思考を伝播させる存在としてのAI。(クスノキ・プロジェクトへの招待 Vol. 13)
インターン生の髙橋こころです。
冬晴れの空が広がり、澄んだ空気が心地よい季節となりましたね。一年の締めくくりである12月に差し掛かると、あっという間に過ぎ去った一年を思い返さずにはいられません。「いつかこんな場所で働いてみたい」と密かに憧れていた丸の内で、まさか大学生のうちからインターン生として働くことになるとは一年前には想像もしておらず、感慨深さを感じます。
11月から丸の内のメインストリートではシャンパンゴールドの光が輝き、街中が一気にクリスマスムードに包まれて一段と洗練された街並みと歴史的建造物の融合には心が惹きつけられます。今では、世界中で装飾されるようになったイルミネーションですが、その起源は16世紀まで遡るそうです。今から約500年前、ドイツの宗教改革家マルティン・ルターがクリスマス・イブのミサの帰り道に夜空に輝く星空を見て、子供達にもこの景色を見せてあげたいという気持ちから、モミの木にろうそくを立てて幻想的な空間を再現したのです。先人の想いが、時代を超えて生きる人々の心を魅了していることは、とても素敵なことだと思います。
さて、先月11月26日(水)には「2025年IISIA・ヨーロッパ出張報告会」を開催し、11月6日(木)7(金)の二日間にわたりオーストリア・ウィーンで開催された「第17回ピーター・ドラッカー・フォーラム」において何が語られていたのか、についてゴールド会員様に向けてご報告をいたしました。(参考:想起されるべき「全体主義」との格闘とは。(クスノキ・プロジェクトへの招待 VoL.12) – IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 – haradatakeo.com)
報告会実施後のアンケートでは、「企業組織におけるAIの活用についての具体的な話をもう少し聞きたかった」「AIの登場に伴い人間の心理がどのように変わるのか気になった」との声も頂戴しておりましたので、本ブログでは、ドラッカー・フォーラムで得られた示唆をもとに、AIという観点からもう一歩踏み込んでご説明できればと思います。
さて、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」の下に閣議決定をされた補正予算案は、前年度から3割増しとなる大規模なものとなりましたが、その中ではAI・半導体のインフラへの投資が重要な国家戦略分野として挙げられています。またインフラへの投資と並行して、インフラを活用するAI人材への投資についても、文部科学省は大学学部の理系転換支援の基金を設立したことが報じられています。経済産業省の見通しによると2040年にAI・ロポットなどの活用を担う人材が約300万人、大学・大学院卒の理系人材が約100万人以上不足に陥ると推計していることを踏まえれば、こうした人材育成が急務であることは言を俟ちません
他方で、これまでのブログでは、ドラッカー ・フォーラムを通じて見えたこととして、日本はヨーロッパ諸国と比べるとAI活用を進める際の原理・原則、いわばプリンシプルが十分に共有されていないのではないか、という点を取り上げました。(参考;「リーダーが答えを持つ時代」からの転換。(クスノキ・プロジェクトへの招待 VoL.11) – IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 – haradatakeo.com)
日本ではインフラ整備や人材育成の“量”的な拡充が先行する一方で、「何のためにAIを使うのか」「AIを私たちの社会のどこに位置づけるのか」という“質”的な議論がなお不足しているのではないか、という問題意識です。こうした“質の議論”の重要性は、今年9月に京都大学・京都哲学研究所がNTTと共同でAIと人間の倫理に関する会議を主催したことがメディアで注目を集めるなど、国内においても可視化されてきているように感じます。
弊研究所としてはこれまでに、クスノキ・プロジェクトにおいてはAIを「知識伝播を効率的に行うことを可能にする存在」として位置づけ、実際に経営者の著作・講演などをデータベース化し、AIを通じて知識を引き出すシステムの実装をレクチャーするワークショップを開催してきました。また弊研究所代表・原田武夫は情報リテラシー教育におけるカギとして、学習者に過去との類推に基づき「気づき」を与えるアブダクション(abduction)の概念に注目し、アブダクションを促す存在としてのAIの在り方を提言しています。(参考:アントレプレナーシップ育成の中核としての情報リテラシー教育における大規模言語モデルの活用)
ここでドラッカー・フォーラムでの議論に話を戻します。今回のドラッカー・フォーラムでは全部で30を超えるセッションがありましたが、共通して示されていたのは「人間の能力を拡張する存在としてのAI」を構築するべきという見方であり、その中でも特に「The AI Miracle in Learning」というパネルにおいて、目を引くAI活用の在り方が提示されていました。この講演では、ノースイースタン大学教授で元SRIインターナショナルCEOのCurtis R. Carlson氏より、「AIは“答えを出す機械”としてではなく、組織が大切にする思考様式を社員一人ひとりに行き渡らせる媒介として活用することができる」という発想が紹介されました。以下にCurtis氏の発言の概要を掲げます:
組織には、仕事をする上で非常に重要な原則というものがあります。例えば「Need/Approach/Benefit/Competition」という4つの質問は、ユーザのニーズを起点にしてサービスを考え、「ユーザにとって何が利益なのか?競合はいるのか?」という観点に基づき検討を行うという、ビジネスにおけるきわめて基本的で本質的な原則ですが、本来なら、組織の誰もがこの原則を理解していて当然のはずなのに、実際には全員に共有されているケースがほとんどないのです。思考をする際に大切なのは、こうしたビジネスにおいて重要な点を概念化(Concept)し、それを自分たちの文脈に適用してみる(Apply)ことです。その上で、実際にどのような成果や反応が得られたのかを評価し(Assessment)、最後にその学びを次の改善に繋がるためにフィードバック(Feed back)することなのです。
Curtis氏は実際に「Need/Approach/Benefit/Competition」という思考のフレームワークを学習させたAIを作成し、このAIとの対話を通じて企画立案を行うというデモンストレーション行って見せました。会場のスクリーンには、最初にCurtis氏の入力した企画案が、AIとの対話を通じてブラシュアップされていく様が映し出されました。このようなシステムを組織の全員が使うようになれば、思考フレームワークを全員に伝播することができるのです。
前回、クスノキ・プロジェクトのワークショップにて作成したのは「知識を伝播するためのAI」でしたが、今回のドラッカー・フォーラムでCurtis氏が提案したのは「思考のフレームワークを伝播するためのAI」でした。知識が “点” であるならば、それを繋ぎ合わせる思考のフレームワークは、知識を繋ぎ合わせて “面” として捉える発想と言えるでしょうか。その意味で、非常に示唆を与えられたセッションでした。
不確実性の高まった現代では、状況に応じて膨大な情報を整理し、最適な選択肢をまさに走りながら考える必要があります。AIと協調して知識を探索し、思考を整理することで、ヒトは旧来的な仕事の在り方から解放され、社会の「文化」「意味」「目的」を生み出すという本質的な仕事に、より多くのエネルギーを振り向けることができるようになります。
こうした学びを踏まえ、次回以降のクスノキ・プロジェクトのワークショップの内容もアップデートをしてまいります。来年3月に開催する、ゴールド会員様限定のクスノキ・プロジェクトのイヴェントは、1月31日(土)に開催する「2026年・年頭記念講演会」から募集開始します。
是非、御申し込み下さい。
詳細とお申込みは今すぐこちらからどうぞ!(HPにジャンプします)
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※当ブログの記述内容は弊研究所の公式見解ではなく、執筆者の個人的見解です。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所・インターン生 髙橋こころ拝