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「華僑・華人ネットワーク」が織りなす世界史 〜中華圏ビジネスで成功するためのカギとは〜(IISIA研究員レポート Vol.66)

2021年も残りわずかとなる中、国際情勢においては北京冬季五輪をめぐる「外交ボイコット」による米中“角逐”が“演出”され、ロシア勢の軍事行動リスクが“喧伝”されているところで、『日本経済新聞』は去る12月19日の記事にて年末の世界の焦点を3つの「A」としてまとめている(参考)。

すなわち、その「A」とは、「米国勢(America)」、「同盟国(Allies)」、「専制主義(Autocracy)」ということだ。確かに、バイデン米政権は、ここにきて、コロナ対策、物価上昇、与野党対立という「三重苦」により支持が急降下しており、年末年始にかけて「米国勢(America)」が外交において起死回生策に打って出る可能性も考えられる。また、去る9月には米英豪による安全保障枠組み「AUKUS」、日米豪印戦略対話「クアッド」が発足した中で、12月には、米国防総省にて「AUKUS」の初会合が開催された。また、「クアッド」については、来年(2022年)に我が国で開催することで合意されたとの情報もあり、これら「同盟国(Allies)」の動きとそれに対する中国勢から何らかの“反抗”が“演出”される可能性も否定できない。他方で、去る12月9日〜10日にバイデン米大統領が主宰し、オンライン形式で行われた「民主主義サミット」についても、主宰者である米国勢自身の民主主義も危ういという中で、専門家からも「大山鳴動して鼠一匹」、「学会発表のようだった」など、冷ややかな反応がでており、「専制主義(Autocracy)」を含め非民主主義的なスキームが改めてハイライトされる気配すらある。

(図表:「学会発表」とも揶揄された「民主主義サミット」)

(出典:アルジャジーラ

もっとも、これら3つの「A」すべての根底に流れる動きこそ中国勢の動向であり、なかんずく、世界史上において多大な影響力を行使してきた、そして今もグローバル社会において影響力を誇示している「華僑・華人ネットワークのハイレヴェル」の意向に目を向けなければならないのではないだろうか。

(図表:「日本三大中華街」の一つである神戸・南京町)

(出典:筆者撮影)

例えば、米国勢との関係では、その成立の段階から、実際のところ華僑・華人ネットワークのハイレヴェルからの莫大な財政支援の下で、19世紀後半以降成り立ってきたとの歴史を持つ点がある。また、戦後つくられたブレトンウッズ体制は「金融・融資・貿易」の3本柱であったが、その背後には華僑・華人ネットワークのハイレヴェルが「中華民国」という形でそれぞれに対して深くコミットしたことが挙げられる。

米政界とのつながりも長く深い歴史がある。とくに、リチャード・ニクソン米大統領による電撃訪中以降は、中国共産党勢という意味でのチャイナ・ロビーの影響力も次第に増強している。トランプ前大統領が自身のSNS立ち上げのために設立した「デジタル・ワールド・アクイジション(DWAC)」にも、表向き、中国勢のメディア王ブルーノ・ウー氏も関与する形で、中国共産党勢によるチャイナ・マネーが流入していることも指摘されており、これはトランプ氏にとっても想定外であったとの情報もある(参考)。去る2020年の米大統領選は「ロシア・ゲート」が焦点となったが、来たる2024年の米大統領選では、あるいは「チャイナ・ゲート」が“喧伝”される展開も考えられる。

そもそも歴史上、中国大陸から海外への「移民ブーム」は3度あった(参考)。1回目のブームは、清朝の支配が安定し、急速に中国経済が発展して人口が増加した18世紀後半に到来した。この時、東南アジア勢や、一部は米国勢へ流出し、現在世界に分布する「チャイナ・タウン」の原型が形成された。中国近代史上最も激動の時期であった20世紀初頭には、2回目のブームが到来した。この時期には、貧困層の他、上流階級も広く世界に広がっていった。1970年代末頃には、鄧小平の指導体制の下で行われた「改革・開放」政策によって中国社会の近代化が始まると同時に、3回目のブームが到来した。彼らは、「新華僑」と呼ばれ、それ以前に流出した「老華僑」とは区別されている。階層も、「新華僑」は高学歴者、社会エリート、富裕層が多くを占めている。

他方で、我が国では、「老華僑」「新華僑」の時代的区分は、1990年代ともされている。実際、筆者が神戸・華僑より側聞した情報によると、それ以前は「老華僑」、以降は「新華僑」とされているのが実態であり、彼らは我が国における情報収集においても違いがあるという。すなわち、「老華僑」はほぼ我が国に同化し、情報も我が国のメディアから得ているが、他方で「新華僑」は我が国においても中国勢の検閲を経たソース、例えば、「WeChat」などからしか情報を得ておらず、いわば「洗脳」されている状態にあるという。それゆえ、とくに若い世代の「新華僑」をビジネス的に取り込むには、やはり「WeChat」などを活用して情報発信するのが有効となるとの由だ。

「グローバル・マクロ(国際的な資金循環)」というマクロ的な視点でも、他方で、我が国で中国ビジネスを展開するというミクロ的な視点でも、いずれにしても、華僑・華人ネットワークの動向がカギになる点に変わりはなく、このカギをつかむことで、あるいは今後の米中関係、そして世界の把握した上での「次の一手」を打ち出すことになるのではないか。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

原田 大靖 記す

前回のコラム:「ロシア・ゲート」に見え隠れする米リベラル系シンクタンクの影 (IISIA研究員レポート Vol.63)

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