっとも、AIの活用によって、事業承継や知識伝播、技能承継がすべて自動化されるわけではありません。最終的な判断や責任、そして覚悟を引き受ける場面は、これからも人間に残り続けます。だからこそ、人間が担うべき役割にしっかりと向き合える環境を整えることが重要になります。日々の業務や判断を記録し、整理し、過去の事例と照らし合わせて振り返る。そうした積み重ねは、人の記憶や経験だけに頼るよりも、AIを活用することで、より無理のない形で続けていくことができるのです。

また、これは事業承継の有無にかかわらず、日々の経営や現場運営においても重要な意味を持ちます。判断の経緯や業務の工夫が蓄積されていくことで、組織としての学習が進み、変化への対応力も高まっていくからです。自社の強みを言語化し、自分の判断基準を整理し、それを他者と共有できる形にする。そのプロセス自体が、企業の価値を再定義し、次の成長への土台をつくる営みでもあります。

 

次の一手は、まずは、自社の中にある「言葉になっていない強み」に目を向けることにあるのではないでしょうか。

このクスノキ・プロジェクトは、IISIAが掲げるヴィジョン「Pax Japonica」の実現を促進する具体的な実践の一つであると同時に、会員の皆様の知識伝播・技能伝承・事業承継といった、次世代への「想いの伝承」を支援する取り組みです。こうした課題意識を、実践的な形で共有し、考える場として、3月に開催する第2回クスノキ・プロジェクト・ワークショップでは、AIを用いた事業承継の可能性を共有する場を用意しています。

今回のブログでは、事業承継がなぜこれほどまでに難航しているのか、その背景にある「属人化」「暗黙知」「データ不足」という構造的な課題に焦点を当ててきました。事業承継とは、単に経営者の立場を引き継ぐことではなく、これまで積み重ねられてきた判断や工夫、考え方といった“見えにくい資産”を、いかに次の世代へと渡していくかという営みでもあります。

次回のブログでは、今回取り上げた課題に対して、具体的にどのようにAIを使う事ができるのか?について、より具体的に取り上げます。

 

第2回クスノキ・プロジェクト・ワークショップの募集は、1月31日(土)に開催する「2026年・年頭記念講演会」より開始します。

是非、御申込みください。

詳細とお申込みは今すぐこちらからどうぞ!(HPにジャンプします)

*クスノキ・プロジェクトの第一回ワークショップ時の風景です。

 

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※当ブログの記述内容は弊研究所の公式見解ではなく、執筆者の個人的見解です。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所・インターン生 中村友南拝