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2019年はどうやら「ニッポン孤立元年」となりそうだ。(続・連載「パックス・ジャポニカへの道」)


wadakura

昨日、フランス・パリから国際商業会議所(International Chamber of Commerce, ICC)の最高幹部がやって来るというので丸の内の御堀端で設宴した。彼と前回会ったのはパリでであったが、オーストラリア人らしく明るく挨拶してきた。

「この御堀端のレストランは大好きなのですよ」

キャリア外交官であった経歴を持つ同人は非常に快活な印象でありつつも、同時に嫌味の無い知性の持ち主でもある。まずはアイスブレイクの会話を経て、そのままストレートにテーマに入った。この辺りが私も徐々にグローバル・コミュニティ慣れしてきたなと齢40代半ばにしてようやく想う。

そして今回、私は驚くべきことを聞いた。ーーー私は政府間会合であるG20に並行して行われているグローバル・ビジネス・コミュニティの集まりであるB20に参画している。来年(2019年)は我が国がG20の議長国を務めるので(正確に言うならば今年(2018年)12月より)B20も我が国で一連の会合を我が国で開催することになるわけだが、その事務局を務めている経団連と来年に向けた段取りを話してきた結果、全くもって驚愕したよ、と彼は私に言ったのだ。

B20は2008年にリーマン・ショックが発生した直後、「緊急金融対応会合」として開催されたG20の姉妹会合としてすぐに立ち上げられた経緯がある。グローバル・ビジネス・コミュニティは国境を越えた存在だ。しかしG20は政府間会合である以上、「国別の利益」しか代弁しない。だからこそ、ICCらが音頭を取る形でこのB20というフレームワークを存分に使って、個別の国の利益にとらわれない、「全人類的な課題についての取り組み」を呼びかけてきたというわけなのだ。そしてこれをサポートするのがマッキンゼーやボストン・コンサルティングといったグローバル・コンサルティング・ファームなのである。そしてB20ではしっかりとした議論が行われるようにとの配慮から、当初より分科会(task force)が設置され、いくつかのテーマが取り上げられてきた。そしてこれらを取りまとめる形で全体会合が開催され、これを今度はG20に対して提言する(recommendation)という形がとられてきたのである。

ところが我が国は来年(2019年)、B20の会合を「全体会合」しか開かず、しかもグローバル・コンサルティング・ファームを一切招致しないのだという。これには本当に面食らった。なぜならばこの決断が事務局を務める経団連だけの意向ではなく、政府サイド、とりわけ経済産業省の意向であることは明らかなわけであるが、要するに「ニッポンはニッポン独自の政策提言を書きますので、他のグローバル・プレイヤーたちは傍観者でいて下さい、絡んでくる必要はないです」という排除通告であることは間違いないからである。経団連側が作成している2019年3月14・15日のB20全体会合(東京)のプログラム案を彼から見せてもらったが、要するに形だけ「国際会議」を開き、その実、“議論”は行わず、最後の最後に総理大臣がお出ましになってイヴェントは終わるというフォーマットになっていたのである。私は唖然として声が出なかったことを告白しておきたい。

要するに、である。我が国は「他の国やグローバル・プレイヤーからの“雑音”は聞く気が無い」というわけなのだ。我が国の安倍晋三政権はありとあらゆる国内問題について、こうした態度を世論に対して取り続けているが、これを今度は対外関係についても行うべきと忖度した事務局サイドが徹底した「部外者排除」を行ったのである。これまで議長国をつとめた国の中には中国やトルコといった一癖も二癖もある国々があった。しかしこれらの国であっても「タスクフォース(分科会)」を設置し、一応、ボトム・アップの議論をした結果としての「政策提言」を公表したものである。ところが来年(2019年)の我が国は違う。明らかに官僚が作文し、それを同じく「民間経済」官僚である経団連の職員たちが鉛筆を舐め舐めしながら書いたものが出て来るに違いないのである。これでグローバル社会と我が国の間には大きな溝が生じることは間違いないのだ。

実は既にそうした「齟齬」は生じているんだ、とパリからの彼は言った。

「例えば包含的(inclusiveness)」という単語がない」

聞くところによるとこれは米国勢がかねてよりこだわっているワーディングなのだという。多様性(diversity)をさらに発展させた単語だ。しかし、それを知ってか知らずか、事務局を務めている経団連ペーパーには一切記載がないのである。「これではとりわけ米国の連中との交渉が大変なんじゃないかと思うね」とアドヴァイスを受けた。グローバル・イシューを巡る文脈(narrative)を紡ぐバトンこそが「B20/G20議長国」になることなわけであるが、我が国では総理官邸以下、全くそうした全人類的な視点での見方が皆無だ。そうではなくて「おらが村で国際会議やってくれろ」とばかりに、国際会議とは百歩譲っても“地方創生”という、およそ内向きな論理によってだけこれを招致しているに過ぎないのである。元キャリア外交官として私は赤面するのを禁じえなかった。

「正直言って、私にとっては誰が総理大臣になるかなどということ、それから政治レヴェルでどういったステートメントが合意されるかなどということはどうでも良いことなのですよ。なぜならばあのお濠の向こう側こそが本当に重要なのですから、私にとっては。お仕えしている先が違うのです」

私はそう言った。「それは面白い、是非話の続きを聞かせてほしい。皇室は本当に力を持っているのか・・・」そう彼は訪ねてきた。

私は彼の笑みを見、ふと視線をテーブル左側の窓外へと向けた。雑然とした霞が関や永田町の手前に青々と茂る皇居の森が広がっている。質的に全く違う二つのニッポン。“このこと”を、彼は理解し、グローバル・コミュニティのリーダーシップたちに持って帰っていてくれるだろうか。ーーーそう想いながら、私は言葉を継ぎ、彼の質問に答えることにした。

 

2018年9月15日 東京・丸の内にて

原田 武夫記す

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