インターネットという罠~何が未来のリスクなのか?~(IISIA研究員レポート Vol.67) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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インターネットという罠~何が未来のリスクなのか?~(IISIA研究員レポート Vol.67)

去る12月6日に行われた岸田首相の所信表明演説は、“デジタルの力”を強調する内容となった。「4.4兆円を投入し、地域が抱える、人口減少、高齢化、産業空洞化などの課題を、デジタルの力を活用することによって解決していきます」と述べたほか、「『デジタル田園都市国家構想』を推進します。デジタルによる地域活性化を進め、さらには、地方から国全体へ、ボトムアップの成長を実現していきます」とも付け加えている(参考)。こうした表明は、デジタル社会の恩恵とは、津々浦々、あまねく多くの人々のもとに届くものでなくてはならないという理想があることを示している。

では、全世界でどのくらいの人がサイバー空間に接続し、デジタルの恩恵を受けているのであろうか。統計調査データプラットフォームを提供するドイツ勢のStatistaの調査によると、去る2019年、世界においてインターネットを使う人々の数は約39億7,000万人であり、世界全体で半分以上の人がインターネット空間に接続している計算となる(参考)。こうしたインターネット普及を後押ししてきたものは、ここ20~30年間で各国勢において進められてきたIT戦略にあるといえる。米国勢では去る1990年代から高速回線を全米規模で張り巡らせることを目指した「情報スーパーハイウェイ」構想が進められ、この計画自体は最終的には頓挫することになるものの、のち民間によるインターネットの普及として具現化することになった他、我が国でも去る2000年にIT基本法が制定され、IT化が戦略的に進められるようになった。後発開発途上国(LDC:Least Developed Country)と呼ばれる特に開発が遅れた国々でも、インターネット普及が加速しているという実態がStatistaの調査によって明らかになっている(参考)。

(図表: Statistaによる調査報告書)

(出典:Statista

しかしながら、こうして社会のあらゆる分野でインターネットに依拠する構造にリスクはないのであろうか。そもそもインターネットとは限られた「信頼できる人」同士でやり取りされていた手段であるため、様々な「脆弱」性を持ち合わせているという指摘がなされてきた(参考)。また、インターネットは全世界で利用されているものではあるが、限られた少数の者によって管理されているという特徴があることはあまり知られていないのではないだろうか。例えば、インターネットセキュリティーは世界に散らばる7人の個人によって所有されるカギによって維持されているといわれ(参考)、またインターネット空間に存在するドメイン名から、数字で表されるIPアドレスへと導く「ドメインネームシステム」を動かす最上位に位置しているのは、全世界でわずか13のRoot DNSサーバである(参考)。

(図表:世界に存在する13のRoot DNSサーバ)

(出典:TEAM T3A

また、インターネットが全世界で普及している反面、誰もが自由にアクセス可能な「開かれたインターネット」に対しては多くの国々における「政体勢力」が反対しているという側面もある。つまり、インターネットとは意図的に国家によって遮断される可能性があるものだというリスクが常に存在しているのであり、去る2011年エジプト勢では反体制デモを封じるためにインターネットや携帯電話網を遮断し、社会が混乱に陥ったことがその一例である(参考)。

こうして見ると、インターネットに過度に依存する社会的なリスクも考えていく必要があり、その対策は各所において進められている。まず、インターネットが遮断されたエジプト勢に対して、インターネット接続環境がなくてもツイートを投稿できるサービスをグーグルやツイッターが提供すると発表していたことや(参考)、シャットダウンを回避してコミュニケーションできるツールなどが考案されていること(参考)が挙げられる。また、完全に非中央化された「新しいインターネット」(Decentralized Internet)を試みる米国勢のBlockstack社のような企業もある(参考)。さらに国家レベルでは、今年(2021年)4月、主要7か国(G7)のデジタル・技術相会合において、ネット検閲を強化している中国勢を想定して「分断のないインターネットの継続的な進化」について話し合いが行われた(参考)。

私たちの日常生活に深く入り込んでいるインターネットであるが、「インターネットが止まった時」も私たちは念頭に置いておかなければならないのである。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

倉持 正胤 記す

前回のコラム:中国の極超音速兵器は「ゲームチェンジャー」になるのか(IISIA研究員レポート Vol.62)

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