【IISIAインターン生が綴る】 働くことと学ぶことのはざまで―18回
【IISIAインターン生が綴る】働くことと学ぶことのはざまで―18回
「インターン生の夏休み―中国SFの世界を覗く」(武藤)
こんにちは。IISIAインターン生の武藤彰宏です。今年はオンライン授業の導入で混乱がありましたが、大学も8月上旬から9月中旬までの夏季休業に入りました。旅行にもなかなか行けないので、インターンとしてIISIAで働きつつ穏やかな夏休みの日々を過ごしています。
今回のコラムでは、私が最近読んだ『折りたたみ北京』(郝景芳、2014)という小説をご紹介します。主人公は老刀(ラオ・ダオ)という48歳の中年男性です。所得や出自に応じて3つの空間(スペース)に完全に隔絶された近未来の北京の街の最下層第3スペースで、彼は日々、上の世界から流入する廃棄物の処理の仕事をしています。3つの北京は2日間を3つに分けられ、まるで卓上カレンダーの様に「交替」しており、6000万もの住民たちの生活は催眠ガスが支配しています。物語は老刀が、ひとり娘糖糖(タンタン)の入学資金のために、上流階級の住む第1スペースへと手紙を運ぶという非合法の仕事を請け負うことから始まります。彼は3つの北京を行き来する中で、巨大な都市空間に隠された真実へと接近しますが、やがて「交替」のシステムには抗うことができないことを悟り、システムに翻弄されながらも、その中でより良い生活を求めて懸命に生きる姿が描かれます。
都市を3つのスペースに分けて「折りたたむ」という作品世界は全く突飛な発想ですが、現前として存在する厳しい経済格差や戸籍による不公平を巧みに織り込んだ表現となっており、妙なリアリティを感じさせます。実際の北京にも、「城中村」とよばれるスラムが存在していることが知られています。中でも安家楼という地区は、在中国日本大使館からほど近い場所にあることで有名です。都市と農村に分けられた中国の特殊な戸籍制度の下、都市戸籍を持つことが叶わぬ出稼ぎの人々が、都市という「城」の中の「村」に閉じ込められて生きる姿は、『折りたたみ北京』の老刀の姿に通じるところがあります。
しかし、私はこの作品が持つメタファーは必ずしも中国だけで意味を持つものではないと考えています。読了後思い出したのが、昨年、六本木で開かれた展覧会で出会った、会田誠氏の《neo出島》(会田誠、2018-2019)作品という作品です。著作権の都合で画像はお見せできませんが、霞が関の官庁街上空に、英語が流ちょうなグローバル・エリートだけが住むことができる現代版の出島(neo出島)を出現させた架空都市ジオラマです。異様に浮かび上がった出島の上には緑と光に溢れた土地が広がっていますが、その下には決して日が当たることはなく、灰色のビルが乱立する無機質な空間が広がっています。彼が描き出したグローバル・エリートの世界と土着の民の世界のコントラストは、さながら『折りたたみ北京』の世界観に共通した現代社会への批判的眼差しを感じさせました。
普段はあまりSFを読むことはないのですが、『折りたたみ北京』と《neo出島》という2つの作品に出合い、現代社会の持つ光と影を考えた夏休みとなりました。まもなくインターンを始めて半年が経ちますので、後期も引き続き「働くことと学ぶことのはざまで」様々な考えに触れていこうと思っています。
今回ご紹介した『折りたたみ北京』の詳細はこちらから
【筆者プロフィール】
武藤彰宏 都内の大学で教養学部に在籍中
好きな言葉は「待てば海路の日和あり」
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